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純白の絶景を堪能する早春の北海道列車旅

ゆうゆう2023年3月号掲載

 3月上旬、東日本と北海道のJR全線5日間乗り放題パスで北海道へ向かった。出発直前に北海道は大雪に見舞われ、JRも道内各所で不通となり、行けるのか心配したが、何とか回復。出発前にはPCR検査も済ませた。

 新青森から先の北海道新幹線区間は、実は初乗車。新函館から、北斗、ライラックと特急を乗り継ぎ、初日は旭川泊まり。安くて旨い名物の塩ホルモンを焼いて、数十年ぶりの北海道列車旅初日をひとり祝った。

 翌日は、特急オホーツクで網走へ。網走駅から港へ向かうタクシーのドライバーは、先日の大雪で、列車だけでなく、道路も通行止めになり、街中が雪に閉じ込められたと話してくれた。

 昼食後、網走流氷観光砕氷船「おーろら」に乗船。今日は幸いなことに沖合に流氷が来ている。出航すると、流氷が漂う一帯へ。大きな氷の塊を舳先で砕きながら突き進む。と、船内放送。
「オオワシが見えます」

 天然記念物の希少野生動物。流氷の上に一羽。黒い羽毛に純白のライン、そして黄色の嘴(くちばし)。船客全員の視線を集める中、悠然と飛び立っていった。

 網走駅に戻り、1両きりの気動車で川湯温泉まで移動。温泉街ではなく、駅前の温泉ホテルに宿泊。これが正解だった。温泉は自家源泉の重曹泉。ツルツルの美人湯系だ。内湯は惜しげもなくざあざあと源泉掛け流し。寒い中、思い切って館外の露天風呂に行ってみると、豪快な岩風呂。脱衣所で裸になり震えながら、広い湯舟に飛び込めば、ひとり貸切で極楽気分。安い宿泊料金ながら、食事も盛りだくさん、熱いものは熱いうちに出してくれて、大満足。

 翌日は、バスで川湯温泉街へ向かい、エコミュージアムセンター、大相撲記念館を見学した。川湯は大横綱、大鵬の出身地である。館内を見て回ると、古い新聞記事が掲示してある。そこには、大鵬の父親の故郷がウクライナのハリコフとあった。大鵬自身は、様々な形でウクライナとの交流に努めていたようだ。ロシア軍侵攻のニュース直後だけに、明瞭に記憶に刻まれた。

 川湯温泉から標茶(しべちゃ)へ。ここでSL冬の湿原号に乗り換えた。蒸気機関車は故障修理中のため、残念ながらディーゼル機関車が牽引。指定席は、木の床、片隅にストーブが置かれた客車だった。津軽のストーブ列車はスルメを焼くが、ここではシシャモを焼いていた。

 車窓には雪で覆われた釧路湿原。時折、エゾシカやタンチョウヅルが見られる。いつ現れるか分からないから、撮影するのは結構難しい。

 終点釧路で特急おおぞらに乗り換え、この日は帯広に宿泊。旭川でも、コロナ禍のため休業している飲食店が多かったが、帯広はそれ以上に店が開いていなかった。事前に目星を付けておいた良さそうな店は軒並み休業中。たまに営業している居酒屋があると、大繁盛で密状態。そういう店には入りたくない。しょうがないので、ホテル近くの洋食店のような「じんや」という店に入ってみた。客は誰もいない。

 カウンター端の席について、とりあえず生ビール。落ち着いて店内を見回せば、エレキギターがたくさん吊ってある。アンプもいろいろ置いてある。そして壁には、ビートルズ、ジミヘン、ストーンズの写真。へえ、店主の趣味かなと思い、話しかけてみたら、その通りで、話が弾んで止まらない。さらに、日本酒のラインナップが素晴らしい。ただ、秋田の山本がメニューにないので、山本の社長はビートルズ大好きで、酒蔵にはイエローサブマリンなどが飾られ、ビートルズナンバーがBGMだと教えたら、以前から気になっていたという。次に来た時にはメニューに入ってるに違いない。こういう出会いがあるから、旅はやめられない。

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