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自動販売機が好きな話

「俺、自動販売機が好きなんですよ」

自動販売機が好きと言っても、売っている飲み物や
デザインが好きという話ではない。

自動販売機の前で起きるドラマが好きなのだ。

体験談を2つ紹介しよう

季節は春
高校に入学して間もないころ
クラスメイトに連れられて教室横の自動販売機にやって来た。
まだ名前も覚えていない君は、笑顔で俺にこう言った。

「ジュース奢ってやるよ!」

紙パックのココアを購入しようとするその手は小刻みに震えていた。
その道の名人もビックリな連打をかましていたのだ。
取り出し口から2つのココアを手に取って君は得意げに言う。

「ここのココアだけ連打すると2個出てくるんだよね!」

満面の笑みで語る君から受け取ったココア
今でも美味しかったのを覚えている。
その後、この出来事がきっかけに友人関係になった我々は
今後の高校生活への期待を胸に輝かしい青春を送る事になった…
なんて事はなく君は夏前に高校辞めた。


季節は冬
ここ最近で一番の冷え込みを見せている日に俺は外に居た。
寒さに負けずとポケットに手を入れて人を待っている。
道の向かい側には美味しそうなコーンポタージュを売っている自動販売機。
今すぐにあのコーンポタージュを体に取り入れたい。
しかし、一度温もりを知ってしまった手を外気に晒すのは案外勇気がいるのだ。
財布を鞄から取り出す事を放棄した己の手を情けなく思っている所に
一人の男が自動販売機の前に現れた。
男は作業着姿で手を擦りながら何を買うか悩んでいる。
大きくゴツゴツしたその手はコーンポタージュのボタンを押した。
コーンポタージュを手に取り頬に近づけ暖をとる。
男は缶を勢い良く振り、一息で飲み干した。
男の口からは白い息が漏れている。
俺の口は生唾ゴクリと鳴いている。
財布から百円玉を2枚取り出した俺はコーンポタージュを買う為に
向かいの自動販売機に足を運ぶのだった。


自動販売機の前で何を買うか考えている人を見て
「今この人は、自分の喉の渇きを満たす為にお金を使うんだ」
「スーパーに行けばもっと安く買えるのに今すぐ飲みたいんだ」
「いつもここの自動販売機を使ってるのかな?たまたまかな?」
そんなことを考えて楽しめる。

自動販売機ドラマのシチュエーションは夜が好ましい
街灯が少ない田舎の夜を照らす自動販売機
寂しさを紛らわせる為に集まる若人
喉の渇きを満たす度にトークに花を咲かせるヤンチャ集団
なけなしの500円玉は令和の印のせいで使えない事を知る俺
夜の自動販売機は大人の階段を上らせてくれる

俺、自動販売機が好きなんですよ


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