春のメニュー会議


白央篤司さんとの往復コラム

vol.9

さてさて、白央さんとのしりとりコラム(←これちょっと気に入ってる)も9本目となりました。

前回の白央さんのコラムを読んで気づいたのですが、落ちているときのカレーはいいですね。とはいっても僕の場合は食べるのは二の次でどちらかというと「作りたい」派。カレーに限ったことではないですが、とにかく手数の多い料理、時間のかかる料理を作りたくなる。シチューとかロールキャベツなんかもいいな。野菜をたっぷり切ったり、炒めたり蒸したり煮込んだりといった工程が多いほど癒される。一種の箱庭療法みたいなものかしら。こんがらがった頭の中がほぐれていく感じ。うん、僕にもそういうところはあるな。

まだ読んでない方はこちらが前回のコラム↓

https://note.mu/hakuo416/n/nc3b0704eee39

さて、今回白央さんから提案されたお題は

「山菜で何か新しいメニューを作ってみる」

とのこと。うーん困ったぞ。
実は山菜の知識がほとんどないんです。20歳過ぎるまで山菜といえば山菜そばかビビンバのゼンマイしか知らなかった山菜弱者でして。。
僕の育った家では七草粥もやらなかったくらいなので馴染みがないんですよね。もちろん飲食店で働くようになってからはさすがに少し勉強もしましたが、それでもメニューで接するのは天ぷらくらいですからね。お恥ずかしながらほとんどの山菜は調理どころか食べたこともない。

曲がりなりにも料理家の看板を掲げているとそういうことは隠したほうがいいのかしら。「私はすべての料理に目を配っています」という姿勢を貫いたほうが商売もしやすいですし。ただ、僕は出がバーテンダーなのでそのあたりはオープンというか平気なんですよね。カクテルってそれこそ星の数ほどあって、その全てを覚えているバーテンダーなんて皆無なんですよ。知ってるカクテルもあれば知らないモノもある。知らなければ調べればいい。その上でどれくらいのパフォーマンスを発揮できるかがバーテンダーの仕事なんだという職業意識ですね。だから知らないことは特に恥ではないし堂々と知らないといえる。

まあそんな、よく知らない山菜について考えてみよう。

山菜といってもいささか広うございますから、中でも多少親しんでいる‘ふきのとう’で考えてみようかな。

ふきのとうといえば何と言っても天ぷらですよね。あとはふき味噌とか味噌汁。クックパッドではそのあたりが主流でした。
じゃあ試しに天ぷらでなにかできないか、と考えてみる。
僕のメニュー作成やアレンジにおいて一番多いのは「横にずらす」という考え方なんです。横というのはつまり、天ぷらをもっと美味しくするために小麦粉や油はどうすれば、と縦に縦に深化していく日本史型ではなく、シルクロードを遡るがごとく各地を横移動で訪ねる世界史型。わかります?わかりづらいですね(笑)。まああれですよ、天ぷら的な料理はフランスにはあるかな?ロシアには?メキシコには?そのときはソースは何で付け合わせはどんなものかしらと考えていく。そうすると、フリットやエスカベッシュなんてどうかしら、みたいな考え方ですね。またはオーソドックスな天ぷらだけど、つけダレがチーズフォンデュとかね。ちょっとずらす。今回もこの方法で考えてみたけどいまいちピンとこない。

次の方法、アクセントに使う。ふきのとうの最大の売りはその苦味ですよね。そこで、世界の料理で苦味をアクセントに使ってるものに入れ込むという作戦。それがね、あまり思いつかない。ポテトサラダにキュウリやセロリやパセリの代わりの苦味として入れ込むとかね、その程度。
多くの国では苦味は加熱によって甘味に変えられている印象。苦いものを苦いまま口にするといえば薬草酒ですかね。ヨーロッパの山間部あたりでは肉食に偏るため、毒消しを兼ねた苦いハーブリキュールが数多い。フェルネブランカ、ウンダーベルグ、ウニクム。ちょっと甘めだけどシャルトリューズやイエガーマイスターとか。そんなリキュールを少し加えたカクテルって美味しいんですよね。日本人では苦手な人が多いけど。

ん?

あれ?

そうか、

カクテルにすればいいのか!

ふきのとうでね。苦味をアクセントにしてね。

そうと決まれば話は早い。固形物をカクテルにする時のテクニックとしては主にふたつ。搾ってジュースにするかブレンダーで混ぜ込むか、そのどちらかだ。ふきのとうはジュースにできないので混ぜ込み型。そして混ぜ込むとしたらフローズンか否か。フローズンでないのはシャンパンとフルーツを合わせたカクテルみたいなスタイルですね。ベリーニとかね。
これはフローズンでしょ。すんごい冷たいふきのとうは魅力的。となればベースはラムですね。味的にはジンやテキーラのほうが合うとは思うけど、やはりフローズンダイキリにしたい。ダイキリと呼ぶにはベースはラムでないと。そのほうがキャッチーだし分かりやすい。通常のフローズン・フルーツ・ダイキリにはリキュールが入る。フルーツの味を補ってボディをしっかりさせるため。もちろんふきのとうのリキュールなんてないから薬草系を当て込む。シャルトリューズのグリーンがいいな。色も風味も合うはず。レモンはグレープフルーツに変えよう。苦味の三重奏だ。そして主役のふきのとうは塩を加えたお湯で2分ほど茹でて流水でよくアク抜きして水気を拭いておく。さあ準備万端。

ブレンダーにバカルディ45ml、ふきのとう2個、シャルトリューズ15ml、グレープフルーツジュース20ml、ガムシロップ2tsp。それとクラッシュアイスを加えてギュイーーーン!

うーんいい出来だ。冷たく苦くて甘い。思った以上に緑もきれいだ。
フローズン・ふきのとう・ダイキリ。メニュー名はフローズン・スプリング・ダイキリのほうがいいかな。飲んでみてのお楽しみでね。略してFSDカクテル。
ぜひヘミングウェイにも飲んでいただきたい。

料理にはなりませんでしたがこんなドリンクはいかがですか、白央さん。小料理白央の春の黒板メニューとしてぜひご検討を(笑)。


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