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素人が有機農業をはじめて失敗した話①

私は人の失敗談を聞くのが好きだ。
成功談を聞いても、成功した理由は周りの環境とかタイミングとか色んな要素が複雑に絡み合ってるから真似できないけど、失敗した理由は分かりやすくて他のことにも応用しやすい。
だから成功談より失敗談から得られるものの方が多いと思っている。
そんなわけで、自分の失敗談も誰かの糧になるかもしれないと思って公開することにした。
ちなみに、失敗はしたけど諦めたわけではないので今後色んなアプローチで農業に携わり続けるつもりだ。

前置きはこれくらいにして、本題に入ろうと思う。
とはいえ長くなりそうなので、今回は導入として私の有機農業に対するスタンスのみの内容で、具体的に失敗した原因については次回の投稿で書くつもりだ。

まずは私のバックグラウンドだが、周りに田んぼも畑もない名古屋のサラリーマン家庭で育ち、親戚に農家がいるわけでもなかった。
ただ自然の中で遊ぶのは好きで、テレビやアニメで見る田舎の風景に憧れを持っていた。
成長するにつれて生き物や食べ物への興味が強くなり、いつしか農業にも関心を抱くようになっていった。
大学で有機化学は学んでいたので、農業に関する科学的な基礎知識は本から得ることができた。
農業関連の本を読んでいるうちに、環境負荷の少ない農法として有機農業(農薬・化学肥料を使わない栽培方法)に魅力を感じるようになった。
実際に有機農業をしている現場に通って教えてもらう中で、自分にもできるかもしれないと思い、脱サラして有機農業の世界に飛び込んだ。

有機農業の世界に入って改めて感じたことがある。
有機、つまりオーガニックを好む人の持つ慣行農業(農薬・化学肥料を使う一般的な栽培方法)への偏見だ。
オーガニック界隈でよく使われる「安心安全」という言葉。
私はこの言葉が大嫌いだ。
まるで慣行農業の野菜が危険かのような印象を与える。
そういう対立を生むような言葉で差別化しようとするのは、オーガニックの悪い慣習だと思う。
そもそも、安心と安全という言葉は別物なので一緒くたにしてはいけない。
安心はあくまで主観であり、イメージに過ぎない。
安全は客観的に証明された事実だ。
安心を押し付けるのはおかしいし、安全は証明できるものがなければいけないというのが私の主張だが、オーガニックの世界ではなかなか理解されない。

そんな私がなぜ有機農業をはじめたかというと、環境に与える影響が少ないと感じたからだ。
大前提として、農業は自然破壊である。
自然を切り開き、もともとあった植物を根絶やしにして土壌をさらし、人間にとって都合の良い植物を育てて収穫する。
まさに人間のエゴといえる行為なのだが、自然も黙っていない。
雑草や害虫と呼ばれる刺客を送り込み、我々農家を困らせる。
そんな刺客に対抗するために、農薬を使う。
また、農家が野菜を売って生活するのに必要なお金を得るには効率的にたくさん収穫しなければならない。
そのために化学肥料を使う。
基本的に農薬や化学肥料は用法容量を守って使えば人間にとって危険なものではないと証明されているが、自然にとっては不都合が生じる場合もある。
例えば生態系を壊してしまったり、土壌の栄養成分や微生物相が偏ってしまったり…ということが起こる。
有機農業は農薬・化学肥料を使わないかわりに手間をかけて、単価を上げることでどうにか経営を成り立たせる方法だ。
しかし、この「単価を上げる」というのがなかなか難しい。
お客さんにとってのメリットを提示せずに単価を上げても買ってもらえないので、先述したような「安心安全」という言葉を使ったりするのだ。