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【詩】蠱毒

夜に見る大きな湖

遠い遠い向こう岸に 家の明かりが見えて

空と湖の境界がわかる


雨の日に遠くに

霞んだ工場があって

なんだか恐竜を見ているような心地になる


晴れの日に見た

あまりにも鮮やかな世界

美しすぎて

死のうと思った


冬に向って散りゆく死は

祝福を受ける

私も今死んだら

この世界から祝福を受けられる?


カワセミが光りながら2羽飛んでいった

虫は最期のきらめきを放ちながら飛んでゆく

散りゆく落ち葉はあまりに鮮やかで

私もこんな風に散りたいと願った



ぼくはこの世界を

美しいと思ったことはない

ぼくは生まれたときから

この世を恨んでいた


息をしたところでこの世の空気は

ぼくの肺には入らなくて

知らない誰かはその空気を

「美味しい」と言って笑った


ぼくは息をしたことがない

制圧されて 制圧されて

いつも苦しくてたまらない

息をしてしまったら

ぼくは殺される


大きな石を乗せられて

ミシミシとひび割れてゆく身体から

血が溢れても尚

誰もぼくを見ない


暗い暗い場所に閉じ込められて

そこには醜い有象無象が

犇めいていて ぼくは

蠱毒の一部


勝ってやろうじゃないか

有象無象を食い散らかして

強く醜くなって

この世を呪ってやろう


勝ってやろうじゃないか

自分が入れられた壺を壊して

外に出てやろうじゃないか

全て壊しながら



私の中におさめた

黒いものを詰め込んだ壺

中で何かが暴れて

今にも壺が割れそうだ


それが出てきたら

私はこわれてしまうだろう

身体がひび割れて

崩れ果ててしまうだろう


戦ってやろうじゃないか

迎え撃ってやろうじゃないか

私が築き上げてきた

「私」というものを振りかざして

お前を殺してやろう

今までも殺せなかったお前を

今 私は

殺してやろう

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