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理想の休暇を妄想する。

通っている読書教室で、理想の休暇について書くという宿題が出ましたので、こんな感じに仕上げてみました。

人間は知りたいと考えたことを知ることでも賢くなるが、あらかじめ存在するとも知らず、知りたいと思わなかった知識を知ることで、さらに賢くなることができる。ー山崎正和-

連載4回目。タイに関する前回の原稿は無事書き上げ、今日の午後編集長に手渡してきた。読み終えると彼女は、「そうね、悪くないわね」と、プラダを着た悪魔がアン・ハサウエィに仕事の出来栄えを告げるときのようにクールに短く言った。その口調からまあまあの手応えのようなものを感じとったので、少し安心した。続けて、「次回のテーマ。あなたの理想の休暇。好きなように書けばいいわよ」と彼女は言った。やれやれ、そんな投げやりに言わなくてもと思ったが、そんなことはもちろん口に出さず、「書きやすそうです。仕上がったらすぐにご連絡します」と僕は老舗ホテルのロビーにいるコンセルジュみたいに健全な微笑を浮かべながら答えて、雑誌社を後にした。

理想の休暇。あまりにも漠然としているので、現実的な前提条件として、夏休みがもし10日あったらという設定で考えてみることにする。「休暇」をどのように捉えるかは人それぞれだけれど、僕の頭に一番先に浮かんだのは、やはり旅行。それも海外への旅(あれれ、考えているだけで結構楽しくなってきたな)。観光名所や美術館をあれこれ巡ったりするのももちろんあり得るけれど、「理想の休暇」であるならばリゾート地でのんびりゆっくり静かに過ごしたい。

朝は、専用の料理人がオムレツをカスタムメイドしてくれるビュッフェで朝食を食べる。できれば外のテラス席があると良い。見たことのない極彩色の鳥がやって来て、こぼれたパンくずをついばみにやってくるが、何羽かで争いになっている。可哀そうだからハッシュドポテトの切れ端を少し分けてあげる。現世で善行を積んでおくのだ。その後はプールサイドかプライベートビーチで読書。本に飽きたら軽く泳ぐか、周りのリゾート客の人間観察をする。ヨーロッパの人々、アジア系の人たち、あるいは北米からやって来たと思われる団体、うまく言えないけれど、それぞれに特徴があるような気がする。ヨーロッパの人たちが一番バカンス慣れてしているようで、「何もしないのが休暇ですけど、それが何か?」みたいなオーラがみなぎっている。

ランチはサンドイッチでもピザでも、あるいはローカルフードでも良いのだけれど、ビールは必ず飲みたい。なので、午後はウトウトしながら副交感神経が優位になって気が付いたら夕方になっている。ホテルに帰ってシャワーを浴びて少し休んだら、ビーチ沿いのシーフドレストランにいそいそと出かける。氷のたっぷり入ったアイスバケツにはキリリと冷えた白ワインが用意されている。ロブスターや鮮やかなターコイズブルーの熱帯の魚をグリルで食べるのだ。帰り道はひなびた感じのお土産屋さんに立ち寄りながらホテルへ向かい、これで1日が終了。

以上のルーティンを日本から現地に到着した翌日から5日間繰り返して過ごす。これでもう6日消化。7日目はリゾート地から帰国するために利用する空港のある都市まで移動。タイであればバンコク、マレーシアだったらクアランプールみたいに。夕方には都会のホテルに到着できるだろうから、その晩から翌日(8日目)にかけては、白熊用としか思えない設定温度の冷房の効いたショッピングセンターに行ったり、小洒落たレストランに行く。

9日目となる翌日朝(あるいは8日深夜)、帰国便に乗り夕方過ぎには自宅に着く。1日余るけれど、仕事に備えるための休息日にあてる。休暇終わりに休息日というのも妙だけれど、読者の皆さんならこの気持ち分かっていただけますよね? そうだ、そう言えば、ラティーノの友達がこんなことを言っていた。「今日で休暇が終わりだから、日付が変わる夜中の12時ギリギリまで遊んで楽しもう!」。天真爛漫に言われるとそれもそうだなとその時は思ったけれど、今回はやめておく。

 1 日本ー現地入り
 2 リゾート
 3 リゾート
 4 リゾート
 5 リゾート
 6 リゾート
 7 リゾートー都市へ移動
 8 都市
 9 都市ー帰国
10 仕事に備え休息

さて、行先を決めなければ。ここまでは何度も訪れた東南アジアのリゾートを思い浮かべて進めてきた。「理想の休日」であれば、あれこれ心配事が少ない既に訪れた場所に行くのも選択肢の一つかもしれない。でも、哲学者の東浩紀がこんな趣旨のことを言っていたのを思い出した。「せっかくの旅行なのに、旅先にスマホやラップトップを持ち込んでネット接続することに批判的な意見がある。でも僕はそうは思わない。旅行中には多くの未知のことに出会うだろうからすぐにネットで調べ、たっぷりある移動時間中に思索に耽ることで、より賢くなることができる」。だから見聞を広げ、より「理想の休暇」となるように新たな場所を訪れることにしよう。

地中海やカリブ海のリゾート、そうだギリシャのリゾートホテルに泊まりながら遺跡巡りをするのも良さそうだ。際限なく思い浮かんでくるけれど、実際に計画を立てたことがある旅先を思い出した。スリランカ。コロニアル調のリゾートがビーチ沿いにあり、まだまだ日本人にとっては馴染みがなく珍しいし、仏教遺跡や首都コロンボで帰路ショッピングも楽しめそうだ。読書に飽きたらホテルのアクティビティプログラムにあるはずのヨガのクラスを受けるのだ。

これが僕の「理想の休暇」妄想版。なかなか悪くない。と言うより、ほぼ完璧かもしれない。いつか実現したいな。

「好きなように書けばいいわよ」と言われたので好きなように書きました。編集長、今回も「はなまる」いただけますか?


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