ナカヤマフェスタ種牡馬引退に思う、バビットという名配合 〜タイキシャトルの欧州性〜

先日、2010年の宝塚記念を制し、凱旋門賞でも2着と大健闘したナカヤマフェスタが種牡馬を引退すると発表がありました

今後はウイニングチケットも余生を送り有名になった『うらかわ優駿ビレッジAERU』で功労馬として過ごすことになるそうです

ナカヤマフェスタの種牡馬成績は他の大物種牡馬たちに比べるとさすがに見劣りするものの、繁殖牝馬の質を考えれば約10年間の種牡馬生活でガンコ(日経賞)とバビット(ラジオNIKKEI賞、セントライト記念)という2頭の重賞馬を輩出しただけで十分頑張ったと思います。現在も産駒は走っていますから、今後新たに重賞を勝つ馬が出てくる可能性は少なからずあるでしょう

彼が父として大成功とは言えない結果になったのもやや仕方ないところはあり、ステイゴールド後継は他に息が長く芝ダート問わないオルフェーヴルや、明確なニックスが知られており独自の強みも持つゴールドシップなどが活躍しているほか、血統的にも扱いが難しいという面は大きかったと思います

ステイゴールド系が気性という問題を抱えているのに加え、ナカヤマフェスタはHis Majestyという2020年現在において傍流寄りの血を3×5と濃厚に持っているため、自信に強く脈略させやすい牝系があまり多くはありませんし、仮に強調させても今の日本でよく走るかは疑問です
Hail to Reasonがかなり濃い目だったのも母方で微調整しづらかった要因でしょうし、自身も特別スピードに秀でていたタイプではありませんから、マイラー・スプリンター系の種牡馬が流行する昨今においては尚更不利を背負っていたのでしょう

そんな中で個人的に「これはキレイな配合だな」と見るたび感心するのが、先程も名前を挙げた2頭いる重賞馬のうちの片割れ・バビット

一見して母父・タイキシャトルという部分だけ見ると中距離馬な父にアメリカンなマイラー肌を付けて現代風にしたとも受け取れますが、よくよく見るとこれが結構面白い配合になっています

まずタイキシャトルというのは父がDevil's Bagというサンデーサイレンスと同じアメリカのHalo系の種牡馬ですが、この馬の全姉にはGlorious Songという牝馬がおり、母として複数の欧州GⅠやジャパンカップを勝ったシングスピールや、種牡馬として活躍したRahyを産んでいます

また、タイキシャトルの母父・Caerleonも欧州で走り種牡馬として凱旋門賞勝ち馬も出していますし、母母父・Thatchに関しては欧州を代表する名繁殖牝馬・Special(Nureyevの母にしてSadler's Wellsの母母)の全弟ですから、構成要素を個別に見ていくとタイキシャトルという馬は欧州的側面が強いマイラーなのです
タイキ自身がフランスでジャック・ル・マロワ賞を勝利したのは、むしろ当然の帰結だったとも言えるでしょう

Devil's BagやGlorious Songの血統は、タイキシャトルやシングスピールの他にも、Glorious Song牝系のハルーワソング一族(シュヴァルグランやヴィルシーナなど)が国内で活躍していることから、日本適性の高さもしっかり証明されています

さらにバビットはその母父・タイキシャトルに母母父としてNureyevが配置されていて、Special=Thatchの全姉弟クロスを作ることで欧州的粘り強さを強調しており、さらに欧州系Nasrullahの血脈であるMill Reefも加えることでスピードの持続性をさらにプラスする形
Sadler's WellsやNureyevにMill Reef系を合わせるの欧州のド定番配合ですし(シングスピールの父・In the Wingsもこのパターン)、Devil's Bag内にあるHerbagerの血もやはり欧州系ですから、バビットの母方はタイキシャトル内にある欧州性を引き出していると言えるでしょう

ここで活きてくるのがバビットの父となるナカヤマフェスタ
彼の父であるステイゴールドはもともとフランスで走ったディクタスの影響が濃い種牡馬ですし(この馬もまたジャック・ル・マロワ賞の勝ち馬)、ナカヤマが強烈なクロスを内包しているHis Majestyも欧州で重要な血であり、中でも現代欧州においてSadler's Wellsと同じくらい重要な種牡馬がデインヒル(Danzig×His Majesty)ですから、別アプローチで欧州指向を強めたバビットの母方とは相性◎
これだけ書くと欧州性が強すぎて日本では重く見える配合ですが、タイキシャトル自身が日本のスプリント〜マイルで無双した素軽いスピードがありますから、そこでうまく緩和してくれるのでしょう
実際、母方からのスピードで逃げつつ、父母両方から引き継いだ欧州的パワーとスタミナで粘り込む馬に出たのがバビットで、配合の特徴がキレイに強みとして転化されています

単体で見るとクセが強く扱いにくさのあるナカヤマフェスタという種牡馬を上手く異系として使いつつ、タイキシャトルが持つ欧州性を丁寧に引き出したバビットは、まさしく種牡馬・ナカヤマフェスタを代表する名配合なのではないでしょうか?

なお、上記を踏まえたうえで改めてナカヤマフェスタもう一頭の重賞馬・ガンコの配合を見てみると、基本的な骨子はけっこう似通ってたりします

シングスピールは先に述べたとおりGlorious Songを母に持つ馬ですし、こちらもMill Reefを持っているのは同じ。母母父・Polish PrecedentDanzig×Buckpasserと、His Majestyこそないもののデインヒルに近い構成で、全体として欧州的な組み合わせ方です
ガンコの場合、母父が中距離馬のシングスピールなのでバビットに比べるとスピードよりスタミナが勝る形に出たのか適正距離は長めになっていますが、二頭いる重賞馬がどちらもナカヤマフェスタにDevil's Bag=Glorious Song全姉弟との組み合わせなのは単なる偶然ではないと思いますし、ナカヤマにとってニックスの関係にあった可能性は高いでしょう

逆に狂気を感じる配合だったのはヴォージュ

ナカヤマフェスタがクロスを持つHis MajestyにはGraustarkという全兄弟がいて、こちらも種牡馬として度々血統表で見かけるのですが、ヴォージュはGraustarkのクロスを内包するタニノギムレットを母父に抱えており、父母両面からHis Majesty=Graustarkを4×5×6×6とかなり強調する配合になっています
近年の競走馬においてこの兄弟の名前を見るのは5代血統表でもだいたいは1本で、2本あれば濃いめだな……と感じるくらいですから、1代分奥に隠れてるとはいえクロスを4本まで持つのはかなり珍しく、狙ってやってたのならもはや天晴という他ありません
案の定この配合ではスピードが足りなかったか、オープン入り後の勝鞍は2600m以上の距離だけになりましたが、それでもOP戦を二勝しているのは種牡馬としてのナカヤマフェスタが持つ底力を褒めるべきなのでしょう

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