chips S#77

いたということをなくしてしまいたいほどのことじゃないの。記録を残したくないの、だから写真を撮るのはやめてほしい。この街には物事が残りすぎているから、それが私にはとても苦しく思える。私が残ってそういう風になっていくのは嫌なの。とくに私の知らないところでね。あの看板が見える?あそこで笑っている人はいったい誰に笑っているの?それは決して私にではない。私は私を知る人にだけ笑いかけたい。カメラを向けるあなたには私は笑うことができる。私はあなたを好きだから。でもそれをあなたが後で見返しているのは気に入らないの。切り取られたものとして。思い出してくれるのは嬉しいわ。それは周りの風景と一緒にあるでしょう。ゆらいでいるでしょう。別にそういう風にありたいというのではないけれど、それはきっとより今に近い気がしているの。写真よりね。ごめんね、どうでもいいことなのかもしれない。あなたは私ではないし、そういう起こってくることを受け入れていくことがいいのかもしれないけれど、私の中にあることをないがしろにしないということが大切なのかもしれない、そう思っているの。よく見せてあなたを。あなたも私をよく見て。介在するのは時間とエーテルらしきもので充分じゃないかしら。

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