告白



      告白

 皆さんは唇の先が軽く触れるような甘酸っぱい青春の味がする初々しい淡い口付けか数秒間互いが互いを離さない確かな愛が感ぜられる情熱的で濃密な邃い味わいの口付けかどちらかを選ぶものとして、どちらを選びますか?

 因みに私といたしましては……と公に示したい気持ちもあるにはあるのですが、あえてここで明言するということは控えさせていただきます。後々明かす機会があるならば後世の記録に残すことになるでしょう。

 数日程前、いつものように過ごしておりましたところ、突然麗しい乙女から手を握られ、引っ張られ、数秒の間手の甲に情熱的な口付けをされました。

 突然のことで一瞬驚きましたが、冷静になって聞いてみたところ私のことを好きと言うではありませんか。

 抑女性が口付けをするときというのは恋愛感情があるとき、あるいは夜の大人の仕事を行っているとき、あるいは挨拶の一環として行うときなどがあります。ごく稀に恋愛感情がなく人として好きだからという理由で好きな人に口付けをする者もおりますが、私に口付けをしたのはなり振り構わず口付けをするような人ではありません。夜の大人の仕事をしている人でもなければ、挨拶に口付けや抱擁をする国の者でもありません。その証拠と言っては些か軽微ではありますが、その女性が私以外に口付けをしているところを見たことがないのです。私がその場にいない時に口付けをしているということも考えられますが、その場合は周囲が噂するはずですから、噂がないことを鑑みるに恐らくは口付けというものは私にのみ行われたのでしょう。また、挨拶としての口付けをするならば毎回口付けを行うのが道理ではありますが、私が口付けをされたのはこれが初めてであります。最後に夜の大人の仕事の件ですが、現在のところその女性は夜の大人の仕事に就くことはできません。その理由については後々明らかになるものでありますので、ここではあえて触れないでおきます。

 かくいう私はというと男であり、女性とは感性が違うところもあるため同じであるとは定義できませんが、口付けはたとえ自分が好きな女性であっても公衆の面前で行うことは少なからず憚られるものであります。そのような中、今回私に口付けをした女性は人目を気にせず口付けをしたということで何か特別な意味を含んでいると思わずにはいられません。殊、魚においても口付けというものは喜ばしいものであるという話がありますから人間の男女の間においてはなおのこと異性からの口付けを喜ばしく感じる人間は数多く存在していることと思われます。

 ここ暫く女性にここまでの明確な好意を寄せられたことがない私といたしましては、これが今生における女性からの最後の告白かもしれないと同時に女性からの勇気ある告白は非常に有難く感ぜられました。ですので私を選んでいただいた喜びですぐさま双方にとって良い返事をしようと思い立ちました。何せ私も古来より受け継がれし女の喜ぶを見て嬉しく感じる心を持つ男の端くれでありますから。しかし、私も分別のある大人のうちの一人。であるが故に女性を真に思い大切にしたいというのであれば、しばし考えた後に返事をすべきであるとも思いましたのでその女性には返事は保留とする旨を伝えてその場は終わりました。

 私といたしましては諸々の問題がないならば今すぐにでも恋人の契りなるものを交わしたいと思ったものですが、相手の女性の手前、十数年の長考の末にようやくの返事をしようかと思います。

 ここで女性からの告白が最後かもしれないというのに十数年悩むなどありえないとお思いの方もいらっしゃると思いますので、最後に一言添えておきます。

 いかんせん相手は幼いものですから



規制が緩かった時代にありそうな感じの作品にしてみました。

※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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