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『ソーシャルファイナンス革命 世界を変えるお金の集め方』慎泰俊

●クラウドファンディングの理論的基礎を語る

 インターネット登場以前のメディア――テレビ、ラジオ、新聞、雑誌など――は、基本的に一方通行のメディアです。多数の受容者にたいして情報を送り届けることはできても、受容者側から情報を送り届けることは(基本的に)できません。

 こうしたメディアをマスメディアと呼び、マスメディアによるコミュニケーションをマス・コミュニケーションと呼びます。「マスコミ」という言葉はここから生まれました。

 インターネットの一般化とともに生まれた新しいメディアが画期的だったのはこの点です。

 インターネットを通してある意見を得た情報の受容者は、その意見の持ち主にたいし、言葉を返すことができます。それは同意かもしれないし、反論かもしれません。いずれにせよ、インターネット・メディアの多くは受容者の意見を受け入れる装置を備えていたのです。

 こうしたメディアを、ソーシャルメディアと呼んでいます。マスメディアと対置する言葉です。

 したがって、ソーシャルメディアにはウェブの掲示板やブログも含まれています。Amazonや楽天などのショッピングサイト、クックパッド、カカクコム、食べログなど「ユーザの意見」で成り立っているウェブサイトもその一部です。

 現在はFacebook、Twitter、MixiそしてLINEなどのSNSがさかんですが、これらはすべてソーシャルメディアに含まれるサービスです。

 マイクロソフト社がWindows95をリリースした1995年を「インターネット元年」と呼ぶことがありますが、ソーシャルメディアはそれと同じか、さらに古い歴史をもっています。

 ソーシャルメディアのもうひとつの特徴は、「儲からない」ことです。

 マスメディアは、多くの受容者あって成り立っています。たとえば、新聞や雑誌には必ず読者がいます。読者は情報を送り届けてもらう代償として、代金を支払います。

 民放のテレビやラジオはこの例には入らないし、新聞も雑誌も広告媒体としての顔を持っているので、これを一概に言うことはできません。しかし、「情報を得るために受容者が対価を払う」モデルがマスメディアのモデルだ、とはご理解いただけるでしょう。

 ソーシャルメディアはそうではありません。お金を払うのは、情報の受容者ではなく送信者なのです。

 たとえばウェブページ(ホームページ)を持てば、その制作と維持にかかる費用はそのページの持ち主(送信者)が負担します。ブログも、記事を書く人間は基本的に無償で書きます。SNSに投稿される記事も同様です。見る人はタダ。それがソーシャルメディアです。

 このような状況においては、お金を稼ぎ出す方法は必然的に少なくなります。目下のところ、成功モデルは「広告の掲載」以外にありません。

 新聞社は記事に値段をつけているようですが、どうなんだろう、あれ、儲かっているのかな。

 データがないのでわかりませんが、すくなくとも記事をつくるための費用(取材費用を含めた費用)のすべてはまかなえていないと思っています。

 ……と、いうような話は、常識だと思っていました。

 みんなが知ってるものだと、言わずもがなのことだと思っていました。

 でも、そうじゃないんだ。それは大いなる誤解なんだ。

 最近そう気づきました。

 昨年末の総務省の統計によれば、日本のインターネット・ユーザは1億44万人。人口普及率は82.8%に達するといいます。それから1年たっていますから、数字はさらに大きくなっているでしょう。スマートフォン・ユーザの増加も、大きな要因になっているはずです。

 インターネット・ユーザが少なかった以前であれば、上記は常識の範疇に属するものでした。まさに言わずもがなのことだったのです。でも、今は知らない人の方がずっと多くなっています。

 学校ではこうしたことを学ぶことはできないし、社会に出てからもその場所はありません。学ぶ場所がないのだから、知らない人が多いのは当然です。

 もはや常識で済ますことはできない。

 これを述べないのは怠慢以外の何物でもない。

 そう感じずにはいられませんでした。

 本書はクラウドファンディング(ソーシャルファンディング)が可能になった背景を述べるとともに、ファンド(金貸し)の常識について語った本です。

 お金を借りるにあたり利子がつくのは当然です。だが、なぜ利子がつくのか、説明できる人は多くありません。

 普段はそれでもいいのです。

 だが、たとえばクラウドファンディングなど、新しい方法論が出てきたときに、それは旧来の方法とどこがちがうのか、何が新しいのか考えることができません。

 怠慢はそのまま不能につながるのです。

 常識だとかさ、知ったかぶりしてちゃいけないんだ。

 何も言えなくなっちゃうんだ。

 本書はなにより、そのことを教えてくれました。

(2014年12月)

  

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