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素人が有機農業をはじめて失敗した話②

前回の投稿で私の有機農業に対するスタンスは書いたので、今回は具体的に失敗した原因についてまとめようと思う。

有機農業で野菜を作って、実際に売ってみて分かったことがある。
それは「求めている人に届いて初めて価値が生まれる」ということだ。
めちゃめちゃ当たり前のことだが、私はこれを甘く見ていた。

「オーガニックは何となく良さそう」というイメージを持つ人は多いし、同じ野菜・同じ値段・同じ品質ならオーガニックの方を選ぶかもしれない。
しかし、わざわざ高いお金を出してオーガニックを買う人は少ない。

そもそもオーガニックと明記するには「有機JAS」などの認証を取らないといけないし、「栽培期間中、農薬や化学肥料を使っていません」との記載が許される場所も少ない。(特に慣行農業の野菜が多く並ぶ直売所なんかは、そういった記載は嫌がられる。)
私の場合、規模が小さかったため認証を受けるには費用対効果が薄く、幸い認証を受けていなくても買ってくれる卸先があったため、事実上オーガニックという形で販売していた。

しかしオーガニック野菜というのは需要が少なく・単価が高く・保存がきかないという非常に取り扱いづらい商材であり、その卸先は無駄なく買って無駄なく届けるという仕組みで回っていた。
そのため、農家は約1週間前に翌週分の野菜の出荷可能リストを提案して、注文の入った分だけを卸すことになる。
では注文の入らなかった分はどうなるか?直売所行きである。
先述したように直売所ではオーガニックアピールができないため、そこではオーガニックという価値はゼロになる。

有機農業は慣行農業に比べると手間がかかるため効率が悪く、資材代も高くつくことが多いため、オーガニックという価値を最大限発揮できなければ採算がとれない。

ではどうすべきか?
やり方はざっくり分けて二種類考えられる。

1.一つの品目に絞って大量に安定生産できるようになる。
利益率は低いが、卸先に確実に買ってもらえるなら、一番効率のいい方法だ。
安定生産できるようになれば、出荷可能量の予測がしやすくなりロスが減るし、卸先にとっても安心して付き合える取引先になる。
また、品目を絞ることで栽培技術を高めて独自性を生みやすい。
ただし、特定の病気が流行ったりしたときに全滅するリスクもある。

2.多品目を一年中栽培してお野菜セットにして個人に直接届ける。
こちらの場合、効率は悪いが利益率が高い方法だ。
一年中常に多品目をキープする技術が必要で、箱詰めなどの手間もかかる。
出荷の際にガソリン代や配送料がのっかってくるし、お客さんを獲得するための営業も欠かせない。
ただ、単一品目のように全滅するリスクは少ない。

この中間地点として、中量中品目を栽培して飲食店などに直接届けるやり方もあるがコミュニケーションコストが高いわりに利益を出しにくかったりする。(ブランド化して単価を高く設定できたり、消費地が近ければこの方法もあり)

私の場合、はじめは多品目栽培でお野菜セットにすることを目指していたが、とてもじゃないが一人でできる作業量ではなかった。(だいたい、こういうやり方は夫婦でやってる人が多い。)
かといって、一つの品目を大量に作るというのも飽き性の私には難しいだろうと思い、中量中品目を栽培した結果、直売所に頼らざるを得なくなった。

直売所は好きな時に好きな量を出せるが、旬の時期はみんな同じものを出すので安売り合戦になる。
オーガニックという価値が届けられない以上、安く売るか、時期をずらして売るかしないと生き残れない。
そうなるともはや直売所で売る野菜をオーガニックで作るのはデメリットしかなく、ただの自己満足になるのだ。
(オーガニック限定の直売所があればいいかもしれない。客が来る立地であればの話だが。)

ただし、自己満足でも有機農業を続けることはできる。
利益は出にくくても、有機農業が至高の方法だと信じていれば。
残念ながら私は疑り深い性格なので、一つの物事を信じ続けることはない。
有機農業を営む中で、数々の矛盾に出会ったからだ。

例えば、石灰資材。
トマトの尻腐れを防ぐために、水に溶けやすい形のカルシウム(硫酸カルシウム)が必要になるのだが、オーガニックで認められているのは山から削り出した天然石膏で、石膏ボードのリサイクルや工場の副産物から作られるものは認められていない。
どんな原料で作ろうが完成品の成分は同じ硫酸カルシウムなのに、リサイクルより自然破壊を推奨していると言える。

例えば、ビニール資材。
有機農業では除草剤は使えないため、マルチといわれるビニール資材で畝を覆って雑草が生えるのを防ぐことがよくある。
そうなると、毎年大量にビニールのごみが発生する。
私自身、マルチはよく使っていたので、そのごみの量にうんざりした。
石油由来の製品をこれだけ使って、ごみを出しておいて、環境負荷の少ない農業だなんて言えるのか?と感じた。

結局、利益を出すためには効率よく生産するか、単価を極限まで上げるしかない。
現段階において、効率をよくするには上記のような資材を使わざるを得ないし、単価を上げるにはまるで宗教のようなオーガニック信者に売り込むか、ゴリゴリにブランディングして日本一と認められるような商品を作るしかない。

そんなこんなで有機農業で利益を出すことの難しさを思い知った私は、一旦失敗したという結論をつけて別の方法を探ることにした。
有機農業にこだわらず、環境にやさしい農業のあり方を考えたり、野菜を売って利益を出すことにこだわらず、体験として楽しんでもらうことを考えたり…
時代も環境も変わっていく中で、柔軟に対応できたらいいなと思う。