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カナダに行ったカップル

語学学校で仲良くなった恭子に「学校を辞めちゃうから、最後にご飯を食べに行こう」と誘われた。
かわいらしい人でケラケラとよく笑い、中々クラスになじめない僕になぜかいつも話しかけてくれた。

日が傾いてオレンジ色になってきたのパースの駅前に現れたのは中古で買ったと思われるカーキ色の車と助手席から手を振る彼女だった。
運転席には背の高い優しそうな男が「どうも」と頭を下げた。

「おいしいピザが食べられるところがあるからいこう」座席越しに彼女が今からどこに行くのかを教えてくれた。
男の子は彼女の恋人で僕と同じ21歳だと言っていた。彼女は少し年上かなと思っていたら30歳で、この車も恋人君のものだった。僕はなんだか残念やら、ほとんどちゃんと女の子と付き合ったこともなかったので、なんだか自分のことが子供のように感じられて情けないやらのままなんとなく、どこから来たのかとか、どのくらいここにいるのかなど海内で日本人同士が出会ったときに最初にする薄い話をひとしきりしてピザ屋についた。
店は盛況で壁一面にワインボトルが並べられていた。

店員におすすめのピザとワインを聞いて三人でシェアしながら食べた。
ピザのことはあんまり覚えてないけど、なんとかかっこつけようと飲めもしないワインを頑張って飲んだことだけ覚えていた。彼女は恋人くんとニコニコと話すのに、僕にもとても優しく人見知りで中々話せないでいる僕にも話をふってくれた。

帰りに酔って寝てしまった。気がつくと真っ暗な海の砂浜に車は止まっていた。風が強く波のしぶきが顔にかかるくらいだった。大きな公衆トイレがあり、彼女が用をたしに行った。僕は恋人くんとさっきの店はおいしかったねなどと話していた。すると突然彼は飲んでいたコーラの缶をトイレの中に投げ込んだ。カランカランと大きな音が響き渡った。

恭子さんが驚いた顔で走って出てきて、彼を見つけると「びっくりしたじゃん!もー」と少しだけ怒った調子で彼の肩口をたたいた。彼はいたずらっぽく大笑いし、体をのけぞらせた。僕も笑いながらそれを見ていた。
家の前まで車で送ってもらい僕だけ車を降りて、またねと彼女たちに手を振った。
2ヶ月後くらいに友人とバーベキューをすることになった。せっかくだから恭子さんも誘ってみようと電話した。「今、あのときの彼とカナダにいるの。元気?」
元気だよ。と答えてまたねと電話を切った。誘ってくれてありがとねと彼女はまたケラケラと笑っていた。

Pityman「ばしょ」2019年9月20日(金)~24日(火)@新宿眼科画廊     https://pityman.jimdo.com/


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