見出し画像

北京五輪を終えた今、カーリングについて感じたこと

17日間に渡り開催された北京冬季五輪も無事に閉幕しました。
最終的に、チーム日本は冬季五輪では過去最多となる18個のメダル(金3、銀6、銅9)を獲得するという結果となりました。

もちろん、メダルという記録以外にも数々のドラマや感動があり、心を動かされる大会になったと感じる人も多いのではないかなと。選手の皆さん、関係者の皆さん、本当にお疲れさまでした。

さて、北京五輪関連では最後の記事となるであろう今回も、話題はやっぱりカーリング。何度か書いたように、今回の五輪でカーリングの面白さに気付き、完全に沼にハマってしまっているわけです。

日本カーリング史上、男女を通じても初となる決勝進出を果たした女子日本代表「ロコ・ソラーレ」。4年前に平昌で銅メダルを争ったイギリスを相手に健闘しましたが、結果は惜しくも銀メダルでした。それでも、日本のカーリング界に歴史を刻む快挙だったことは事実です。

詳しい試合結果は書きませんので、この辺をご参考に。

嬉しさも、悔しさもあった五輪でしたが、今回は僕がカーリングについて感じたこと、これからのカーリング界についてなどを超主観だけで書いてみようと思います。

カーリングが他のスポーツと違うこと

カーリングは、アスリートたちの「フィジカル」と「メンタル」のバランスが、他のスポーツとはだいぶ異なっている気がします。現代では、スポーツに頭を使うことは当然になってきていますし、データドリブンな側面も日に日に増えています。

ただ、カーリングでは、その比ではないくらいに瞬間的な「現状把握力」と「判断力(決断力と言った方がいいかも)」が重要になってきます。
つまり、ストーンを放ってから、シート上をハウスに向けて滑っていく僅か数秒〜十数秒の間に全てを把握し、判断しなければいけないわけです。

大会期間中も選手たちからしきりに「アイスとの戦い」「アイスを読み切れなかった」というコメントがあったように、アイスの状態も非常に重要なファクターです。気温やそれまでの試合展開などによって、アイスの状態は常に変化をしているので、その辺も織り込んだ上での戦略が必要になります。

もちろん、ただ考えればいいというわけではなく、同時に身体も動かさなければいけないので、頭も身体もフル回転の状態が続きます。
一説によると、スイーパーは1試合に約2km分もスイープすることもあるのだとか。しかも、スイープ中はほぼ無酸素運動状態です。

ある意味、フィジカル的にもメンタル的にも極限に近い状態で、10エンドを戦うわけなので、非常に過酷なスポーツと捉えることもできるかもしれませんね。

そんなカーリングに魅せられた理由

正直、カーリングを知る前は、そこまで過酷なスポーツだとは思ってもいませんでした。すごく失礼な言い方をすれば「石を投げて氷の上を滑らせるだけじゃん」てなもんです(そんな風に思っていた自分が恥ずかしい。関係者のみなさん、本当に申し訳ありませんでした)

しかし、試合を観て、応援して、自分なりにカーリングについて知っていくにつれ、「これはすごいスポーツだし、めっちゃ面白い!」となっていったわけですが、今回の「ロコ・ソラーレ」の皆さんの戦いぶりを見て、すごく不思議に感じ、興味を引かれたことがあります。

それは、彼女たちの代名詞とも言える「笑顔」「楽しむ」という試合に臨むスタンスです。

最初の印象は「なんなん!?この人たち!」でした(笑)
五輪という大舞台、プレッシャーも図り知れないはずなのに、試合がどんな展開になっても常に笑顔を絶やさず、コミュニケーションを取り続け、前向きな言葉を掛け合う姿に感動すら覚えました。特に、サードの吉田知那美選手の会場に響き渡る声と言葉が強烈に印象に残りましたね。

そして、カーリングという競技自体が、ものすごくリスペクトに溢れていると感じたことも大きかったです。

例えば、カーリングには「コンシード」というルールがあり、これは「自分たちに勝ち目がないと思った時点で相手の勝ちを認めて試合を終える」というものなんですが、この「相手の勝ちを認める」姿勢というのが素敵だなと。あくまでも、「自分の負けを認める」のではなく、相手へのリスペクトを込めて「勝ちを認める」というスタンスが重要なんですよね。

こういう特有のルールなどもある中で、カーリングの文化が醸成されてきたためか、チーム内外問わず選手たちの間にはリスペクトの精神、相手を思いやる気持ちが根付いているように感じます。

試合後には、勝ち負けに関係なく互いを称え合い、握手やハグを交わす姿はまさにその表れなんだろうなと。決して負けた相手への同情などではなく、あくまでも「お互いに頑張ったよね」というフラットな関係性は見ていて本当に心地がいいものでした。

ルール的にも面白いと感じたのはもちろんですが、こうしたカーリングの文化や雰囲気に惹かれたというのが最大の理由です。

カーリングには「4年に一度のやつ」というジンクスが…

このように、競技的にも、文化的にも、非常に魅力のあるカーリングですが、正直日本ではあまりメジャーなスポーツではありません。

ロコ・ソラーレが2018年の平昌五輪で銅メダルを獲得したときにも、「カーリングすごい!」とちょっとした注目を浴び、試合中の会話で頻繁に聞かれた「そだねー」という言葉が新語・流行語大賞に選ばれたりもしましたが、それも一過性のものになってしまいました。
(余談ですが、この「そだねー」という言葉は、実は知那美選手しか言っていなかったのだとか)

以前に、ロコ・ソラーレの代表理事でもあり、元日本代表の本橋麻里さんも「4年に一度起きるやつ」とコメントを残したことがありました。

そんな感じなので、カーリングは「五輪のときだけ一瞬ブームになる」みたいなジンクスがあるんですね。

なぜ、カーリングのブームは続かないのか

では、なぜカーリングのブームは続かないのかという部分なのですが、そこにはいろいろな理由があると思っています。

競技場所が少ない

これが最も大きな理由かもしれませんね。カーリングは他の競技と違って、圧倒的に競技を開催できる場所が少ないです。日本のカーリングの聖地である北海道は別としても、本州以南になってしまうと、本当に限られるようですね。東京のチームが練習のために毎週末軽井沢まで通うなんていう話も聞いたことがあるくらいなので、大変なことです。

競技場所が少ないということが何を意味するのかと言えば、「競技人口を増やすことができない」ということです。

例えば、今回の五輪でカーリングに興味を持った子どもたちが、実際にやってみたいと思っても、体験できる場所が周りにない。お父さんやお母さんに相談しても「そんな遠いとこまでは行けない」と言われることもあるでしょう。そうこうしているうちに興味が薄れてしまい、無かったことになってしまうんですね。

仮に最初の体験の段階はクリアできたとしても、続けるとなるとまた話は別です。先ほどの東京から軽井沢まで毎週通っている話のように、時間、お金など様々な負担がのしかかってきます。

競技人口が少ない

これは、前述の話と相関関係にあるのですが、競技人口が少ないということは、教えられる人も少ないということなので、育成環境も整いにくくなってしまいます。

例えば、テニスを習いたいと思えば、テニススクールに通ったりして練習できますが、そもそもカーリングにはそういったスクールがほとんどありません。あったとしても、先ほどの話と同様に場所に制約があったりして、かなりハードルが高いわけです。

少し調べると、都道府県のカーリング協会が体験会を開催していたりもするのですが、これもあまり知られていないのが現状なんですよね。

例えば、僕の住む広島県でもこんな体験会があるようです。

こういったものの存在をもっと広報していく活動も必要なのでしょう。

メディアへの露出が少ない

この問題も大きいかなと思っています。カーリングの場合、野球とかサッカーのように地上波放送で試合が放映されたりすることはほとんどありません(五輪は別ですが)。放映があったとしても、よくて CS とかなので、見る人も限られてきます。

やはり、スポーツとメディアの関係は切っても切れないんですよね。野球やサッカー、マラソンなどが日本で人気のスポーツになった背景には、やはりメディアの存在は大きかったと思います。

露出が多ければ、たとえ競技にあまり興味がない人でも、認知だけはされます。時には、世間話の話題になるかもしれないし、いろいろな場面で目にする機会も必然的に増えるでしょう。こうしているうちに、少しずつでも理解が深まってくるという可能性は大いにあるのではないかなと。

それが巡り巡って、スポンサーの獲得に繋がったりと、カーリング界の財政状況も改善するきっかけにもなるかもしれません。

ルールがちょっと難しい

これは、人によりけりかもしれませんが、カーリングは一見しただけだとルールがよく分からないという声もよく聞きます。

野球だったら、ボールを投げて打って走る、ということは少し見ただけでも理解できそうですし、サッカーならゴールめがけてボールを蹴ればいいということくらいは理解できます(細かいルールはもちろんありますが)

ところが、カーリングはストーンを投げて反対側の円の中に入れる、くらいは分かったとしても、どうやったら得点になるのか、ストーンをどうやって置けばいいのかなどが素人には理解しにくい感じがします。さらに、状況が瞬間的に変わるので、理解する前に次の局面に移ってしまうなんてことも。

これ結構問題で、大雑把にでもルールが理解できないと、それだけで離脱してしまう人もいるんですよね。「難しいからやめた!」みたいな。

こればかりは競技ルールなので如何ともし難い部分がありますが、もっと観ている人が理解できるような方法を考えることが必要だろうと思います。

【結論】カーリングは裾野が狭い!

始めたくても始めにくい、始めたとしても続けにくく上達しにくい、そもそも知ってもらえる機会が少なすぎる。

要するに、現在の日本のカーリング界は「裾野が狭すぎる!」これに尽きると思います。だから、一瞬盛り上がってもブームが一過性になり、文化として醸成されないのだろうと。

せっかく魅力的な競技なのに実にもったいない状況がずーっと続いてしまっているということなんですよね。

じゃあ、どうすればいいの?

こんな風に書いていると「偉そうに言ってるけど、お前なんか解決策持ってんの?」とか言われそうなのですが、僕の中にも確固たる解決策は今の段階では持ち合わせていません。

競技場所や競技人口は一朝一夕ではどうにもならない

競技場所や競技人口の問題は、今日明日で解決できるようなことではないですし、解決しようにもそれなりの投資が必要そうです。競技の性質上、アイスは必ず要りますし、何かで代替するのも難しいですよね。

最近では、スケートリンクを樹脂で再現したものもあるという話をどこかで聞いた気がしますが、スケートと違ってカーリングの場合は、スイープしてアイスを「溶かす」という動作が重要な要素になっているので、樹脂では再現できそうもありません。もはや科学との闘いの様相…

ただ、少しでも裾野を広げるという意味では、できることはあると思っていて、実際に少しずつ行われていたりします。

YouTube には大きなヒントがあるかも

その代表的なものが、日本カーリング協会が今回の五輪に並行して取り組んでいる「#カーリング沼 へようこそ」です。

公式 YouTube チャンネルでは、カーリングのルールや試合の振り返り解説などを、現役のアスリートを交えて配信していたり、Twitter などの SNS では「#カーリング沼」というハッシュタグを盛んに展開し、少しでも興味を持ってもらえるような活動をされています。

特に YouTube は、アメリカ在住 JCAマーケティング委員の岩永さん(Twitter: @IWAN_NAOK)という方が、アメリカとの時差もなんのその、めちゃくちゃがんばって配信されていますし、フォルティウスの近江谷杏菜選手や SC軽井沢クラブの山口剛史選手を始めとした現役選手が、アスリートの目線でコメントしてくれるので非常にわかりやすいものになっています。

カーリング選手たちは、競技人口が限られているためか、お互いに交流が多いようで、チームなどに関係なく仲がいい様子もよく伝わってきて、配信の雰囲気も見ていて心地いいです。

今の時代、テレビなどでの露出をいたずらに増やすよりも、YouTube から発信するマーケティング路線も一般的になってきているので、あまり費用もかけずにできる YouTube 配信にはカーリング界の裾野を広げるための大きなヒントが隠されていると思っています。

もちろん、今回のロコ・ソラーレの活躍で、しばらくはテレビなどへの露出が増えるはずですが、その反動を利用して、ファンの増加と流入を促す方策が必要です。実際、五輪期間中には回を追うごとに YouTube の生配信視聴者数も増加していたので、ここに集まってくれた人たちを離さないコンテンツを継続的に作るというのも課題ですね。

個人の発信を促進する取り組み

自分の行動を正当化するわけではないのですが、僕のように個人の発信というのも、ブームから文化にするに当たっては大きな意味を持ってきます。

人気のある人や、出来事に共通して言えるのは、多くの人がいろいろな場面で話題にしているということなんですよね。特に SNS 上での話題性(いわゆる "バズる")は、プラスなものもマイナスなものも含めて、世の中に大きな影響力を持つこともあります。一人一人の発信力は限られていますが、それが寄せ集まると大きなムーブメントになることもありますからね。

今回の「#カーリング沼」についても、そうした行動を促進させるための取り組みだったのだと思いますが、今後は五輪などの大会がない期間でも話題性を維持できるかどうかが課題になるのだろうと思います。「誰かに言いたくなる、他の人に知ってほしくなるカーリング」にするというのがテーマかも。

選手名鑑がほしい

これについては少し企画案に近いのですが、プロ野球選手名鑑のような選手情報を集約したコンテンツがあると面白いかなと。

僕が見ていて、日本のカーリング選手は人間的にも魅力があふれる人が多いように映るので、それをもっと発信できると有意義だと思います。もちろんチームなどは問わず。

単純に書籍などにしてしまっては面白くないので、それこそ YouTube などで動的な選手名鑑を作ってみると良さそうです。単なるプロフィール紹介ではなく、選手ごとの個性や人間性が垣間見られるような内容を1人3分程度で公開し、再生リストでまとめておくだけでも立派なコンテンツになります。

スポーツに興味を持つきっかけって、競技そのものよりも、選手個人に対しての興味から入るみたいなパターンも結構多いと思っていて、少し視点を変えて選手の魅力からカーリングに入ってきてもらうという方向性もありなのかなと思うんですね。

というわけで

知識的にも、技術的にも、カーリングについては何のバックグラウンドもない人間が、今のカーリング界について感じることなどを、勢いに任せて書いてみました。何目線だよと思う人もいると思いますが、悪しからず。。。

とにかく言えるのは、カーリングはすごく魅力ある競技だということ、今回の北京五輪でのロコ・ソラーレの大活躍により耕された日本カーリング界の "土" を、どのように肥沃な土壌に変え、種を植え、大きく育てていけるか、重要な局面にあるということです。

まずは、4年後のミラノ・コルティナ五輪に向けて、日本のカーリング界がどのように進んでいくべきか、沼にハマる人をいかに増やせるかなど、考えるべきことは山積みですが、まだまだ成長の余地があると思えば楽しくもありますね。

ロコ・ソラーレのように、どんな局面でも楽しみながらカーリング界を盛り上げられるようにがんばりましょう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?