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父と暮らす ⑬クモと男子

90歳の父との2人暮らしが始まって4ヵ月。クモが出たのは3回目。私はクモが大嫌いで、見かけただけで鳥肌が立つ。黒くて太ったヤツは細かい毛が気持ち悪いし、アシナガなんかは足が1本抜けても平気で走るし、払い落とされたくせに糸を手繰ってまた上ってくる根性も気に入らない。あれ?なんかやたら観察してるみたい。
 
最初に発見したのは、ご飯を作るために台所に立った5月の朝。シンクに黒いヤツが潜んでいた。場所が場所だから、殺虫剤を使うのは阻まれるし、水で流したら後で排水ネットを捨てるときもっとグロテスクなものとご対面になる。そのまま捕まえて捨ててくれないかなと思って、「ねえねえちょっと、クモがいるんだけど」と父を呼んだ。
 
父はティッシュを持ってきてクモを包み、ゴミ箱を通り過ぎて玄関に行く。そしてそのまま外に逃がした。へえ、逃がすんだ。その翌週も、シンクの同じ場所に前よりも大きい黒いヤツがいて父を呼んだら、「お前の方が30倍デカい」と言いながら、また外に逃がした。30倍より、もっと大きくない?と思ったが、ここでツッコむのはやめておく。
 
そして今回は、浴槽だ。底のふちにいるからちょっと捕まえにくそうだし、シャワーで排水口に流した方が早いかなと思ったが、父はよろよろとしゃがんで、クモをティッシュにくるんだ。そしてゆっくり立ち上がり、私の顔の前に差し出してくる。は?
 
「ちょっと、やめて! 何、意味わかんない!」
 
するとニヤッとして、そのまま玄関に向かった。男子だ男子。小学校にいるよね、あんな子ども。まさか面白がって、外で見つけたクモを部屋に放してるんじゃないでしょうね!

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