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お一人様の宝探し

巷では女子とはつるむ生き物だと言われている。

トイレに行くのもご飯を食べるのもぞろぞろと連なって移動する。

一方で最近では、そんなつるみ女子とは正反対の、何をするのも一人で平気な、お一人様と呼ばれる女子もいる。

何をかくそう、私は、その、お一人様女子だ。

それもかなりの筋金入りである。


私は実家に住んでいるのだが、両親が離婚しているため、父親とは一緒に暮らしていない。弟がいるが、就職を機に実家を出て東京で一人暮らしをしている。弟が家を出てからは、母と祖母と私の三人でこの家に住んでいたのだが、二年ほど前に二人とも他界してしまった。


結婚もしておらず、もちろん子供もおらず、彼氏もいないので、それはそれは半端ないお一人様率だ。

そんじょそこらのお一人様ではとても太刀打ちできまい。

と、こんな話をすると周りから痛く心配される。

誰かいい人いないの? 早く結婚した方がいいんじゃない? せめて彼氏は作った方がいいよ? などなど。

私の母はとても用心深い人だった。失敗することは恥だと思っていて、そうならないために、それはそれは用意周到に準備をしていた。そして子供にも失敗をさせまいと、必要なものは全部準備して与えて、進む方向まで全て指示した。

母といると安心だし、とても楽だった。

自分で考えなくていいし、自分で決めなくていいからだ。

だけどどこかつまらなかった。


母から宝のありかを教えられて、ただそれを取りに行くだけ。初めから結果が分かっていて、それを淡々とこなしていくだけ。

あたかもトイレに行くのもご飯を食べるのも、とりあえずみんなと同じことをして安心しているつるみ女子たちのように。


そういう毎日を過ごすのが当たり前になっていたから、母が亡くなった時には目の前が真っ暗で何もわからなくなった。

昨日と同じ今日が続いていくはずが、落とし穴に落ちて、たった一人全く違う世界に飛ばされてしまったかのようだった。


新しい世界では前もって必要なものを準備してくれる人はいない。

宝のありかを教えてくれる人もいない。

ここから私の修行のような毎日が始まった。


小学校三年生で引っ越して来てから家族でずっと住んでいた家だったのだが、管理は全て母がしていた。母の葬儀で使う数珠すらどこにあるかわからない。


まずは家の中にあるものを把握するために断捨離と遺品整理に取り掛かった。

用心深かった母は片付けの上手な人だったが、物が捨てられない人だった。今は使わないけれど、いつか使う時がくるだろうとありとあらゆる物が使われずに大事にしまってあった。

片付けが上手なことが仇となり、このスペースにどうやってこれだけのものを? と言いたくなるような量だった。


気の遠くなるような作業だったが一つ一つのモノに向き合い、整理していった。

全て終わるのに半年程費やした。後になって、お金を払えば数日で遺品を整理してくれるサービスがあることを知った時は拍子抜けしたが、今思えばあの半年間が私がお一人様で生きていくための土台を作ってくれた気がする。


そしてもう一つは車の運転だ。

免許自体は大学生の時にとっていたのだが、十年以上ペーパードライバーだった。運転中は当然のことながら全て自分で判断しなければならない。自分に自信がなく母の指示がないと動けない私に運転はハードルが高すぎた。


しかし母が亡くなり、グループホームにいる祖母のところへ面会や手続きで頻繁に通う必要が出て来た。それまでは運転するくらいなら……と自転車と公共交通機関を使っていたが、距離的にそれは厳しく否が応でも車を運転しなければならない事態が訪れた。


その頃転職したばかりで、仕事になかなか慣れることができず、ほぼ毎日終電で帰宅していたため、夜な夜な近所の二十四時間営業の飲食店の駐車場で一人運転の練習をした。


初めは祖母のいるグループホームにしか行くことができなかったが、そのうち距離が少しずつ伸びてきて、今ではグーグルのナビを駆使して行ったことのないところへも行けるようになった。行動範囲がぐんと広がって、新しい出会いや経験がどんどん増えたし、お一人様力がさらに上がった。


私は何にもできないことを思い知らされたが、やればできることもわかった。

カンニングペーパーもワープも使わず、自分の力で探してこそ素晴らしい宝を見つけることができる。

できないと気付いた時、それは素晴らしい宝に出会えるチャンスなのだ。


お一人様をやってると、そこかしこに転がっているチャンスに気がつきやすいのだと思う。だからお一人様はやめられないのだ。


そして今、私は文章がどうしようもなく書けないことに気がついてしまった。そんな時にこの天狼院のライティング講座というチャンスが転がっていたのだ!

今回の宝探しも一筋縄ではいかないらしい。その証拠に初っ端の課題が締め切りに間に合わなかった。


でもこの先にある宝はきっと今までで一番素晴らしいものになる予感しかしない。4ヶ月間で必ずその宝を手にできるように全力を尽くそうと思う。

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