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とらえた!アインシュタインが残した最後の予言〜重力波を直接観測

We have detected gravitational waves. 

We did it !

2つのブラックホールが合体したときに放たれた重力波を世界で初めて直接観測したと、アメリカの重力波観測施設「LIGO」と欧州の施設「Virgo」の研究グループが2月12日未明(日本時間)に会見を開いて発表しました。アインシュタインが考えた一般相対性理論が予測する物理現象のうち、唯一観測できていなかったのが時空のゆがみが波として伝わる「重力波」です。予言から100年の時を経て、アインシュタインの残した最後の「宿題」がようやく解かれました。人類は宇宙を見る「新たな眼」を手に入れたのです!


アインシュタインの残した最後の予言

アインシュタイン考えた一般相対性理論に基づいて考えると、いくつかの物理現象が観測できると予測できます。①水星が太陽に最も近づく場所である近日点が移動すること、②重力により光の進行方向が曲がる「重力レンズ効果」、③重力により光の到達時間が遅れることなどです。これらはすべて実験で観測済み。そして、最後に残されたのが、非常に重たい天体が加速しながら動くときに生じる周囲の時空をゆがめる波である「重力波」でした。

(図・予言)

ハルスとテイラーという2人の天文学者が1972年に、連星パルサーという互いに重力を及ぼしながら回転する2つの天体を調べ、重力波を間接的に観測しました。そして、今回の実験で重力波を初めて直接観測したことになります。

(CG・中性子星)


実験開始2日後にその波はやってきた

それでは早速、今回の実験の話に入りたいと思います。LIGOの研究チームは、昨年9月12日に観測を始めました。そして、その2日後の14日9時51分にその波はやってきました。まずは、実験データを見てみましょう。

オレンジと青の2種類の波が書いてありますが、それぞれ別の装置で観測した波です。LIGOは、西海岸のワシントン州ハンフォードと、メキシコ湾岸のルイジアナ州リビングストンの2カ所にある3台の実験装置の総称です。オレンジ色の波(上段)がハンフォード、青色の波(中段)がリビングストンにある装置で観測した波です。

それでは波の形に注目してみましょう。波の振幅がだんだん大きくなり、あるところを過ぎると、急に振幅が小さくなっているように見えますよね。なぜ観測した波はこんな形をしているのでしょうか?


なぜ波はこんな形をしているのか?

先ほど話したハルスとテイラーが観測した連星パルサーのように、巨大な2つの天体が互いに重力を及ぼし合いながら回る様子を考えてみましょう。このように非常に重たい天体が加速しながら動く場合、重力波が生じます。すると、重力波にエネルギーを持ち去られるので、2つの天体はだんだん近づきます。

時間が立つとさらに近づいて「ドカーン!」。衝突した瞬間の数秒間に大きな重力波を放ち、その後は合体してしまうので重力波は急激に弱くなるはずです。つまり、このような形の波を見つければ、重力波を観測したことになるのです! そして、この波の形は、先ほどの観測データにそっくりですよね。


13億年かけてやってきたわずかな時空のゆがみ

そして、計算により、今回観測した2つの巨大なブラックホールの質量を見積もりました。今回観測した重力波を放った正体は、太陽の質量の36倍と29倍のブラックホールが合体して太陽の質量の62倍のブラックホールになった現象だと考えました。

しかし、ここで不思議に思いませんか?「36」と「29」を足すと「65」になります。減ってしまった太陽の3倍の質量はどこにいってしまったのでしょうか。実は、太陽の3倍の質量というとてつもなく膨大なエネルギーが、重力波として放たれたのです。そして、その波が13億年かけて地球にやってきて、LIGOの装置にほんのわずかな時空のゆがみをもたらしたのです!


先越されて悔しくなかったのか?

一夜明けた12日午前9時、LIGOの研究グループの記者発表を受けて、東京大学宇宙線研究所で大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」プロジェクトによる記者会見が開かれました。

「初観測を先越されて悔しくなかったのか」

会見の冒頭、女性記者がこのように問いかけました。

「誰かが一番になるもの。悔しいというよりも、これは最初の第一歩。重力波というまったく新しい天文学の手段を得て、エキサイティングな時代が幕を開けました。今回の発表で重力波の観測頻度がけっこう高そうだということが分かりました。今後さらに、とても重要なことが発見されるのではないでしょうか」

プロジェクトリーダーを務める宇宙線研究所の梶田隆章所長は、晴れ晴れとした表情で、興奮気味に答えました。

確かに、一番は取られました。しかし、恐らく、重力波の初観測というのは、そんなスケールの小さな話ではないのではないでしょうか。

ガリレオ・ガリレイは天体望遠鏡を夜空に向けて、初めて「光で宇宙を見る扉」を開きました。しかし、それは始まりであり、それから宇宙から地球に届く光を詳しく調べることで、私たちは多くのことを学びました。

それと同じように今回も、LIGOの研究チームが「重力波で宇宙を見る扉」を開きました。しかし、それはこれから重力波で新たに宇宙の謎を解く、ほんの始まりなのではないでしょうか。

梶田先生をはじめKAGRAプロジェクトの研究者たちは、今回の出来事をそんな風に捉えて、早く実験が始めたくて、ワクワクしてたまらないのではないだろうか。私は会見を会場の隅で見ていて、そんな風に感じました。


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