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走れエロス

酷いタイトルだな。まぁいいや。

僕はおっさんである。
そして僕というおっさんは「僕はおっさんである」という事を客観的に理解しているおっさんである。
故に何かしらの言動、行動をする際には“おっさんとしての節度”は超えていないかという事を常に意識している。

例えば言葉遣い一つとっても、
思わず口をついて出そうになる「超」とか「やばい」とか「超やばい」などといった言葉はなるべく控え、
「遺憾」とか「左様」とか「所存」のような、いかにも大人が使いそうな単語を用いるようにしているし、
何気ない会話をする際の話題選びにも細心の注意を払っている。
株価や国際情勢について語り、たまにウィットに富んだジョークなんかも挟みつつ場を和ませることも大切だ。
けっして
「なんか最近オススメのアニメない?」
とか
「ロマサガ3のHDリマスター版出るって!超やばいよね!」
なんて話はしてはいけない。
おっさんとしての節度を欠いているからだ。学生の休み時間じゃないんだから。

このおっさんとしての節度云々というのは何もビジネスシーンだけの話ではない。
「おっさんのくせにLUSHのバスボムなんて買って店員さんに後で笑われないだろうか」
「おっさんのくせにニューエラのキャップなんか被っちゃって若者から白い目で見られないだろうか」
「おっさんのくせに朝シャンなんかして来月から水道料金を上げられたりしないだろうか」
と気にしだしたらキリがないが、仕方ない。
何故なら僕はおっさんだから。

しかし、抑圧されると反発してしまうのが人の性というものである。
勿論、それは僕だって例外ではない。

先日の事だ。
魔が差した、とでも言えばいいのだろうか。
つい、コンビニでタピオカドリンクを買ってしまった。
僕が常々気にしている“おっさんとしての節度”を優に超えた行動だ。
まさに、おっさんのくせに。だ。
商品が目に入った瞬間は別段なんとも思わなかったのだが、
「そういえば飲んだことないな」
「どんな感じなんだろう」
と好奇心がむくむくと頭をもたげてきて、気づくと商品を手に取っていた。
店員さんが男性だけという事を確認するや否や足早にレジに向かい、何食わぬ顔で会計を済ませ、購入後は逃げるように店を出た。
ワクワクとドキドキと、何処から来るのかわからないほんの少しの罪悪感を抱え
「なんか道行くすべての人々から見咎められている気がする…」
と謎の強迫観念に駆られながらも、久々に味わうこの感覚に心地よい懐かしさも感じていた。
ここまで読んでくださった男性諸君も身に覚えがあるだろう。

初めてエロ本を買ったときの、あの感覚である。

中学生になって間もない頃の話だ。
事の発端は同じクラスの木村が
「エロ本を買える本屋を見つけた」
と目をキラキラさせながら言い出した事だった。
なんでもそこは老夫婦が個人で経営している小さな書店らしく、
・相手がお爺ちゃんかお婆ちゃんなので羞恥心がいくらか緩和される
・面倒なのかいちいち年齢確認もしてこない
・品揃えがそれなりに豊富
との事だった。
いつもつるんでいた僕と数人の友人は騒然となり、
即座に作戦会議が開かれた結果、次の日曜日にみんなで買いに行こうという流れになった。
宿題は一向にやろうとする気配もないのに、こういうのだけはやたらと行動が早いのは何故なのだろう。

さて。当日。
待ち合わせ場所に集合した我々は意気揚々と件の本屋へと足を踏み入れた。
テンション的には戦地へと赴く勇敢な兵士のそれであった。
最初は友人と一緒にいる手前、気恥ずかしさもあって全員なかなかエロコーナーへ行けず、
ひたすらモジモジしながら漫画コーナーで二の足を踏んでいたのだが(どこが勇敢な兵士だ)、
言い出しっぺの木村が意を決してエロコーナーへずんずんと進み、
一冊のエロ本を無造作に掴みレジに向かった事で戦況は一気に傾く。
それぞれがおもむろにエロ本をレジに持っていき、
最後の一人が会計を終えた瞬間に飛び出すようにして店を後にした我々は自転車を思い切り漕いで近くの空き地へと向かった。
そこで戦利品を披露しあったのだが、
やはり気恥ずかしさからまじまじと選別できなかった故に全員が訳の分からないチョイスになっており、
その中でもクラスメートの田中が買った、表紙がやけに劇画調な「スーパーエロス」という身も蓋もないタイトルの雑誌には度肝を抜かれた。
あまりに衝撃的過ぎて数日間「スーパーエロス 田中」という芸名がついたくらいだ。
嫌だったろうなぁ。あいつ。あいつっていうか、スーパーエロス 田中。
無論、田中だけではなく
「レモンクラブ 木村」
「バズーカ 藤本」
「ばんがいち 多田」
など、数々の素晴らしい芸名が生まれたが、やはりスーパーエロスには誰一人敵わなかった。
おいしいなぁ。あいつ。あいつっていうか、スーパーエロス 田中。(すみません、もう言いたいだけです)
そうしてみんなでゲラゲラとひとしきり笑い合って、ようやく我々は帰路に就いた。
みんなと別れた後、自宅に向かう道すがら先述したような感覚を覚えたものだ。

なんか、それを鮮明に思い出したのだ。

タピオカドリンクで過去のエロスの思い出が蘇る。

すごいなタピオカ。
これがタピオカの効果か。そりゃ売れるわけだ。

ふと思う。
自意識の塊だったあの頃の僕が
「美味しいなこれ…」と独り言を呟きながらタピオカドリンクをちゅーちゅー吸う二十年後の自分を見たらどう思うのだろうか。
やはりがっかりするのだろうか。
おっさんのくせに、と軽蔑するだろうか。
「こんな大人になんかなりたくない」なんて若手パンクバンドみたいな事を言うのだろうか。
でも僕は本質的な部分ではあの頃と何も変わってないんじゃないかと思う。
今でも僕はあの日の気持ちを忘れてなんかいないし、
なんなら時を経た今、あの日と同じ気持ちとタピオカを確かに噛みしめているのだから。(タピオカどうでもいい)

そして、あの頃の僕にこれだけは伝えたい。


「おい、快楽天 佐藤!ロマサガ3のHDリマスター版出るぞ!超やばくね!?」

と。


しかし酷いタイトルだな。ほんと。

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