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この美しき残酷な世界では

世界は残酷だ。
それでいて理不尽だ。

中学生の時、同級生数人と友人宅で悪さをしていたら学校にバレた事がある。
我々を呼び出した生徒指導の男性教師は、一通り説教が終わると
「お前ら!歯を食いしばれ!」
と一列に並ぶ我々に言い放った。

今と違い、普通に体罰なんてものがあった時代である。
およそ想像した通り、一番左端に並んでいた松永は右頬を思いっきり叩かれた。
狭い宿直室で響く音。
「もう何秒後には自分の番だ」と恐れおののく残りの面々。

間髪入れずにまたバシンと音が響く。
次の被害者は二番目に並んでいた田中(こちらを参照)だ。
頬がみるみるうちに赤くなっていく。
残り三人。
このまま順当にいけば次の次で僕は体罰を受ける事になる。
どうしてこんな事になったのだろう。
というか、もうこの時点で僕は反省している。
間違いなくこの中で一番反省している。
まさに反省オブザイヤー。今年一番反省した人だ。
それに僕は人の振り見て我が振り直せる子だ。賢い子だ。わざわざ叩かれなくても学習している。
もういいだろう。ビンタの必要なしだ。
免除してくれないだろうか。先に叩かれた彼らの犠牲はけして無駄にはしない。

そんな都合の良い事を考えている間に僕のすぐ横で橋本が頬を叩かれる。

いよいよ僕の番だ。
過去の思い出が走馬灯のように蘇る。

ドラクエの冒険の書が全部消えて弟に八つ当たりして泣かせたこと。

全然調子に乗ってないのに「調子に乗るなよ」と上級生に胸倉を掴まれたこと。

クラスの女子に「わたし、佐藤君の事、別に全然好きじゃないよ?」と告白もしてないのに何故か突然フラれたこと。


嗚呼。

恥の多い生涯を送って来ました。

こんなときに思い出すのは、なんてことない、くだらない日常だ。

ああいう日々を幸せと呼ぶんだろうな。でも、もう駄目だ。
母さん、父さん、弟、モモ(飼ってた犬)。僕は今日、ビンタをされる。でもまぁ悪いのは僕だ。

もういい。やるなら一思いにやれ。こんなに反省しているのに。このクソ教師。この事は一生忘れないからな。夜道には気をつけろ。

全てを諦めかけたそのとき。

生徒指導の教師は右手をプラプラさせながら舌打ち交じりに
「まったく…、もういい!教室に帰れ!」
と背を向けた。

そのときの頬を叩かれた三人の顔はきっと一生忘れられない。
そして僕の隣でもう一人を難を逃れた山下は心底ホッとした顔をしていて、その顔も忘れられない。
僕もきっと同じ顔をしていただろう。
手が痛くて辞めるくらいならはじめからやんなきゃいいのに。
その日の帰り、「お前らずるいよな」と不満たらたらの三人に山下と二人でなんとなくコーラを奢った。


幸福も不幸も皆平等ではない。
何センチも開いていない距離に居ても、
頬を叩かれる人間と叩かれない人間がいるように、
命を繋ぐものと命を落とすものだっている。
その理不尽さと残酷さを僕らはずっと見てきた。
蝉に群がる蟻の大群。
蝶を捕食するカマキリ。
そして他の命を食べて生きる我々人間。
意識しないように、見て見ぬふりをしても現実として確かに其処に在った。
どんなに目を背けても。
どんなに耳を塞いでも。
其処に在り続ける。
その残酷な世界と、
ときに向き合い。
ときに受け入れ。
ときに戦いながら僕らは生きていくしかないのだ。

だって仕方無い。

世界は残酷なのだから。

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大好きな漫画「進撃の巨人」の10周年記念という事で。
テーマに沿って記事を書くのは正直言って
「出来んのか?俺」
と不安ではあったが、
それでも連載開始当時からずっと主人公達の物語を追ってきた身とあっては流石に黙っているワケにもいかないと思い
(いや別に黙っててもいいんだけど)、
本当に大好きな作品だからこそ、ちょっと頑張った。頑張って書いた。
頑張って書いたので誰でもいいから褒めてほしい。最悪、誰も褒めてくれなくても鏡に向かって褒めるからいいけど。いつものように。
この10年間、こんなに素晴らしい作品と共に生きられた事を光栄に思う。
今現在の展開から繋がるとされている、このラストシーンが今から楽しみだ。
諌山先生、ありがとうございます。


そして、僕と山下の代わりに殴られた松永、田中、橋本。

お前らもありがとな。

お金は好きです。