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202109 44年の時間を遡ろうと、那覇から船で与論島へ

 昨年9月、那覇4泊5日のANAダイナミックパッケージが、2万円でお釣りがくる安さで予約できた。久しぶりの沖縄への旅。

 初日は夕方、泊(とまり)港近くのホテルにチェックイン。夕食は沖縄の珍しい魚を食べられると評判の店「いゆじ」へ。

 開店直後のためか、他にお客はいない。男性店主がひとりで仕切っている。メニューを見ても、カタカナで書かれた魚の名前は全く分からない。沖縄の人も食べなければ、漁師ですら食べない魚ばかりとのこと。そんな名もなき魚ばかり、しかもそれを漁師の言い値で買い続けて16年というから驚く。

 まずは刺身。ヤナクレ(コショウダイの仲間)、アカバニ(カマスの一種)、ヒラガラ、トゥカジャー。当然初見ばかり。どれも厚切り。薄切りだと醤油とワサビの味しかしないと手厳しい。噛むと魚の味が口中一杯に広がる。

 店主は泡盛にも一家言あり、勧められるまま泡盛を次々飲んだ。焼き魚と揚げ魚も美味しく、勘定も良心的。

 翌早朝、暗い中、タクシーで那覇港へ。乗船申込書を記入後、検温、手指消毒。与論までは奄美諸島割引で片道2870円。

 船は出航後、本島本部(もとぶ)港、与論島、沖永良部島(おきのえらぶじま)と奄美諸島をホッピングしながら、鹿児島へ行く。その下船港ごとに2等船室が割り振られていた。
 伊江島(いえじま)が近づくと本部港入港。その先は伊是名島(いぜなじま)、伊平屋島(いへやじま)を左に眺め、辺戸岬(へどみさき)を過ぎると、昼前に与論港入港。海は凄まじい青色。海中を泳ぐ魚の姿がはっきり見える。

 与論島へは学生時代、友人らと神戸から船で往復する安いツアーで来た。当時は艀(はしけ)で上陸したが、ひどく揺れて船酔いしたことを覚えている。

 宿に荷を置き、15分ほど歩いて島の中心部へ。昼ご飯を食べたいが、休業中の店も多い。大きめの居酒屋でパパイヤ炒め定食のランチ。

 食後、近くの店で軽自動車を借りた。44年ぶりに来たと話すと、店の人が、自分はまだ子供だったけど、民宿が100軒ほどあって、観光客が一杯来ていたのを覚えている、と笑った。

 すぐ行けば百合ヶ浜がまだ見えるかもしれないと言われ、行ってみた。干潮時のみ沖合に現れる百合ヶ浜は、残念ながらほとんど海中に沈んでいた。それにしても美しい海。

 与論城跡に立つサザンクロスタワーに登ると、島全体が見渡せた。サトウキビ畑と島を取り囲む青い海。南には沖縄本島、辺戸岬。北には間近に沖永良部島。Facebookで、今、与論島に来ていると呟いたら、沖永良部島の知人が、近くにいるんですね、手を振ったら見えるかもとメッセージをくれた。

 その沖永良部島にも鍾乳洞があったが、与論島にも赤崎鍾乳洞がある。500円の入場料を払って入ると、思った以上に中は広い。千枚田のあたりで躓(つまず)き、低い天井に頭をぶつけた。たんこぶから滲む血が止まらないので、念のため薬局で化膿止めを買った。

 翌日は与論民俗村を訪れた。同じ年頃の村長さんが自ら案内をして、民具の使い方などを丁寧に説明してくれた。今も民俗学の勉強を続けつつ、廃れゆく与論方言を後世に伝えるため小学校で授業もしておられ、前年にはアメリカで開かれた絶滅危機言語を伝える代表者の会合にも参加したという。

 それにしても、島内をいくら巡っていても、見覚えのある景色には出会えない。記憶に残っているのは、シュノーケルで初めて見た海中の様子、砂浜で探した星の砂、海の家でバイトしていた京都の女子大生、夜中にスナックで地元の若者と吞んでいて大げんかして表へ出ろと大騒ぎになったが結局は仲直りして酔い潰れたこと、ぐらいしかないのだから、島の風景など覚えていなくても、当然といえば当然か。

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