【京フェス】賀東招二先生特別インタビュー

こんにちは、京都SFフェスティバル実行委員会のろんげです。

みなさん、ラノベ読んでますか?

ラノベ大好き! ラノベ大好き! ラノベ大好き!(素振り)

最近は京大SF研会員の趣味もあり、京フェスにもラノベ界隈の方を多数お呼びしています。
例えば今年は夏海公司さんと周藤蓮さんの対談企画を立てましたし、去年はラノベやアニメのフィールドで活躍するライター・太田祥暉さんのご講演がありました。

さて、毎年ラノベ枠を一つでいく……のかと思いきや、今年はなんとさらにラノベ枠があります。
しかも超大型ゲストです。

その名も……賀東招二さん!

ちょうど5月に『フルメタル・パニック!』の新作が発売されたほか、11月22日にはKAエスマ文庫より新シリーズ『MOON FIGHTERS!』が発売されます。『フルメタ』は言わずもがなですが、『MOON FIGHETRS!』は月面レスキュー隊のアクションとのことで、「SFだ!!!!!」という感じになりますね。

どのような企画かはX(旧Twitter)上の企画紹介文をご覧いただくとして……
今回、賀東さんに、SFを切り口にしたインタビューを実施しました。賀東さんが所属されていたという《中央大学SF研》についてのお話も伺いましたので、大学SF研界隈必見です!


★プロフィール

賀東招二さん

作家。脚本家。1994年『弁天女子寮攻防戦』収録の表題短編にて作家デビュー。代表作に『フルメタル・パニック!』『コップクラフト』シリーズなど。アニメのシリーズ構成、脚本も多く手掛け、自著のアニメ作品や『氷菓』『エスタブライフ グレイトエスケープ』などを担当。

平和さん

編集者、ライター。ストレートエッジ所属。過去、ライトノベルのファンイベント「ライトノベル・フェスティバル」の実行委員長を務めたほか、京都SFフェスティバルにも参加経験あり。京フェス企画の聞き手。

○インタビューの聞き手:ろんげ

京大SF研所属。ラノベのオタク。

★自己紹介

――ではまず、自己紹介をお願いします。

賀東 賀東招二です。小説家・脚本家をやっています。最近は小説家ばかりですね。

――『フルメタ』『甘ブリ』など小説はもちろんですが、『氷菓』など京アニ作品のシリーズ構成を担当しているイメージも強いです。

賀東 有名なのは京アニさんの作品ですよね。他のアニメもやっているんですが、そっちはどうも鳴かず飛ばずで(笑)

――では、創作を始めた理由を教えてください。

賀東 えー、あんまり覚えてないなぁ……。高校のときにテーブルトークのRPGにハマって、マスターをやることが多くなったのが原点だとは思います。マスターは設定や地形、NPCのデータなどを色々考えなければいけないんですが、プレイヤーたちはただの素人なので、「ここでこのキャラクターを殺します」とかバカな行動をしてくるんですよ。
 それもアリなんだけど、マスターとして「こうした方がいいんじゃないか」というのが段々多くなって。結果、自分で小説を書く方が早いんじゃないかとなったのが最初の動機だったような気がします。それが大学のときぐらいですね。

★賀東さんは中央大SF研のご出身!

――大学の話が出ましたが、賀東さんは中央大SF研のご出身と伺いました。

賀東 そうです。中大SF研って、日本で二番目に古いSF研だと言われてたんですよ。私は1991年に入ったんですが、その頃には創立から結構時間が経っていて、もうオタクのオールラウンドサークルみたいになっていました。全然SFを読んでいない人も多かったんですね。マンガ好きやアニメ好きがよく入ってくるサークルで、自分自身もSFを特別読むというわけではありませんでした。まあ、会長になってからは、仕方がないので色々読みましたけど!
 ただ、一学年に一人くらいハードSFが好きな人はいたので、ハードSFはそいつに任せておいて、他はゲームなどで遊んでばかりいました。

――それは今のSF研と同じですね(笑)

賀東 やっぱハードSFって、ぶっちゃけて言うとつまんないんですよ(笑)。勉強のつもりで色々読みはしましたが、ディックなんて訳わかんなかったし、『ユービック』は100ページくらいで挫折しました。だってつまんないんだもん(笑)

平和 SF小説ではなく、SFの映像作品で大学時代にハマった作品はおありですか?

賀東 90年代頭くらいだから、うーん……

平和 『ターミネーター2』とかですかね。

賀東 あ~~~。『ターミネーター2』はもちろんハマりましたけど、別にSF研だからとかは全然関係なかったですよ。その頃はもうSFが拡散していたので、普通にエンタメの一つとして接していました。
 その頃一番ハマっていたSF的なもので言えば、『トップをねらえ!』でしたね。3巻が89年の公開で、そこからもう数年経っていたのですが、まだ自分の中には熱気が残っていて。『トップをねらえ!』のことばっかり考えてたなぁ……。

――もう少し大学時代の話を伺いたいです。先日『ドラゴンマガジン』が35周年を迎えましたが、賀東さんの大学生時代がちょうどドラマガの創刊に被りますよね。在学中、ドラマガやファンタジア文庫など、ライトノベルは読まれていたのでしょうか。

賀東 いやー、全然読まなかったです。大学生くらいの年頃になると、やっぱりひねくれてるじゃないですか。だから「富士見ファンタジア文庫」なんて新参が出てきたら、まず馬鹿にしてかかってたわけですよ。『スレイヤーズ』なんてもちろん「なんだそりゃ」って感じだし、『ロードス島戦記』ですらちょっと小馬鹿にしているという(笑)。
 これは間違った姿勢なんですけどね。でも、大学生なんてそんなものじゃないですか。

――思い当たる節はありますね(笑)

賀東 まあ、そういう時期なんですよ。だからファンタジア文庫なんて、馬鹿にして読みもしませんでしたね。

――それから『フルメタ』の出版に至るまでの経緯を教えていただけますか?

賀東 大学4年生のころ、遊演体というTRPGの会社で働いていたのですが、富士見ファンタジア文庫から出た蓬莱学園シリーズの短編「弁天女子寮攻防戦」でデビューしました。そのときに編集さんと縁ができて、『フルメタ』の原稿を持ち込んだ形です。
 その頃は退学してもう大学生ではなかったので、もう少し真面目に、最近売れているものなどを研究していましたし、ファンタジア文庫のことも馬鹿にしているわけではなかったです(笑)

――そこからずっと専業で書かれているんですか?

賀東 そうですね。『フルメタ』を始めたら忙しくて、そこからずっと専業です。そういう意味じゃ、全然社会人経験がないんですよ。

★影響を受けたSF・ベストSF

――影響を受けたSFやベストSFはありますか? 難しい質問かもしれないのですが……

賀東 アニメも含めるんだったら、やっぱり『ガンダム』ですよね。9歳か10歳のとき、再放送で初めて見ました。その頃一番最初のガンプラブームがあって、デパートの前に行列が出来たり、列が将棋倒しになる事件が起きたりして。ものすごかったですよ、当時は。

平和 今も新作ガンプラが発売されるときはなかなか凄いらしいですが、それをさらに超えるレベルですよね。

賀東 凄かったです。社会現象レベルのブームが直撃でした。だからSFと言ったら『ガンダム』ですね。

――ちなみに今回、『水星の魔女』でSF考証をやられていた高島雄哉さんも京フェスにお呼びしているのですが、『水星の魔女』はご覧になりましたか?

賀東 見ました。面白かったです。学園ものにしたことが結果として成功しているわけなので、やっぱりみんな学園ものが好きなんだな、と思いました。

★フルメタ出版前夜

――『フルメタ』にある学園ものの要素も、狙って取り入れたものだと聞きました。

賀東 そうですね。『フルメタ』も最初は単に戦争もののイメージだったんですが、「学園ものにしよう」という編集さんの意向がありました。出版社の当時の方針もあり、学園ものの企画が通りやすかったんですよ。実際1990年代末から2000年代頭のあたりは学園ものがやたら増えた時期でもあります。

平和 オーダーとしては「フルミリタリーにするのではなく、学園ものの要素も入れてくれ」という感じだったんでしょうか。

賀東 むしろ「ミリタリーは辞めてくれ」ってくらいのもんでしたね。

平和 その割に『フルメタ』の世界には東西冷戦が残っていたり、架空戦記ばりにif歴史が盛り込まれていますよね。それはセーフだったんですか?

賀東 全く気にしてなかったみたいです。どうでも良かった、というか。どちらかというと、当時のファンタジア文庫が長編を出し渋っていたことに苦しめられました。短編をドラマガに連載したところ、アンケートで『オーフェン』と『スレイヤーズ』に次ぐ三番手につけて、それでやっと長編を出してもいいかな、という雰囲気になりましたね。渋々って感じで、部数も少なかったですけど。それで長編を出したら、あっという間に売り切れたんです。緊急重版がかかって、やっと長編を出すのも軌道に乗った感じです。

★SFって、なに?

――賀東さんにとってSFとは何でしょうか。こちらも難しい質問で恐縮なのですが……

賀東 難しいですが……ビタミンみたいなものでしょうか。なかったら困るけど、本当に当たり前にある栄養素の一つですね。当たり前すぎて普段は意識しないくらいのものです。

――では、新作の『MOON FIGHTERS!』でSF的要素が用いられているのも、SFを特別意識したわけではないのでしょうか?

賀東 そうです。「近未来」「レスキューもの」「舞台は月」というあたりで考えているので、SFをやるぞという感じじゃないんですね。KAエスマ文庫の担当編集さんにも、あまりSFを打ち出さないようお願いしているくらいです。やっぱりSFを出し過ぎるとお客さんが離れていっちゃうというのもありますし、SFのファンタジー的な要素がほとんどない作品だからというのもあります。作中の技術が、だいたい現実の延長なので。だからある意味では、『MOON FIGHTERS!』はSFじゃないんですよね。

――そういう現実の技術は、ふだんどのように勉強されているのですか?

賀東 普通に本を読み、ネットのニュースを読み……という形です。たまに見落としがあってとんでもない勘違いをすることもありますが。今回も恥ずかしいミスをしてしまったのですが、考証の方に突っ込んでいただいたおかげでギリギリ修正できました。

★普段の執筆環境

――次に、道具や場所など、普段の執筆環境について教えてください。

賀東 前はキングジムのポメラを使っていたのですが、最近はiPadとタブレット用のキーボードで書いています。書いている最中にネットを検索することが増えてきて、ポメラだと力不足になってしまったんですよ。今はiPadで書いた原稿をクラウドに置いています。

――どちらもポータブルデバイスですが、外で執筆されることもあるんですか?

賀東 ほとんど外で書いてます。家だと誘惑が多すぎて仕事にならないです(笑)

――外ではどういうところで書かれているんですか?

賀東 できるだけ意識高い系のところに行くようにしてます。スタバとかコワーキングスペースみたいな、なるべく上品で綺麗なところ(笑)。そういうところだと仕事する以外ないという雰囲気になってますし、他にも自分より若い人たちがリンゴマークを輝かせながら働いているので、原稿書くしかないなという気になります。それを狙って行っています。
 スタバはいいぞ、と皆さんにおすすめしたいですね。

――朝から夜までスタバですか。

賀東 最近は夜にやらないようにしているので、昼から夕方が多いですね。午前中はいまいち集中できないので、メールなどの処理が多いです。

★新作『MOON FIGHTERS!』について

©賀東招二/京都アニメーション

――『MOON FIGHTERS!』がどのような作品で、どんな見所があるのか、教えていただけますか?

賀東 月面のレスキュー隊を取り上げているので、基本的には事件や事故が起きてそこに駆けつける、というような話になります。見せ場は……少し難しいですね。

――事前にサンプルを読ませていただいたのですが、男性キャラが魅力的で驚きました。普段、あまり男性キャラに注目することがないもので……

賀東 そうですね。今回、女性キャラがほぼいないんですよ。男だらけでアツ苦しい。最初、キャラクターを創るときから女性ファン向けの作品として考えていました。
 でも、意外と男性が見ても面白い作品になったと思います。やっぱり男所帯の面白さってありますから。また、特に後半にハラハラドキドキなアクションを用意しています。そこはいつもの賀東なので、楽しみにしていただけると嬉しいです。

★今後書きたいテーマは?

――『MOON FIGHTERS!』に限らず、今後書きたいテーマや題材などはありますか。

賀東 二つあります。まず一つは、ただイチャイチャラブラブが書きたいなって(笑)。20代くらいの新婚さんのカップルがただイチャイチャするだけのやつです。マンガではよくある話だと思いますが、ラノベでは実はあんまりないな、と思って。女性向けだとあるんですけどね。どう、ありますか?

平和 最近『SPY×FAMILY』リスペクトの偽装結婚タイプのやつが出てますが、賀東先生が想定しているのとは違う感じですね。

賀東 なるほど。それに加えて、これは本気で考えているのでネタバレになるかもしれないんですが(笑)、ガンダム的な話をやりたいと思っています。
 『十五少年漂流記』とスペースオペラ的な要素が混じったジャンルというのが昔はあったんですが、今は途絶えちゃった感があるんですよ。直近では『無限のリヴァイアス』(1999)や『機動戦士ガンダムSEED』(2002)くらいまで遡らないとないという感覚です。しかも制作会社の体力的に、ああいう2クール以上必要な長い話はもうアニメじゃできないんですよ。ガンダムの『水星の魔女』ですら分割で2クールじゃないですか。
 だからもうアニメ化を考えないで、ガンダム的な漂流ものを小説でやったら面白いんじゃないかなと思っています。おじさんたちは昔懐かしで楽しめるし、若い人たちは若い人たちで逆に新鮮じゃないかな、と。どこの会社が拾ってくれるかという問題はあるんですが(笑)、今一番やりたいのはそんな話です。

★おわりに

――最後に、京フェスにご参加される方々に向けて一言あればお願いします。

賀東 自分がどんな大学生だったかという話は少ししましたが、たぶん30年前のSF研の大学生と今のSF研の大学生で、そう大きくは変わってないと思うんですよ。だから、みんな好きなことをやるのが一番いいですよ! 好きな方向に突っ走ってもらえればと思います。


*このような京フェス講演者へのインタビューをまとめたほか、関連作品のレビューや全国の大学SF研交流企画を載せた「WORKBOOK118 京フェス特集号」がbooth上にて頒布中です。なるべく京フェス当日(12/2、3)までに届けられるように頑張ります。
https://booth.pm/ja/items/5235855

書いた人:ろんげ


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