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最北の島のさらに北の果て、一軒宿で味わう最南端の酒

 6月半ば、礼文島の北の果て、スコトン岬近くの一軒宿、星観荘を常連客の友人と再訪した。前年に初めて泊まったが、やむを得ぬ事情があり、先の予定をキャンセルして帰らざるを得なかった。いわば、仕切り直しの旅。

 小さな宿だが、コロナ対策のため、宿泊者数をさらに絞っていた。もちろん、マスク着用、手指消毒、夕朝食前の検温を実施中。客の側としても、ワクチン接種と事前のPCR検査を済ませてきた。男女別相部屋が基本だが、友人と2人で個室を割り当てられた。

 ソイ昆布〆、焼きホッケ、一汐ウニなどが並ぶ夕食を終えると、恒例のミーティング。常連さんが多く、20年、30年のリピーターもいる。不便な立地のため、滞在中の行動が不自由かと思いきや、実はそうでもない。自己紹介の後、各自、翌日の行動予定を伝えると、それに応じて、宿の送迎車が、朝は希望の場所まで送り、夕方指定場所で拾ってくれる。島内を歩くにはほぼ事足りる。

 翌日、島の中央部を横切って宇遠内(うえんない)という西海岸の集落まで歩いた。礼文島の6月は花の季節。レブンウスユキソウ、チシマフウロ、エゾカンゾウ、チシマキンレイカなど、撮影の手を休めるヒマがない。西海岸の海が見える頃、岩場に黄色いフタナミソウを見つけた。礼文島の固有種で絶滅危惧種に指定される希少な花。初めて見るので少々興奮気味。

 海岸へ出ると、わずか数戸の集落。人の気配はない。たった1軒、食堂兼土産物屋として営業していた店もコロナのため前年から休業と聞いていた。海を眺めて一服していると、店から女性が出てきた。小樽や浜中にも家があり、夏は漁のため宇遠内で暮らしてきたそうだ。1袋400円のワカメを分けてくれた。

 礼文林道まで戻り、延々と上り下りを繰り返し、やっと香深(かふか)の町へ辿り着いた。港近くの立ち寄り温泉、うすゆきの湯で一風呂。露天風呂の正面には利尻富士がきりっと聳えていた。

 帰りの車には、今日の船で着いた女性2人が乗っていたが、どちらも常連さん。この日、ミーティング後に、宿主ヒコさんが振る舞ってくれたのは泡盛。「波声」を「はごえ」と読む。礼文島と与那国島、姉妹都市交流の一環として、礼文島の水を与那国島の酒蔵で仕込んだ誕生間もない泡盛。しっかり旨味のある美味しい酒だった。

 翌早朝は濃い霧に包まれていた。朝食後、晴れ上がった青空の下、この日はレブンアツモリソウ群生地で下車。5月に開花して、そろそろ終末期。柵で囲われた群生地では、独特の乳白色の花にシミが浮き出していた。

 近くの桜並木を歩いてみた。6月というのに桜がまだ咲いている。さらに歩いて、船泊(ふなどまり)の集落へ。海岸の一角に、レブンアツモリソウ自生地があるとは知らなかった。

 旅行者にも人気の双葉食堂でラーメンを食べながら、今はない免田旅館のことを聞いてみた。35年前に初めて礼文島に来た際に泊まった宿。食堂の並びに立っていて、女将さんは学校の先生だったという。取材時に昔話をあれこれ聞かせていただいたが、どうりでお話が上手だったわけだ。

 漁協売店で土産物をあれこれ買って自宅へ送ってから、タクシーを呼んで宿に戻った。食堂に置かれた1本のアコースティックギター。前年はチューニングだけして、弾けずじまいで、それが心残りだった。

 宿の外に、ウッドデッキ。切り株に腰を下ろし、まっすぐ岬に向かえば、海が見える。その海に向かって、思う存分、ギターを弾き、歌った。

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