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連載「水着はないけど、スカボロービーチ」

はじめに・・・

Pityman(ピティーマン)という劇団で演劇をつくっています。山下由(やましたゆう)です。
今年の9月に「ばしょ」という作品を再演します。これは僕が20代前半のころ半年ほど滞在していたオーストラリアでの出来事をベースにつくった作品です。
この作品をもう一度やるにあたってその頃あったことなどを書いてみようと思いました。「水着はないけど、スカボロービーチ」

なんでオーストラリアにいったんだ?理由なんてあんまりなかった。たまたま大学の図書室でみたオーストラリアの空の写真集。照りつける太陽に真っ白な砂の細い小道その向こうには広大な空と、蒼すぎてエメラルドグリーンの海。
自分の普通さが嫌いだった。僕は20歳で、特別なものはなにもなくて、不幸な経験もない。面白いことも言えない、何もかもが凡庸だった。何かに怒っているわけでもなく、何かを心底信じているわけでもなかった。
ヘミングウェイがあるインタビューで記者から「優れた小説家になるためには?」と訊かれこう答えていた。「不幸な少年時代」。
恵まれた環境に善良な両親。すこしいじめられたこともあるが取り立てて誰かに言うほど酷いものでもない。しかしそのせいなのか何なのか敷居のように低い自尊心。
変わりたかった。変えたかった。何もかもを。
あと海外に行きたかった。英語の喋れるかっこいい感じになりたかった。あの青すぎて緑な海をみてフィッシュアンドチップスとかを向こうで知り合った全然知らない女の子とかと食べたかった。
今となってはあんなに沢山出てくるフィッシュアンドチップスなんか食べられないし、カモメがめちゃくちゃ寄ってきちゃうし、針が降ってきてるのかと思うくらいの日差しの強さだぞ。と思うし、結局、変わったりなんかしないんだよ。とか思うけど。でもとにかく僕はオーストラリアに行った。
英語はつまらない冗談とかではなく本当に、ハローとサンキューとアイムソーリーくらいしかわかならかった。
それでも何のあてもなかったけど、行かないわけにはいかなかった。

※上載の画像は10年ぶりに引っ張り出してきたSDカードが死んでいたので、じぇーむすさんによる写真ACからの写真を使用しています。でもあれは紛れもなくスカボロービーチ。

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