異世界の名のもとに!! ♯6
「……壱曁様」
え、様付けって…。
「様なんて付けなくて良いよ」
「では、お兄様……と///」
おい待て、それはおかしい。どうしてそうなったんだ。
そうこうしていると美鈴がこっちまで来て言った。
「私を差し置いて。何言っちゃってるんですか!?」
「何か問題でも?」
美鈴は何を怒こっているんだ? よくわからない。
「ありますよ!」
「妹でもないあなたがお兄ちゃんをお兄様なんて言わなくていいんですー!!」
あぁ、喧嘩になっちゃったのか? どうしようか。まぁ、まずは仲裁に入るか。
「まぁまぁ、喧嘩しないで二人とも」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
あ~、お決まりの台詞言われたんですけど。どうしよう、こまったなぁ。
そんなこと考えていると、突然頭痛に襲われた。しかも、かなりのものだった。
あまりの痛さにボクは倒れ気絶してしまった。
「お兄ちゃん? ねぇ、お兄ちゃん……!?」
「返事してください。お兄様!!」
「お兄ちゃん!!」
微かに見えた美鈴と少女の瞳から涙が滴り落ちていく。ボクも偉くなったものだ。二人を泣かせるなんて……。
日差しによって目が覚めた。この場所は、宿屋か。
それにしても、どのくらい眠っていたのだろうか。よくあるアニメの話だと、数日間寝たきり状態だったりとか。
これもきっと、翌朝とかじゃなく数日間だったりして。
ボクはベッドから起き上がろうと、あれ? 起き上がれない。金縛りかと思ったが、案外答えがすぐわかった。
美鈴と少女がボクの腕を枕に寝ているのだった。だった…。え? 何この状況。
コツコツ、コツコツ。ギシィ、バキッ。 足音が聞こえた。あと、ヤバそうな音も聞こえた。……おい待てこの状況。ダメだ。ダメなやつだ。あ~、終わった。いろいろと。
「すみませ~ん。容態はどうですか?」
コンコンと、扉を叩く音と声が部屋に響く。
「なんとか大丈夫でーす」
「起きられたのですね、なによりです」
そう言って、階段を降りていく音がした。言っていなかったが、ここは2階である。
ボクは安堵のため息をついた。いや~、よかったぁ。ロリコンのレッテルなんて貼られたくないからな。
今日のボクはついている感じかな。よ~し、この調子で異世界生活を満喫するかな。
「そろそろ、狸寝入りなんてやめてくれないか?」
ボクがそう言うと、ビクンと美鈴が反応した。どうやらあたりらしい。
「美鈴~」
「は~い、何でしょう?」
「おやつ抜きなぁ」
これを脅しにすれば、美鈴は引っ掛かる。
「はっ、 待ってくださいお兄ちゃん。誤解なんです。お兄ちゃん!」
「ほぉ、言ってみな」
先手を取ったボクが有利だ。よ~し、前々の付けを晴らさせてもらおう。
「えっとですね。起きたら足音が聞こえたんです。それで、このまま寝た振りをしていれば、面白い事になるかなって思いまして……」
「そうか~。……覚悟はできていると見なすぞ?」
「えっ、 待ってください。私は無実です!」
ボクは今日、美鈴のおやつ抜きを決行する事にした。
「お兄ちゃんは優しいってわかっています♪」
「悪いがもう決行した」
ニヤリと笑って見せた。
「わかりました、お兄ちゃんがそうすると言うなら止めません」
やけに素直だな。おかしい。美鈴がここまで素直だったなんて。裏があるんじゃないか……。 …まさか。
「まさか。美鈴」
「なんでしょう?」
「ボクのスマホ、持っているんじゃないか?」
「あったり~♪」
くそ~、今度こそ、やり返せるかと思ったのに。……このままじゃスマホのデータが危うい。
「わかった。さっきの話は無しだ。……だからボクのスマホ返して」
「良いですよ~」
あー。無事で何よりだ、ボクのデータよ。
ふと思った。あれボク、ヘッドフォン付けてない。転生前は普段からヘッドフォンを着けていたのだが。いつの間にかヘッドフォンが無くなってる。
「なぁ、美鈴。ボクのヘッドフォン知らないか?」
「えっとですね、ヘッドフォンは私が持っていますよ。何しろ、お兄ちゃんの必需品ですからね」
「まさか、またはめようなんて事は…」
「あるかもしれませんね♪」
マジかよ。ボクはどうやら妹には勝てないようだ。虚しい。
「美鈴さんや、ヘッドフォンなるものを返してはもらえないんですかね」
「ふふふ、私がそう簡単に渡すとでも?」
「あ~、こんなところに美鈴のスマホが~」
「っ! いつの間に?!」
「あ~、手が勝手に~」
「ああ!! わかりました!わかりました! だから、返して下さーい!」
交渉成立。ボクは美鈴にスマホをわたし、ヘッドフォンを受け取った。
小説(物語)を書いている者です。