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ショッピングはエンタメ

先日、長らく身を置いていたアパレル業界から離れた。

ファッションが好きだからという安易な理由で始めたわりに、かれこれ8年近くアパレルをやっていた。その間に色んなことに関わったが、主軸はずっと店頭での販売だった。

私は接客が苦手だ。自分ではずっとそう思っている。8年やっても上手くできたと思ったことは、ほぼ1回もない。そもそも初めましての人と話すのに、抵抗があるし、のちの友人であれ、お客様であれ、仲良くなるのにも時間がかかる。何か話し始める前にいろいろと考えてしまうから、間も、提案のタイミングも悪い。もちろん売上だって正直、自慢できるものじゃない。それでも、相手に対して変な先入観を持たずに、真摯に向き合うことだけは、ずっと大切にしてきた。

退職しますよ、とお知らせを出したあと、たくさんのお客様が会いにきてくれた。遠方の方、多忙の方、わざわざ時間を作って「最後だと聞いたので」と足を運んでくれた。その大半のお客様が、「あなたがいたから、このお店に来ていたんですよ。」と言ってくれた。

「このお店にあるお洋服は、探せば別に他のお店でも買える。でもあなたにはここに来ないと会えない。だから、ここに来るんです。」

販売は人。お店は人。頭ではずっと思っていたことだったけれど、改めて気がついた。お客様は服を買いに来ていたわけではない。私と話すために、店頭へ足を運び、私への対価として洋服を買ってくれていたのだ。(もちろん、洋服が欲しいという目的も前提としてあると思う。) 私との会話、洋服を選ぶときに一緒に考える、ということに価値を感じてくれていたんだ、と。売上を獲るという販売員の仕事目的を考えると、やっぱり私は悪い販売員だったかもしれないが、服を探すこと以外の来店目的を自分でも気付かないうちに作れていたことは嬉しかった。そういえば、お客様とは服の話は半分で、日々のこと、家族のこと、昨日見た映画のこと…そんな話が多かったな、と思い出すと、離れることに寂しさを感じた。急に友だちと会えなくなる、そんな寂しさ。


アパレルは厳しい、特に実店舗での販売は、と言われて久しい。確かにネットショッピングの方が圧倒的に楽で便利だし、今や気に入らなかったら返品だって手軽にできる。実店舗では定価のアイテムが、同時期にネットではお得に手に入れられたりする。ファストファッションの台頭で、トレンド性のあるものが安価で買えるようになり、1シーズンだけ着倒すのであれば、それで十分という考えにも納得できる。かくいう私だって、普段は、荷物の持ち運びがめんどくさい、という理由で自社製品を買う以外はもっぱらネットショッピングだった。

今や、「ただ服を買う場所」というアパレル実店舗の価値はゼロに等しい。そこに行けば他にない楽しい体験ができる、という洋服以外のコトを提供、販売することを主軸にするべき、とさえ思う。ショッピングという体験をエンターテイメントとして考えたほうが、今後の展望があるんじゃないか。例えば、好きなデザイナー、ショップスタッフに会えることだって、その人にとっては充分なエンタメだろうし、最近よく店舗で行われているワークショップだってその類いだろう。と偉そうなことを書きつつ、どうやったらショッピングをエンタメ化できるのか、私は思い悩んだ。答えは出せなかった。だから一度距離を置くことにした。もし今より面白いアイディアが浮かんだら、再チャレンジするかもしれない。

これからどうするか、どうなるかはまだわからない。でも、いつかまたアパレルに戻るとしたら、やっぱり店頭に立ちたいと思う気がする。毎日毎日、素敵で面白い人たちと新しく出会えるお店は、私にとって飽きないエンターテイメントだった。



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yuki

学生時代フランスに傾倒。 長年身を置いたアパレル業界から離れ、今は海外向けのサブスクリプションサービスのプランナーをしています。好きなことは野球、ファッション、食、美術史、フランス、文化史、幅広く資金不足。日々のあれこれとファッションのこと。人生を模索するアラサー。
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