猶木閑子

音楽と妄想と石と甘いものが好きです。 エブリスタで書いていた詩や、エッセイなどを気まま…

猶木閑子

音楽と妄想と石と甘いものが好きです。 エブリスタで書いていた詩や、エッセイなどを気ままに投稿する予定です。

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最近の記事

ゼロ

私の部屋には海がある 誰も知らない海がある 布団を捲り手繰り寄せ 波打ち際へと辿り着く 土踏まずから少しずつ 徐々に体を馴染ませて 大きくひとつ深呼吸 両目を瞑り覚悟して 一気に頭を沈ませる くるりと体が回ったら そこは私の海の中 私の海には夢がある 貴方の知らない夢がある 目眩が止むのを待ってから 両の瞼をこじ開ける どちらが上でどちらが下か 光が射すのと逆側へ 勝手に沈み始める体 深く潜れば潜るほど 海底の闇は濃く疼く どくりと熱が生まれたら そこは貴方の夢の中

    • あまやどり

      ふたりぼっちの散歩道 静かに重なる足音は 同じテンポからずれていく 僕はひとり上の空 遠くの電線を見つめている 突然変異の黒い雲 あなたはひたりと足を止め 手のひらを上にかざし見る ふたりで駆け込む東屋を 予報にもない夕立ちが襲う 無限に連なる絹の糸 密やかに吸い込まれては 町並みを映す鏡面を穿つ 会話はいらないと拒むように あなたは目線を合わせない 雨露の如く募る願い 言葉に変えてプレゼントしたら あなたの瞳は戻るだろうか 二度と帰れない日々さえも 甘く照らし出す罪が

      • Mangata

        あんたのお気に入りの腕時計 月面模様の文字盤を うんざりするほど自慢してた ガラスを撫でる指先が 妙に生々しく蘇る あの日あんたが望んだ答えを それらしく唱えてあげていれば あの日言えなかった想いも 伝えることが出来たのかな 残された自分に酔って イイハナシ風に上書き保存 寄せては返す波の上 純白の文字を示す銀の秒針は あの春の夜と同じリズムで 今も時間を刻んでる あんたが好きだった腕時計 見づらいんだとぼやく割には 毎朝欠かさずつけていた 鎖の巻き付く手首の色が やけ

        • 残り香

          初夏の陽気に汗ばむ額 緑の合間に降る日差し 流れる水のささやきを 聞かずにぼくは歩いてく きらきら呑気に揺らめく水面 甘い匂いのあめんぼう 今日の小川は穏やかで 水位もあまり高くない 纏わりつく蚊と腫れた指 むず痒くなるあの眼差し 流れる水のささやきを 聞かずにぼくは歩いてく ちらちら脳裏に揺らめく皆も 青い匂いの甘えんぼう 明日の小川も穏やかで 変わらず流れていくのだろう 今も聞こえるきみの声 初めて交わした挨拶は―― 白いレースのカーテンが 微かに湿った風に舞う

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        • エイチ・ツー・オーに捧ぐ詩【詩集】
          5本
        • 追憶のポエミー【詩集】
          8本
        • 柘榴の歌【詩集】
          2本
        • きみと眠り生きた日々よ【詩集】
          4本
        • ライブの話【エッセイ】
          2本
        • 胸の寒空に灯る唄【詩集】
          5本

        記事

          三角フラスコ

          何てことないエルレンマイヤー 透明なままゆらゆら揺れて 小さな泡と大きな泡と ぽこぽこ無邪気な音が鳴る “大切なものをひとつだけ” いったい何を閉じ込める? 例えばそれは思い出で 届かないから見つめてる 一瞬、僕に見えたのは 遠くに紅く燃える空 例えばそれは願望で 絶え間なく照らす隙間から 一際、僕を責めるのは 紫紺に溶けた朧月 誰かの為のエルレンマイヤー 澄んだ液体を抱き締めて 大きな粒と小さな粒と さりさり綺麗な音がする “要らないものをひとつだけ” いったい何

          三角フラスコ

          to You

          雨音の響くバス停で 窮屈に握る折り畳み はみ出た肩が濡れながら 袖が湿って重くなる 小さなブーケをぶら下げて わたしはひとりで立っていた “Happy Birthday to You” 頭の中で歌ったけれど この声はそこへ届くでしょうか 思い返すのは笑顔のあなた あなたと一緒に微笑むわたし 会えないあなたは笑えてますか 選んだ暮らしは楽しいですか まあるくほころぶ赤い薔薇 名前も知らない青い花 外では変わらず雨の音 茎が斜めに揺れている 水道の水を溜めた瓶 一粒の泡が浮

          途上シンガー

          音を立てて鳴る心臓を抱いて 確かにここに立っている 燃え上がるような夢を掲げて 確かにここで生きている 心を通わせてもいないけれど 出会った人はマネキンじゃないよ “確かにその血が通っていたでしょう?” 帰宅ラッシュの早歩き 前だけ向いて興味ゼロ 何かを目指す人々は 脇目も振らず過ぎていく 全速力でもなかったけれど 道を間違えた訳じゃないよ “確かにその足で歩いて来たんでしょう?” どこか遠くにすり抜けて 目が合ったのに気づきもしない 喉が枯れるまで叫んでも 誰も相手

          途上シンガー

          迷子

          ログを埋めるタイムライン 字面を見れば馬鹿馬鹿しくて 情けなさ過ぎて反吐が出る サミシイの? 構って欲しいの? ひとりぼっちは嫌なんだ? そこにあるはずの顔をなくして ここにあるはずの声もなくして 言葉ですらも信じない 君はあの日と同じまま 泣きたい気持ちを我慢して ひとりぼっちで彷徨った 優しい両手をはねのけ続けて 泣きべそかいたら負けだと信じて 迷子の君は どこへ行く? 視界を埋める人の波 みんな仲良く手を繋ぎ 楽しく笑って過ぎていく ここはどこ? あのひと

          梅雨晴れ

          梅雨の谷間の晴れの日に ぽかぽか温かい布団 毎度のごとく寝坊して お昼ご飯に遅刻した 君はいつもの 木陰のベンチで まるまる太った小雀に パンの欠片を何度も放る ごめんごめんと繰り返し 君の隣に腰掛ける いつもと同じコンビニ弁当 封を破って横に置く 駅から急いで歩いてきたから 僕の背中は汗まみれ ぱたぱたファイルで風を送って ごめんと もう一度謝った 僕らはカッコつけ合って ボロを出さないように 傷つかないように 泣けてくるほど くだらない話ばかりで 心からの言葉なんて

          梅雨晴れ

          僕らはどこへ向かってる? 僕らはどこから逃げている? さあみなさん 駅に向かいましょう 優しく微笑む先生が 目印の旗を高く振る おさない かけない しゃべらない 決められた道を言われたままに みんな同じく避難しないと このままで居たら だめですよ キラキラ輝く駅を目指して 後ろから急かされるまま 周りの人に流されるまま 黒々とした行列が 生き物のように蠢いた 息も出来ない人ごみの中で 透き通ったふたつの翼が 音を立てながら軋んでる 真紅の滴が一粒 疲れた背中に流れ落

          花束

          薄墨に淀むぬるい部屋 苛烈な紅が宙を裂き 夕暮れ時を告げる音 絡みつく湿度 不安な視界 例えば君がここに居て 僕を見ていてくれるなら…… 微笑みかける君の顔 あの頃のまま 今も きっと 絶望色した花束抱いて かすれた時間を積み上げて 重さをなくした花びらが はらはら流れてゆくのです 瞼の裏に消えた熱 退屈の味が粘りつき 唾を飲み込む苦い音 悪夢の終わり 亡者の吐息 確かに君はここに居て 僕を見ていてくれるから…… 微かな気配に揺れるもの あの頃のまま 今も ずっと

          道徳的な学習の時間

          薄っぺらい教科書が一冊 一週間で最高につまらない授業の始まりです 個性を見つけよう! 自分探しノートを書こう! 自分だけの何かが欲しい 誰かにとっての特別になりたい みんなに認めてもらいたい それがもしキラキラと輝いて 問答無用に素敵な自分を映してくれるのなら お金払ってでもダウンロードしたい かもね 普通は嫌だと我儘な心が叫ぶ 普通が一番と臆病な心が囁く 天の邪鬼にぐるぐる回って きっとそれが私だけの個性 なんてね 個性を見つけよう! 自分の性格を発表しよう!

          道徳的な学習の時間

          夢の剣

          “いつかあいつに勝ってやる!” 叫ぶだけならタダだから 寝っ転がって繰り返す その日が来るのを待つだけで 自分で立てる気もしない 負ける資格すら持ってない 心の奥じゃ分かってる 敵から身を守れるように 死にたくないから準備する 言い訳の盾を振りかざし 自嘲の鎧で完全武装 夢の剣は重たくて 持っても落してしまうから…… ガラスのケースに入れられて 飾られるだけのあの剣 たまに思い出して眺めて うっとり酔って ご満悦 “ここからが俺の戦場だ!” 口上だけは一丁前 戦う覚悟

          柘榴の歌Ⅱ

          飛び散る滴を拭う為 思いの丈もそのままに 泣き出す淵に立ち尽くす 剥き出しで光る赤い心臓 カッターナイフが待ちきれないと 冷たい鋼は濡れはじめ 円形の旗を駆りたてた 沈みゆく透明の繊維へ 永遠の時を紡ごうと 泡を吐きだす最後の抵抗 追い詰められてすり潰す 弾ける赤子の断末魔 はやくして はやくして 嘆く声の真似をした 化学の香りをまとう錠剤 唇を噛んで上をむく 渇いた共感が剥がれておちる 戸惑う世界を誤魔化して カッターナイフは動かない 赤い心臓は未だに光り 止

          柘榴の歌Ⅱ

          柘榴の歌Ⅰ

          なんてことない言葉の端に あの日の記憶が蘇る 部屋中あちこちひっくりかえし ようやく見つけたお目当ての品 引き出しの奥で冬眠中の カッターナイフを取りだした 長いこと触れていなかったから かちかちゆるい音が鳴る 手のひらに乗せればしっくりと あたりまえのような感覚で 錆び付いた刃を軽くひとなで 甘やかな色に心も踊る 胸のボタンを外したら 頼りない皮膚の境界線が ぱっくりと口をあけたまま 待ちきれないと騒ぎだす 指先で少しすくってみれば あの日の記憶が蘇る わずかばかり

          柘榴の歌Ⅰ

          高く透明な黒の果て

          すきま風にぼくは起きた 寒波到来で凍える夜 布団のなかは冷えきって はみ出た耳も指先も 感覚なんて消えている ぼくは無理矢理そこを出た 毛布をとりに部屋を出た 寝室を別にしようって 言い出したのはいつだっけ 少しあいたドアの隙間 真っ暗なそこに目をこらす やがて視界も慣れてきて 小さなベッドが空だとわかる 端にいるのが背中とわかる カーテンをあけて腰かけるきみ こんな寒さで何を見ているの 明日の予報は雨のち曇り 月も出てないし暗いだけだし いつまで経ってもわから

          高く透明な黒の果て