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卵よ、小さな宇宙よ

冷蔵庫の中にほとんど何もないとき、料理を作る気がわかないとき、時間がせっぱつまっているとき、何はともあれ、卵焼き。

わたしが子供のころは卵はごちそうだった。遠足の日には必ずゆで卵がついた。おしゃれなお菓子もデパ地下で買うようなお惣菜もないころ、みんなが平等に貧しかったころ、ゆで卵はどの子もリュックサックに入れていた。

卵といえば思い出す。遠足の前の日、母が頬に血を流して帰って来た。

「農家の家に卵を買いに行った帰り,転んでしまったの。卵を割っては大変と思って、とっさに両手で卵を頭の上にあげたら、顔を地面に打ち付けてしまって。でも卵は割れなかった」

言いながら。母は嬉しそうだった。卵は贅沢品だったが、何かの行事の日には普通の人でも買える値段だった。というか、鶏を飼っている家があちこちにあって、安くで分けてくれたのだ。

今思うと庭に放し飼いの鶏の生んだ卵だから、栄養たっぷりの美味しいものだったに違いない。

あの時の母の血まみれの顔は今も私の脳裏に焼き付いている。中学のお弁当のおかずはほとんど卵焼き。あの子も、この子も。

今も卵は庶民の味方。どんな素材とも合う。ポテトサラダ、チャーハン、茶わん蒸し、寒天デザート、何はなくとも卵を添えれば綺麗な料理ができる。

卵は「小さな宇宙」。

薄い殻の中に命を秘めている。命のすべてがそこにある。卵がヒナになると思うと厳粛な気持ちになる

何ひとつ添加物の入っていない天然素材、命を秘めた宇宙。今日もありがたく食べさせていただきます。

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