猫の時間_001

Nの時間

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電子書籍化に際し、公開を終了しました。

Nの時計

前にいたところではそういうこともなかったのだが
時計を見ると長針も短針も秒針も猫であった

長針は猫が伸びをしているようであり
短針は猫がしっぽを突き出しているようであり
秒針は猫の髭だった

猫が時間を支配しているとか象徴であるとか
おそらくそういうことなのだろう
ただ 確かめるすべは今の時点では見当たらない

ところで私はこの時計になんとなく違和感を持っている
それは数字が刻印されていることに対するものだと思う
時計に数字があることに違和感を覚えるというのもおかしな話だけれど

この1から12の文字は本来
特に必要のないものではなかろうか
ただ 目安として存在しているだけなのではないか
私のようにここに不慣れな者が戸惑わぬように

そもそも数字がなければ時計だとはわからなかったかもしれない
温度計や湿度計や方位磁石にも針があるし
あるいはなにかもっと
私の知識の及ばないなにかであったとしてもおかしくない筈だ

時計の猫は
長針や短針や秒針が猫だということが当たり前でない者への案内……

――などと考えていると
だんだん文字盤の数字が薄くなってきたような気がする

そういえばなんだか少し眠い
針の動きには催眠効果があるに違いない

目が覚めると
穏やかな日だまりの中なら
どんなに嬉しいだろう

そのとき文字盤の数字は
あとかたもなく消えている

書籍代にします。