見出し画像

サイゼリヤ短編集①~新婚生活

みんなのサイゼリヤ。私のサイゼリヤ。


駅から徒歩1分。

実際には2分くらいだが
賃貸物件情報には「1分」と書かれていた
そんなマンションで、新婚生活が始まった。


有楽町線と、
副都心線が利用できる東京メトロの駅。


駅から徒歩1分だったが、
地上の駅出入口から、

改札、ホームまでは
体感5分だった。


エスカレーターは
3台くらい乗り継いでいた気がする。


結婚して、初めて一緒に住んだ街。


駅前にサイゼリヤがあって、
仕事帰りによく寄った。


サイゼリヤに行こうと
お店の付近で待ち合わせをする。


自分はエスカレーターを
駆け登るタイプのせっかち人間だったけど

妻はゆっくりと
エスカレーターの上では微動だにせず待つ
おっとりタイプ。


駅に電車が着いても、
地上まではなかなか上がってこない。


いつも、
おっせ。

まだ来ないよ


なんて思いながら、待っていた。


駅に電車が着いたんだな

地上の出入口から
ぽつりぽつりと人が出てきて
そう分かると

一気にわわわっと
10~20人くらい来る。

最後にまた、ぽつりぽつりと
のんびりとした表情の人たちが
2、3人出てきて、


で、


妻が出てくる。


まじ、おっせ。



蟻の巣みたいに
地下深くに潜った先から
一生出て来ないんじゃないか

っていうくらいに

長い長い道のりを経て、
やっと出てくるのだ。


エスカレーターを
乗り継いできただけなのに

「はぁ~疲れた」

と、大海原を航海してきた
船員みたいに疲弊しながらも
やっと着いたー的な
達成感のある表情を浮かべる妻に


いささか、怪訝な顔を浮かべても
まったく気付きもしないで

おいそれとサイゼリヤに向かい

もうメニュー表とにらめっこしている。



デカンタの赤と、
なにかサラダ、そしてピザかな。


自分は大体それに、
ラムの串焼きみたいなのを
好んで食べる事が多かった。


妻はなにかパスタと、
あとはチーズとか。

半分半分のシェアではなく、
一口ずつ程度、互いの皿に渡して。


妻はシェアがそもそも
好きではない。


「何食べようかな?」


の問いは、妻自身に向けられたもので、
「私は食べたい物が食べられればそれでいい」
他人が何を頼もうが興味が無いのだ。

「一口ちょうだい」
も言わないし、あげたくもないらしい。


うん、そういう人、いるよね。



駅のエスカレーターで、
私が朝に出勤する際
改札へ向かい急いで下っていくと


週に2回くらいのペースで
マンションの1階にある美容室の店長とすれ違う。


自分はそこの美容室に通っていて、
もちろんその店長にも切ってもらっていたので
お互いに挨拶し合うのだけど

エスカレーター越しに、
「おはようございます!」

なんて言い合う関係も、
なかなかに滑稽である。



少し薄暗くて
そこまで利用者数の多くない駅前にある
サイゼリヤは、

お客さんもまばらで、
夜の9時くらいとなると
隣のテーブルはいつも空いていた。


当時は、
あってないような壁一枚を隔てて
喫煙できる席と、
禁煙になっているスペースとで分かれていて


煙草が吸える方から
匂いが流れて来ていたけど
さほど気になる事はなかった世の中だった。


プラス100円で付いてくるチーズも
ペコリーノチーズだったし


ラムの串焼きのポーションも
大きくって満足のいく出来だった。



家から徒歩2分くらいにある
新婚生活で通ったサイゼリヤで、


ミラノ風ドリアを食べる事は


一度もなかった。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?