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逆転検事 ヤンマガ版未発表脚本17

時の館の逆転(1)

《登場人物》
・御剣怜侍(みつるぎ・れいじ)……検事局始まって以来の天才検事
・糸鋸圭介(いとのこぎり・けいすけ)……所轄署で殺人の初動捜査を担当している刑事、御剣とは旧知の仲
・時田針之輔(ときた・しんのすけ)……高級時計メーカー《トキタ》の創始者であり、現会長、脚が悪く車椅子の生活を余儀なくされている、コレクションルームはアンティークな柱時計や置時計であふれかえっている、規律に厳しくとくに時間にはうるさい、77歳
・時田龍頭(ときた・りゅうず)……針之輔の長男、《トキタ》社長、経営不振の打開策として会社を売却しようと考えている、何事にもルーズな性格、被害者
・幸丸事郎(ゆきまる・じろう)……針之輔の身の回りの世話をしている執事

▼シーン1

 土曜日の夜(壁に貼られた月めくりのカレンダー。土曜日の欄に《喜寿祝い》と記されていることから、それがわかる)。
 豪邸の大広間。壁の大時計は午後10時55分を示している。
 時田針之輔の喜寿を祝うパーティー。テーブルには豪華な酒と御馳走。大勢の客でにぎわっている。客の応対に追われる執事の幸丸。
 しかし、主役の針之輔(車椅子に乗っている)はどこか上の空。窓のそばにたたずみ、何度も外の様子を確認している。
 駐車場に車のライト。それを見て、緊張した表情を浮かべる針之輔。

〈幸丸〉[針之助に近づき、首からぶら下げた懐中時計を確認して]「旦那様。あと2分で11時になりますが」
〈針之輔〉「ああ、わかっておる」[車椅子に手をかけ、客に向かって]「ではみんな、すまないが、ワシは30分ほど席をはずさせてもらうよ」[上着のポケットから巻き鍵(写真参照)がいくつもぶら下がった鍵束を取り出し]「ワシの大切な子供たちに命を与える時間なのでな」

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〈客〉「子供たちに命を?」
〈針之輔〉「時計のゼンマイを巻くのだよ」

 にっこりと微笑み、大広間から立ち去る針之輔。
 廊下に出たとたん、針之輔の顔から笑顔が消え失せる。
 あたりに人影がないことを確認して携帯電話を取り出す針之輔。

〈針之輔〉「もしもし――龍頭だな? そこで待っていろ。大切な話がある」

▼シーン2

 駐車場。
 派手なスポーツカーの前で煙草をくゆらせる龍頭。左腕には古めかしい時計をはめている。
 車椅子に乗った針之輔が近づく。

〈針之輔〉「待たせたな」
〈龍頭〉「なんだよ、父さん。こんなところで待たせてさ。オレ、腹ぺこなんだぜ。せっかく来てやったんだ。早くうまい飯を食わせてくれよ」
〈針之輔〉「おまえ、9時半までには来ると話してなかったか?」
〈龍頭〉「悪い、悪い。会議が長引いちゃってさ」
〈針之輔〉「ふん。見え透いた言い訳を。今夜の集まりがどれだけ大切なものか、理解していないわけではないだろう?」
〈龍頭〉「大げさな。たかが父さんの誕生パーティーじゃないか」
〈針之輔〉「バカ者。喜寿祝いだ。各界の著名人が大勢駆けつけてくれた。《トキタ》の時計をアピールする最大のチャンスなのだぞ。そんなときに社長であるおまえが遅刻してどうする?」
〈龍頭〉「だから、謝ってるだろう?」
〈針之輔〉「まったく……おまえのルーズさにはほとほと呆れるよ。そんなことだから会社の業績も悪化する一方なんだ。おまえに会社を任せるのは、やはりまだ早すぎたのかもしれないな」
〈龍頭〉「いや、父さん。もう心配はいらないって。喜んでくれ。ようやく会社の買い手が見つかりそうなんだ」
〈針之輔〉「ああ、そうらしいな。常務から連絡をもらって驚いたよ。ワシの作り上げた会社をめちゃくちゃにした上、今度は手放すだと? そんな勝手なこと、許すものか」

 龍頭が持っていたシガレットケースを奪い、地面に叩きつける針之輔。

〈龍頭〉「あ……なにすんだよ」

 針之輔の足もとに屈みこむ龍頭。その隙を見計らって、針之輔は隠し持っていた鉄パイプを振り上げる。
 後頭部を殴りつけて殺害。針之輔、動かなくなった龍頭の上着から財布を抜き取り、さらに彼がはめていたアンティーク時計も取り外してしまう。

                           つづく

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