異世界の名のもとに!! ♯5

 宿屋。それは旅をする者には必ずしもついてくる休息する為の場所。

 と、まあそんな事はおいておくとしてだなぁ。

「おい、これ宿屋かよ…」

「その筈ですけど」

「いや待て、すごくボロいのだが…」

 ボクと美鈴が見たそれは、いつ崩れてもおかしくない程朽ちてきている二階建ての宿屋だった。

ただ他の家々は普通だったのだ。

「なんで、ここだけボロいのか、皆目見当もつきません。はい。」

「まあ、仕方ありませんね。 たぶんこの辺りじゃ、ここ以外に宿屋は無さそうですね」

 と、美鈴は自分のスマホ(巫女さんに貰ったやつ)を見て、そう言った。

「うぅ、まあいいや。泊まれるだけましだしな」

 そしてボクと美鈴はその宿屋に入っていった。



「お客様御二人合わせて1000ペルです」

「1000?」

「はい」

 どうしよう、全くもって金銭感覚がわからん。

そういや、巫女さんにどのくらいか貰ってたな。んー

どれがどれだ? 数字が書かれていないので予測することも不可能。ボクが悩んでいると、美鈴が受付の方に言った。

「1000ペルですね。はい丁度お渡しします」

「お預かりします。 それでは泊まる部屋へ案内します」

 ボク等は受付の方に付いていき部屋に入った。その時ふと思って美鈴に言った。

「なあ、美鈴。部屋ってもしかして二人でひとつの部屋?」

「そうですけど、なにか問題が?」

「いや、部屋ぐらい一人でゆっくり休みたくないかって思ってだな。だからボクはもうひとつ部屋を借りてそっちに行こうかと」

 ボクは美鈴に言うと、美鈴は首を横に降って

「なに言ってるんですか?! 私はお兄ちゃんと居ることによって、疲れが癒されるんですよ?!」

 その瞬間、美鈴は部屋を出ようとしていたボクの手を引いた。

ボクは、美鈴の変なスイッチが作動したのを気だるく見守るしかなかった。

「だから、そんな事言わないで下さい。私はお兄ちゃんの大切な家族です!!」

「お、おう そうか。なんかごめんね?」

 そう言ってボクは部屋を出るのをやめた。それからボク等は他愛もない話を続けた。スマホでゲームしながら。

 そろそろ夕食が用意されてるはず、そう思ってボクは美鈴を連れて一階に降りた。

「今日の晩御飯はなんだろう」

 そう美鈴に言って辺りを見渡すが、それらしき物が無かった。っていうか、食堂的なところも無い。

「あれ? 食事は?」

「お兄ちゃん、おかしな事言いますね」

「へ?」

 何となく声に出た返事に美鈴は言った。

「この宿、食事出ませんよ? スマホの地図のところに書いていましたよ」

「ふぇ?」

「あれー? まさか地図もろくに見てなかったんですかー?」

 美鈴が若干煽って言ってくるが、何も反論できないのが悔しい。

「し、知ってたし。一応聞いただけだし(汗)」

 反論はできないが、言い訳するぐらいの口はあるらしく、わかりやすい嘘を言ってしまった。

「本音は?」

「……すんません。知りませんでした。嘘でした。」

「よろしい。素直なお兄ちゃんで良かったです」

「っく、まんまと口車に乗せられた」

「さあ? なんの事でしょうか?」

「うぅ、お兄ちゃん泣くよ?」

「ふふ、やっぱり面白いですね お兄ちゃん。それで、晩御飯はどうします?」

 からかったあとに美鈴が聞いてきたが、どうしたものか。この宿屋で晩御飯が出るとばかり思っていたから、全く思い付かない。

「そうだ」

 と、ボクはスマホで検索してみると、近くに一軒だけあった。

「どうかしました?」

「近くに飲食店があったよ」

「そうですか、じゃあそこにしましょう」

 そして、その飲食店で食事を終え、帰っているときだった。

ふと露地を見てみると、声が聞こえてきた。

「なぁ、嬢ちゃん 悪くしねぇから、一緒に行こうぜ」

「うぅ、離して」

「つれないねぇ」

 あ、アニメによくあるやつだ。

少しガタイのいい男が、少女に手を振ろうとしている。瞬間、ボクは何を思ったか、その少女を助けに行こうと全力でその場に走っていった。

「おい、そこのおっさん……ナニシテンノ?」

 明らかにボクの意思で体が動いて、喋っている訳ではなかった。何か、ボクの中に誰かが居るかの様な。そんな感じがした。

「あぁ? なんだ、テメェは!?」

 そのときのボクはそれに答えはしなかった。そしてその男の背後に立ち、足払いをし、仰向けになって露になった男の顔面に踵落としを食らわしていた。無論、普段のボクに出来る筈もない。

「お、お兄ちゃん?!」

「…………え?」

 いきなりガタイのいい男を倒したボクに美鈴とその少女が、驚いていた。当然だろう、ボクだって驚いているんだから。

「あ、あなたは?」

「ボク? ボクは、桐崎壱曁」

 自分のしたことに驚いているにも関わらず、すんなり自己紹介をしていた。


小説(物語)を書いている者です。