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父と暮らす ⑩電気ポット

実家のテーブルは、いつもごちゃごちゃしている。ペン立て、鍋敷き、お菓子のかごに薬袋。私はシンプルな景色が好きなので、見るたびにざわざわする。でもほとんどは母の趣味だから、入院中だけ少し片づけさせてもらうことにした。退院の日に戻しておけば、問題ないだろう。
 
特に、ど真ん中に鎮座まします大きな電気ポットと、その下のハンドタオル。これを片付けたら、スッキリ広くなるに違いない。お茶が飲みたくなったら、私はその都度お湯を沸かすし、父が自分でお茶を入れることはないから、そもそも不用だ。
 
と思って外してみたら、食事のとき、父とまともに対峙することに気がついた。ポットがあれば顔が隠れて何となくまぎれるけど、直に向き合うとちょっと落ち着かない。「これ、おいしいね」とか「あの人、次の映画で主役だって」なんて他愛のない会話でも出来るなら別だけど。
 
しわしわのお爺ちゃんとくすんだ還暦が向き合って、ただ無言でもそもそと食事する風景。何だかいたたまれなくなって、お茶碗洗いを終えたらすぐ、ポットを元の位置に戻した。

 

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