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雪来たりなば
ようやく吐く息が見えるようになった12月の金曜日の朝。会社に着くなり、波多次郎が駆け寄ってきた。
「三好さん、佐原さんが病欠、神谷さんが急な仕事で、自分と三好さんの2人だけになったんですが」
どうしますか? と長身の部下に問われ、三好太郎はしばし思考を巡らせる。
今日は月1の定例会かつ早めの忘年会だから、正直楽しみにしていた。お店も予約している。しかし、今から人を探すのもなかなかに厳しい。
「俺は、1人暇な人間に心当たりがある。お前も1人探してきてくれ」
「わかりました!」
「俺たちに理解がありそうなやつ、頼むな」わかってますよと頷いて、波多は自分の部署に戻っていく。
二日酔い、なし。胃腸はまあまあ。コンディションは悪くない。
午後7時。三好は定時で仕事を終え、待ち合わせ場所に向かった。波多とは現地で合流することになっている。
自然と鼻歌が出てくる。街は地味ながらクリスマスの飾りに彩られ、楽しげだ。
「お!」
目当ての場所には、既に2人いた。
羽多の隣の見知らぬ女性が会釈する。
「坂本まりあです」
「俺のサークルの時の後輩で」と言いそえる波多。
「今日はよろしくお願いします」と三好が言ったその時、4人目が慌てて駆けてきた。
「遅くなりました!」長い髪を振り乱してきた女性は荒い息を吐いた。
三好が彼女を見るのは久しぶりだ。まあ元気そうで安心した。
「三好ゆきです。弟がいつもお世話になっています」
⛄⛄⛄
「なんだったんだろう、あの異様な盛り上がりは」
午前5時。三好姉弟は駅への道を歩いていた。ゆきの呟きに、「いつもあんなもんだよ」と太郎は返す。会社のカラオケ部の活動は、いつも朝までコース。だから、月1なのだ。
冬しばりのカラオケ。昔のアイドルから演歌、流行のバンドまで。ありとあらゆる寒そうな歌詞を歌い上げた。最後は時間ぎりぎりで「雪やこんこん」で締めた。
「だいたいまりあちゃんも歌いすぎでしょ」「あの2人合唱サークルだったらしいから」「あんたはバンドやってたしね」
続く言葉を投げようとした時、太郎はふと空を見上げる。
小さな、ふんわりとした白いものが舞い降りてきた。
「雪だ」
鼻を赤くして、ゆきが笑う。
2人はどこかはしゃいだ顔をして、家路を急いだ。
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