おかあさんへ
おかあさんへ
先日、私がお父さんと弟とおかあさんと一緒に過ごした場所を訪れました。そうです。お父さんとおかあさんが離婚する前にいた場所です。あの場所にいた時、お父さんとおかあさんはずっと喧嘩をしていましたね。私はそれをずっと聞いていました。そんな場所になんとなく行きたくなりました。本当にそれだけの場所だったのか。両親の仲悪さを見せつけられるだけの場所だったのか、確かめたかったのです。
10年ぶりに訪れるその場所は、背丈が変わった今、とても小さく見えました。まるでジオラマを踏み荒らしているかのような感覚があり、少し緊張感がありました。だけど案外変わり映えしていなかったです。工場と川の匂いが混ざった独特な匂いも、お父さんによく連れて行ってもらったさびれたゲームセンターも、雪だるまを作った小さな公園も、そのまま残っていました。
それでも、変わってしまった場所もありました。団地の中の大きな滑り台や、近くにあったラーメン屋は無くなっていました。
この街は、よりよくあるために選択してるんだなと思います。怪我をしやすそうな危ない大きな滑り台は無くなるし、美味しくないラーメン屋さんは潰れます。街に寄り添い続けるゲームセンターやそれなりに安全に遊べる公園は残り続けます。
街さえもアップデートしているのに、私はあなたから受けた心の傷をずうっと引きずっています。
嫌な思い出ばかりでした。
…果たしてそうでしょうか?
ワクワクしながら歩いた通学路も、楽しかった学校も、初めて綺麗だと感じた桜並木も、全部無かったことになるんでしょうか。
そうじゃないと思うんですよ。
そうじゃなかった。好きだったものみんな残ってました。
大好きだった大きな滑り台は無くなっていたけど…あの場所に立った時確かにあったと思い出しました。
大好きだったはずなのに。嬉しくて楽しかったはずなのに。
そんな思い出はとっても儚いものです。
どれだけ辛いことがあっても、良い思い出が消えてなくなったりはしないのに。
私はこの場所が好きだったんだ、と。
いかやきを食べながらそんなことを思いました。
あなたはどうでしょうか?
いつになったら私から脱却するんですか?
私があなたにかけた呪いは、あなたが大嫌いな初音ミクがとかしてくれました。
あなたはどうでしょう?
小さくなった街は、それでも廻り続ける。
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