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父と暮らす ⑭うす味

父は昔から、濃い味が嫌いだ。子どものころから食卓では「しょっぱい」以外の感想を聞いたことがない。しょっぱくさえなければ、多少硬くても彩りが悪くても何も言わない。まあ私もどちらかと言えばうす味が好みなので、問題ないと思っていたが。

大学時代の友人とランチに出かけた日、帰ってきていつものように夕食の支度をしようとして気づいた。お味噌汁のお鍋に水が足してある。お昼は父が自分でよそったから、そのときに足したものに違いない。

お味噌汁、結構うす味なんだけどなあ。これで2度目だ。前に石狩汁を作ったときも、水が足されていたっけ。一応お出汁をとって作っているので、水道水をじゃーっと入れている様子を想像すると、ちょっとげんなりする。

そんなに薄くしたいなら、限りなくお湯に近いものにしてやる! 私のは、お椀に直接お味噌を入れて、お椀で完成させよう! と思って翌日からすんごく薄いのを作った。どう思ってるかなと父を見ても、いつものように無表情のまま無言で全部飲んだ。

もしかして、味が分からないのかな? 翌日もその翌日も、私の分はお椀で仕上げた。そうして1週間が過ぎた夜、父が言い難そうに口を開いた。

「味噌汁な、もう少し味噌入れて良いんだぞ。看護師に『血圧低いですね』といわれた」

デイサービス先で測ったら、いつもより低かったらしい。お味噌汁がそんなに血圧と直結しているとは思えないけれど、だし湯みたいに薄くなったことには気づいていたみたい。良かった、味分かるんだ(←失礼!)。

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