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とある雨の日、走馬灯を見た

「おしりが痛い」

小学生の時事故にあった


夏休みに入る3日前。
その日は生憎の雨だった。

当時一緒に遊ぶ事が多かった正吉くん。
その日も彼と遊ぶ約束をしていた。
雨の中でも元気に自転車で我が家に遊びに来てくれた彼と
午前中から一緒にゲームをしたり、デュエルマスターズを遊んでいた。


どちらかのお腹の音が鳴る。
時計の針は午後1時を知らせていた。
両親が仕事で居ない為、お昼ご飯は用意されていなかった。

ご飯を買いに行こう!
正吉くんはそう言うと家を飛び出して
雨がっぱを着用し近くのコンビニへと自転車で向かった。


急いで家を出る準備をする。
雨がっぱを着る時間を惜しんで
傘を差しながら自転車に跨る。
正吉くんの後ろ姿はもう見えない。


コンビニに到着した。
先に到着していた正吉くんは
どのおにぎりにしようかと悩んでいる様子。
ソレを横目に自分も昼ご飯を選ぶ。
選ばれたのはツナマヨおにぎりとネギトロ巻き。
小学生のお小遣いではコレが限界だった。


正吉くんも買い物を終えていた。
おにぎりと小粒のから揚げが複数個入っている揚げ物君を買っていた。
温かい物だから早く帰って食べよう!
正吉くんの空腹も限界の様で、お腹をさするジェスチャーをしだした。
つられて自分もお腹をさする。


正吉くんが雨がっぱを着ている隙に
傘を差しながら自転車をこぎ始めた。
コンビニで買ったお昼ご飯は傘を差している方の手に持っていた。
雨で濡れると嫌だからね。賢いんだ。
遅れて正吉くんも自転車を走らせた。


あと2つ程先の曲がり角を曲がれば我が家に着く。
頭の中では早くデュエルマスターズの続きをしたい!
僕のフレミングジェットドラゴンは最強なんだ!
そんな事を考えていた。


ガゴッン!!
鈍い音が傘を持っている方から聞こえた。
聞きなれない音だったので、その正体が何なのか確認したかった。
しかし、それは叶わない。
音がした次の瞬間には地面が顔の真横にあった。
さっきまで傘を持っていた方の景色が雨に濡れた地面でいっぱいだ。
冷たい地面の感触を全身が感じる頃に理解した。
事故にあった。


曲がり角から車が来ていた。
しかし、雨の音と傘をさしている状態での自転車走行。
死角からの無音の鉄塊。
気が付けなかった。
車はそこまでスピードを出していなかったので
吹っ飛ばされた体は道路のセンターラインの真ん中あたりに落ちた。


頭の中は意外にも冷静だった。
自分が事故にあって道のど真ん中に放り出された事は理解できた。
が、頭で理解しても体は言う事を聞いてくれない。
腕も足も動いてくれない。
体は事故のショックで固まっている。
立ち上がって早く道の脇に行かなくちゃならないのに。
目の前に大型トラックが来ているんだから。


一生とも思える時間が流れる。
降り注ぐ雨はスローモーションの様に感じた。
まだ2桁年齢になったばかりぐらいだが人生を振り返る。
たくさん転校したなぁ
友達は少ないながらも良い奴らに出会えたよ
コロコロコミックの銀はがしの懸賞でデュエルマスターズのカードセット当たったの凄い嬉しかったなぁ
井土くんに貸した少年ヤンガスと不思議のダンジョン返してくれないかなぁ
そんな事を思い出していた。
これが走馬灯か。


短い人生を振り返り終わると
目の前には極太のタイヤが迫っていた。
キュルルルウ!!
水しぶきをあげながら大型トラックは急ブレーキを試みる。
事故の衝撃で吹き飛んだであろうネギトロ巻きがプチっとタイヤに潰された時トラックは止まった。



息をするのを忘れていた。
小さく浅く息を吸う。
脳に酸素が供給されると同時に恐怖と安堵が肩を組んでやってきた。
全身が震えだす。
またもや体は言う事を聞いてくれない。
動かせるのは眼球のみ。
目に映るのはトラックから飛び出してきたドライバーと
おそらく、ぶつかってしまった車の持ち主が自分に駆け寄る姿。
そして視界の端に映る
指をさしてケタケタと笑う正吉くんの姿。


俺は気を失った。


目が覚めると知らない天井が見える。
病院だ。
そばには母親が居た。
現在の時刻は事故から6時間経っているようだ。
すぐに病院の先生が来てくれた。
先生は言う。
「おしりにあおたんが出来てますが問題ないですね。」
念のためその日は入院となった。
翌日、先生の「お大事に」の一言と共に病院から出た。


あれから長い時が過ぎた。
いまだに雨が降るとこの事故を思い出しテンションが下がる。
あの時、指をさしながら爆笑していた正吉くん。
トラックの急ブレーキが間に合わなければ、ネギトロの代わりに
俺の頭がプチっといかれていた。
それでも正吉くんは笑っていただろう。
この世に悪魔がいるならば
その笑顔は正吉くんにそっくりだと思う。


この記事を書くのに約2時間。
座りっぱなしで体のあちこちが痛い。


古傷のおしりが痛むぜ

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