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国連常任理事国が推しのウマ娘について語るようです

■推しウマ娘、常任理事国首脳 熱弁

 アニメが好評を博し、長期間の延期を経て配信されたウマ娘プリティーダービーがアプリリリース以来、驀進的躍進を果たしている。この世界的人気を受け、国際連合は推しウマ娘を決めるための常任理事国首脳会談を開催した。
「なぜ加盟各国に投票権のある総会ではないのか、これでは密室会議だ。我々にも語らせろ」との批判に対し、国連事務総長は「推しについて語ることは戦争の火種になりかねない。無用な混乱を避けるため、常任理事国のみによる会談という形を取らせてもらった」と説明している。
 国際情勢に詳しいある関係筋は「新たな世界秩序形成のため、常任理事国が八百長を仕組んだ」(AFP通信)との見方を示している。


■アメリカ豪語 ゴールドシップは大宇宙

「まずはウマ娘プリティーダービーを世に送り出してくれたCygamesと馬名を貸してくれた馬主の皆さんにお礼を申し上げたい」
 
 冒頭、強気の発言で知られるアメリカ大統領が最敬礼で頭を下げた姿は全世界を騒然とさせた。

「二次元美少女がグリグリ動くなめらかなモデリング、熱気に包まれた観客席と緑のターフを反映した丁寧なグラフィックや史実を再現したストーリー、ファンが夢想せずにはいられなかったifを実現したシナリオ、そしてなにより、キャラクターだけでなく"レース"を巧みに映し出すカメラワーク、逃げきれるか差しきれるか手に汗握る緊張感といった"競馬ゲーム"としての作り込み。ともすれば現実の出産よろしく死産にもなりかねないなか、下馬評を遥かに凌駕するクオリティを結実させたスタッフの力量・熱量には感服せずにいられない。
 率直に言って、最初はまた安易な擬人化か、名前だけ借りたアイドルゲームみたいなものなのだろうと木で鼻をくくった態度でプレイし始めた。だがそんな不埒な考えは育成を一周するころには吹き飛んでいた。なんと私は不遜な気持ちを向けていたのだ……!
 ここには現実同様、ライバルとの勝負に熱意を燃やし、時には怪我や不調に悩みながらも頂点を目指してレースに臨み、トレーナーとともに人バ一体となってターフと人々の心に蹄跡を刻むアスリートたちがいるではないか!
 彼女たちを生み出してくれた製作陣や競馬関係者の並々ならぬ努力には本当に頭が下がる。私も襟を正して彼女たちに誠心誠意向き合うつもりだ。改めて本作の関係者には深く感謝申し上げる。時勢が許せばひとりひとりに議会名誉黄金勲章を手渡しに行きたいほどだ」

 関係者に向けて賛辞とジョークを述べ、各国の代表団を沸かせた米大統領は、さて、と本題に入る構えを見せた。

「推しのウマ娘を決めるにあたり、国内世論は大いに割れた。ザ・アメリカンガールなタイキシャトルか、アメリカ生まれの大和撫子グラスワンダーかで南北が真っ二つになった時期もある。しかし、輝かしい業績とともに数々の奇行で知られるテスラCEOによるゴールドシップ応援メッセージ、ならびに同社による『ゴールドシップの走行をモデルにした自動運転技術のデモンストレーション』により風向きが変わり、ゴールドシップが対抗バをグイグイ押しのけてアメリカの推しウマ娘筆頭に推挙された。
『ウマ娘界のハジケリスト』『会話が成立しない』『120億円を紙屑に変えた女』などと異名・逸話には事欠かない彼女だが、その自由奔放な振る舞いが多くの人の耳目を集め、市井の注目をさらったことに異を唱えるものはいないだろう。恵まれた体躯に秘められた馬力を存分に発揮して、バ群後方から集団を一気にごぼう抜きする追い込みの爽快感を彼女から教えられたトレーナーも多いはずだ。長いこと追加情報がなかった日照りの時期でも宣伝担当(自称)として、文字通り馬車馬のごとく話題を牽引し、アプリリリースまでの期間を支えた功労バとしても彼女を讃えたい。
 いやしくも大統領職を務めたこともある誰かさんは"フェイクニュース"が口癖だったが、いまやゴルシを知らないヤツこそが"フェイク野郎"だと言いたいね。

 前任者を痛烈に皮肉ったアメリカ大統領は、最後にこう締めくくった。

「今や人類の活動領域は宇宙にまで及んでいるが、その人類の科学力をもってしてもゴルシのすべてを解明することはできないだろう。型にはまらない、いや型ごとぶち壊す天衣無縫さをもった彼女こそが、地球に誕生した大宇宙<<マクロコスモス>>そのものである」


■中国 ハルウララに三顧の礼尽くす

「古来よりわが国は騎馬民族による侵入に悩まされてきた。撃退できた時代もあれば宥和政策を取らざるを得なかった時代もある。とりわけ近代の歴史においては、女真族による支配、西欧列強による大陸蹂躙など、噛んだ奥歯が割れるほどの屈辱にまみれてきた。しかし我々は極めて強固な独立心を糧に自国を取り戻し、再び世界に覇を唱えんとしている」

 中国国家主席が神妙な面持ちで自国の歴史を振り返る。

「臥薪嘗胆の精神で歩んできた我々としては、ハルウララこそがウマ娘界一の星であると信ずる。もっとも、元となったハルウララの戦績は113戦0勝と、競走馬としての実力が劣ることは否定できない。だが、負けても負けてもめげずにターフに立ち続ける底力、113戦もして大きなケガもなく"無事是名馬"を地で行く頑健さ、そして何より、ラストスパート時の歯を食いしばって先行バに追いすがる競争者としての表情。紛れもなく彼女もサラブレッドなのだ。
 どうにかしてウララちゃんを勝たせてあげたい。そう思っていただけに、"ハルウララで有馬記念一着"の報を耳にしたときは年甲斐もなく心が躍った。私もすぐさま党大会を一週間ほど欠席して育成に勤しんだものだ。周囲からはさすがに焦れ込み(JRA公式サイトの表記に準ずる)すぎだと諌められたが何、ウララちゃんを一着にするためならば安いものだ。
 どれだけ負けてもへこたれない。そんな彼女の姿に心打たれたファンも多いだろう。往年の流行の波が引いていた当時の競馬界において、彼女がどれほど競馬人気に貢献したかは私が語らずとも多くの人民が理解しているはずだ。そう、彼女は高知競馬場だけでなく競馬界全体の救世主なのだ。彼女がいなければウマ娘プリティーダービーの企画そのものが発生したかどうかもわからないのだから」

 口角泡を飛ばす中国国家主席はここで一息ついたかと思うと、ふたたび覚悟を決めた表情でこう述べた。

「天真爛漫で心優しく、負けても観客席に笑顔と愛嬌をふりまき、老若男女の頬を緩ませる。日頃気を張ることの多い我々も、彼女の姿を見ると、孫の成長を見守るおじいちゃんのように自然とまなじりが下がるのだ。
 もし叶うのであれば、ウララちゃんを民族間の親善大使としてお招きしたいと強く願っている。馬主殿の許可が得られるのであれば何度でも交渉するし、三跪九叩頭を求められるのならば喜んで応じよう」


■英国 エアグルーヴに戴冠の用意

「近代競馬を生んだ英国に対して競馬ゲームとは片腹痛い、極東のHENTAIどもに伝統ある競馬を汚されてははたまらぬと思い批判のためにプレイし始めたが、プレイしているうちに拳を固く握って応援するようになっていた。完敗だ。帽子を脱ぐしかないね」

 褒めるにもけなすにも皮肉を欠かさない英国首相が直截に語る。その態度が本作の影響の大きさを暗に物語っていた。

「EUから完全脱退し、不安に思う国民も多いわが国にとって、エアグルーヴが体現する理想は、英国の目指すべき未来そのものだ。ウマ娘を政治利用したいという野卑な国もあるようだが、我々は強く主張したい。
 我々は観客席にいる一介のファンに過ぎないのだと。我々はただ観るだけでよい、ついていくだけでよい。エアグルーヴ先輩が示す気高い姿を目に焼きつけるだけでよいのだ。それだけで我々は未来を信じられる」

 力強く語りかける英国首相は、次第にエアグルーヴがいかに完璧な存在であるかを大げさなまでの身振り手振りを交えて説明しはじめた。

「エアグルーヴ先輩は常に人から見られていることを意識している。トレーニングで自分を追い込み、レースで堂々たる走りを見せるだけではなく、生徒会副会長として学内の運営にも手を抜かない。このストイックぶりは、常に他者の模範となり、"理想"であり続けようとする覚悟の表れだ。こういう人物はえてして煙たがられがちだが、レースの厳しい世界を知っているだけに、峻厳ながらも的確な指導をしてくれる彼女に教えを請うウマ娘は引きもきらない。
 一方で花を愛でたり、賢さトレーニングの早押しクイズに成功したときの満開の笑顔からあふれる乙女チックな一面も、普段とのギャップとも相まって彼女の魅力をより押し上げている。
 厳しくも実直にみなの模範であり続けようとする高潔な姿は、多くのウマ娘やトレーナーと同様、私にとっても憧れの"SENPAI"なのだ。もし彼女が目の前に現れようものなら、借り物競争で声をかけられた女性ファンのごとく語彙を失うこと必至だろう。
 勝負服にも彼女のエッセンスが十二分に詰め込まれている。最上級のサファイアのように鮮麗な青いスカート、引き締まったネイビーブルーのインナーに加え、セーラー型のトップスに補色である黄色を差すことよって彼女の気品と知性を鮮やかに引き立てている。肩から飾り羽とマントを纏うことで女帝然とした貫禄もプラスだ。
 計算しつくされた色彩設計、奇をてらわない堂々としたデザイン、これでもかというくらい彼女の理想を体現している。実にファンタスティックだ。『彼女の勝負服のデザイナーには爵位を授けるべきだ』と第19代ダービー伯爵からの強い推薦も出ている。
 この勝負服を着た彼女がウィナーズサークルに君臨した姿を想像したまえ。ナイトと化したファンが彼女の前にかしずいている光景が目に浮かぶだろう。これこそが英国の目指すべき未来なのだ」

 腕を振り上げて力強く言い切った英国首相は、水を一口飲み下し、次のように総括した。

「推しのウマ娘を決定するにあたり、結論を得るまでに幾度となく紆余曲折があった。"王"を馬名に冠したド根性ウマ娘キングヘイロー、良家の令嬢として瀟洒な立ち居振る舞いを身に着けているメジロマックイーンがふさわしいのではないかという声もあった。
 しかしコロナの暗雲立ち込める現在に求められるのは、国民の心を鼓舞し、奮起させる強い象徴! 最終的には両院の全会一致でエアグルーヴ先輩に女帝の冠をたてまつることを決定した。
 世論調査でも彼女の支持率は99%を超えている。彼女を認めないプロヴォの手先に対してはニューゲート監獄を復活させることも辞さないつもりだ。過激に思われるかも知れないが、私はひと目見たときから彼女の醜の御楯になると決めたのだ。でもフラッシュだけは勘弁な」


■フランス ヒシアマゾンはターフに現れた妖精

「わがフランスでも競馬は一大エンターテイメントのひとつです。とりわけウマ娘プリティーダービーの人気は競馬だけにとどまりません。CD、Tシャツ、ぬいぐるみといった定番の関連商品はもとより、わが国の伝統あるテーブルウェアブランドの"ジアン"が販売している、馬をあしらった食器コレクション『シュヴォー・デュ・ベント』および『シュヴォー・デュ・ソレイユ』も、高価格帯であるにもかかわらず飛ぶように売れており、同社社長は嬉しい悲鳴をあげています。このことからも、ウマ娘がフランス史上最大のムーブメントになっているのは明白でしょう。
 アニメ一期でフランス馬モンジューをモチーフにしたウマ娘ブロワイエが登場したときには、スタッフからの大きなリスペクトを感じましたし、日本総大将スペシャルウィークとのしのぎを削るレースには、一視聴者として大変胸を熱くさせられました。最大級の感謝を贈ります。Merci du fond du coeur!
 ブロワイエ役の池澤春菜さんのフランス語も、かつて"NHKフランス語会話"を担当していただけあって、英語で話しかけてくる旅行者にはすげないフランス人も舌を巻くほどよどみなく、大変なめらか。なによりレッツ&ゴー世代の私としては、池澤さんのお声が衰えることなくいまだ健在、それどころか年月を重ねた分だけ演技に円熟味が増していたことに感涙を禁じえませんでした。
 ところで一部の界隈からは『マンガ・アニメの美少女は男の欲望の具現化、抑圧された女性の表象! 今すぐ規制すべき』との過激な主張が見受けられます。それに対して私はこう言いたい。La victoire est moi!<<調子に乗んな!>>」

 物腰柔らかな仏大統領の突然の豹変に、各国代表団には大きな衝撃が走った。

「西洋美術史を紐解くと、近代西洋美術は日本画から大きな影響を受けてきた。いわゆるジャポニスムだ。日本においても文明開化ののち、西洋美術の画風を自家薬籠中のものとせんとして多くの芸術家が渡仏した。いわばフランスと日本はお互い切磋琢磨する好敵手であったわけだ。
 特にアール・ヌーヴォーの旗手アルフォンス・ミュシャにインスパイアされた絵を表紙に掲載した文芸誌『明星』は、現代のライトノベルの走りにも思えるし、ミュシャの得意とした繊細な曲線美で描かれた女性や植物・花といったモチーフは戦後の少女漫画における定番の演出となり、柔らかな描線は現代のマンガ・アニメにおけるヒロインの『kawaii』となって生きている。
 フランス版コミックマーケットとも言えるジャパンエキスポは毎年盛況だ。わたしもお忍びで欠かさず参加している。もしコロナの影響により中止されていなかったら、今年も芋を洗ったような人山をかき分けて人気同人誌の争奪戦に血眼になっていただろう。もちろんルールとマナーを守ってだ。徹夜で並ぶなどもってのほかだ。
 日本の画風を取り込み確立されたわが国の美術様式が再び日本に持ち込まれ、時間をかけて育まれた作品群がこれまたフランスをめぐる。地理的に遠く離れたフランスと日本とを循環する文化の輪、友好の架け橋となっているオタク文化の素晴らしさがわからんかね! 何が女性の抑圧だ! 外面だけでない女性の知性! 淑やかさ! 奔放さ! 意思の強さ! 性の別なく人を惹きつける美しさ! 女性への憧憬・尊崇がなければあんな素晴らしい作品ができるものか!
 両国の歴史も創作者の血の滲むような努力も知らず、軽薄に規制せよと息巻いている連中を見ると、ギロチンにかけてやりたくなる」

 ジロンド派を粛清するロベスピエールもかくやといった穏やかならぬ仏大統領の語気に、各国首脳は緊張した面持ちで耳を傾けている。

「失礼。私としたことが熱くなってしまいました。本題に戻りましょう。わがフランスの推しウマ娘はヒシアマゾンに決まりました。
 『ヒシアマゾンってゴール係じゃなかった?』『タイマンbotでしょ?』そう思う方はすぐにゲームで彼女のイベントを見てください。印象が変わりますよ。運営は早く彼女を育成ウマ娘として実装しろ。
 ひょっとすると彼女の推挙を疑問に思う人もいるかもしれません。フランスの典型的な歌劇的イメージに沿うのであれば、テイエムオペラオーがふさわしいのでは? と。
 確かにそれも一理ある。ですが思い出してください。競馬とはどこで行うものでありましょうか? 突き抜けるような青空と燦然と輝く太陽のもと、熟練の職人の手で管理され、当たり一面を覆う瑞々しい芝の上で行うものでしょう。
 温暖な気候に恵まれたわがフランスでは、数多の美術家が豊かな自然を、ときには印象的に、またあるときは写実的に描いてきました。必然、レースに臨むウマ娘も、競馬場という額縁で生命力と存在感を放ち、人々を惹きつける絵になるものでなくてはなりません。種々の要素を鑑みた結果、ピタリと当てはまるのがヒシアマ姐さんだったのです。
 セーラー服を大胆にアレンジした勝負服の鮮やかな青と白、それに健康的な小麦色の肌が織りなすコントラストが実にエキゾチック。ガーネットのような赤い瞳とハイビスカスのような色合いの耳飾りが華を添えてまるで南国の姫君のようです。
 ロマン主義に見られるオリエンタリズムしかり、タヒチにこの世の楽園を見出したゴーギャンしかり、神秘的なものに美を見出すフランス人にとって、颯爽と芝を駆けるヒシアマ姐さんはさながらターフの上で舞い踊るニンフと言えましょう。
 しかもただ美しいだけではありません。弾丸のような末脚で先行馬を差し切る力強い走りに加え、曲がったことが大嫌いな面倒見のよい一本気な性格は、ヴェルサイユ行進でパンをよこせと武器を持って立ち上がった女性たちのごとく、フランス女性がただ黙って男に従うだけの手弱女ではないことを示しています。
 美しさと強さを兼ね備えたヒシアマ姐さんこそ、わがフランスが推しいただくべきウマ娘にほかなりません」

 推しを語るにつれ仏大統領の雰囲気は徐々に落ち着きを取り戻し、柔和な口調で締めくくりの言葉を紡いだ。

「近年は反政府デモが頻発したり、イスラム過激派のテロの標的になったり、ノートルダム大聖堂が焼失してしまったりと、我が国は人心・風紀ともに紊乱しています。ヒシアマ姐さんにおかれましては、サン・ベルナール峠を越え、民衆を導く自由の女神としてフランスを勇気づけてほしいと切に願うものであります。コロナの脅威が去ったら盛大なパレードを行いましょう。凱旋門を開けてお待ちしております」


■ロシア オグリキャップこそわが国の体現者

「深い雪と森に覆われたロシアにとって、馬は欠かせないパートナーだ。無論、私も馬には並々ならぬ愛着を抱いている。それだけに、推しのウマ娘を選べと言われた時は痛憤に堪えなかった。誰か一人を選ぶだなんてできるわけがないだろう! 悩みすぎて気がついたらせっかくのブリヌイが冷えきっていることもしばしばあった。
 命の水の名を冠しているウオッカを選ぶべきか、雪国の純朴なめんこさが素敵なユキノビジンか、ほかにも魅力的なウマ娘はたくさんいる。私が費やした時間を使えばシベリア鉄道を100往復することも可能だろう。
 ヒントはわが国の歴史にあった。キエフの一公国に過ぎなかったスラヴ人国家がベーリング海にまで版図を広げ、世界に存在感を示した歴史は、地方で自力をつけ、中央で自らの名を知らしめたオグリキャップの生涯と重なるところがある。
 芦毛を表現した銀髪、新雪のような白皙の肌も、ロシア美人のようで息を呑む。これでクールに見えて天然ボケなのだからあまりにも隙がない。健啖でボテ腹需要を満たしてくれたのも個人的にはポイントが高い。アニメ版の食事シーンで隙あらば挟まれるオグリを探して、毎週目を皿のようにして視聴していたよ。私も熱々のボルシチをオグリにお腹いっぱい食べさせてあげたいものだな。ひょっとすると国家財政に響くかもしれないが、そのときは私がそのへんの雑草を食べればいいだけの話だ。何も問題はない。
 もちろんSSR確定ガチャチケットは真っ先にオグリのために使った。ゲームでもその魅力はいかんなく発揮されている。朴訥ながらも素直に感情を示し、トレーナーに信頼を寄せ、人々の応援を力に変える。この純粋な性格に好感を覚え、固有スキル発動時の爆発的なラストスパートに神を見たトレーナー同志も多いだろう。
 冬将軍をも解かしてしまうほどの内に秘めた燃える闘志で他を飲み込む圧倒的なパワーこそオグリキャップの真骨頂であり、わがロシアの推挙する一番のウマ娘だ」

 演説を終えた露大統領は、思い出したかのように一言付け加えた。

「おっと言い忘れていたことがあった。地方時代のオグリのストーリーを描いた外伝作品『ウマ娘 シンデレラグレイ』が週刊ヤングジャンプで連載中だ。本編に負けず劣らずの熱いスポ根作品になっているのでこちらもチェックするように。これは国民の義務である。従わない者はシベリア送りだ」


■議論紛糾 泥沼の第二レースへ

 各国首脳の熱弁はとどまるところを知らず、議論は決定打に欠いた。夜を徹した会談は、次第に首脳個人の性癖暴露大会の様相を呈した。


■ダイワスカーレットと青春過ごしたかった 英首相 本音ポロリ

「ブリグジットは後悔していない。それが国民の選択だからだ。だが、私の若い頃にダイワスカーレットがいなかったのは痛恨事だ。なぜ今なのだ! もしできることなら私もアグネスタキオンの胎内から人生をやり直したいくらいだ。
 わかるかな? ツリ目、ツンデレ、ツインテール、インテーク、ケモミミ、八重歯、巨乳、ブルマ、その他諸々を備えた属性のビッグ・ベンとも言える彼女にチュートリアルで初めてお世話になったときから、胸のときめきが止まらないんだ。
 勝負服も素晴らしい。目の醒めるような青を基調とし、金色に縁取ったフォーマルな軍服タイプの勝負服を纏うとまるで姫騎士のようだ。加えてあのむちむちの太ももと胸部のロケット! あのおっぱいで中等部は無理でしょ。
 恵体なウマ娘は他にもたくさんいるが、とりわけダイワスカーレットがデッカイワスカーレットとして目立つのは、キャラクターデザインと衣装デザインの掛け合わせの妙だろう。運営側が二次創作についての注意を呼びかけたのは英断だった。下手をすると馬主さんを怒らせかねないし、無条件なら彼女が有明賞で一位を独走するだろうというのは想像に難くないからだ。他のウマ娘との健全な競争を促す運営側の真摯な姿勢を褒め称えたい。
 最近よく夢を見る。スカーレットと一緒に登下校したり、テスト勉強したり、バレンタインデーでは『義理チョコよ! 義理チョコ!』と弁解しつつ真っ赤な顔で手作りのチョコを渡してくれたり、クリスマスの夜には期待と羞恥に指先を震わせながら恐る恐る手を取ってくれて、そのままうまぴょいしたりしているんだ。
 90~00年代、美少女ゲームにのめり込んでいた私としては、彼女を見ているとあの頃を思い出す。歳を重ねた今だからこそ感じることもあるが、やはり彼女と一緒に青春を過ごしたかったという念は否めない。だがそれを差し引いても断言できる。ダイワスカーレット、彼女がナンバーワンだ」


■スーパークリークは私の母 中国国家主席国 バブみ欲求隠さず

「国家主席をやっているとその疲労とストレスは尋常などというものではない。民族問題、領土問題、台湾問題、それにコロナときたものだ。頭痛の種は次から次へと芽吹いてくる。だからね、ほしいんだよ。"癒やし"。すべてを包み込んでくれるような癒やしが。
 そんなときにスーパークリークと出会ったのは天佑だと思った。甘やかしたがりのあふれる母性、どんなことでも褒めてくれる。彼女こそが私の母に違いない。
 彼女の母性は中国全土を流れる悠久の大河に等しい。彼女にいいこいいこされるためならどんなことだって頑張れる。乾ききった私の心に澄み渡る干天の慈雨だ。ああ^~ママの谷間にスーパークリーク<<長江>>流したいんじゃあ^~」


■タマモクロスを猫可愛がりしたい ロシア大統領 公式声明

「か"わ゛い゛い゛な゛ぁ゛タマモクロスち"ゃ"ん゛!"!"
 ちっちゃな身体でがんばってるのがかわいい!!
 苦労人で負けん気の強いハングリー精神がかわいい!!
 芦毛の銀髪をもふもふしたい!!
 面倒見がいいのがかわいい!!
 オグリキャップやイナリワン、スーパークリークとの軽妙な掛け合いとツッコミがかわいい!!
 大空直美さんによるよどみない関西弁がかわいい!!
 北海道生まれなのにどうして関西弁キャラなのかわからないけどかわいい!!
 こたつに入って丸まっているところをだきしめたい!!
 でも芦毛は走らないという定説を覆した白い稲妻、インからズバッと抜け出す豪脚はカッコいいんだ!!」


■エイシンフラッシュのためなら領土割譲検討 仏大統領 過激な愛示す

「ディアンドル風のガーリーなデザインの勝負服を着た彼女の走りをひと目見たときからハートを鷲づかみにされましたよ。彼女にすべてを委ねたい、おはようからおやすみまで、ゆりかごから墓場まで秒単位で管理されたい。そう思うのも致し方ないとは思いませんか?
 暖かな陽光の差す乳白色の部屋で、うとうとと寝そべる私に彼女が膝枕をして絵本を読み聞かせてくれる。そんなシーンを想像するだけで天にも昇る気持ちになるんですよ。それにね……ちょっと下品なんですが……揺れるんですよ。開いたデコルテから覗く双丘がもうばるんばるんです。おっと失敬、私としたことが馬っ気を出してしまいました。でもそれくらい彼女は魅力的なんですよ。
 なに? あなたはフランスの宰相なのにドイツ系のウマ娘を推すのは国益に反するのではないかだって? Ferme-la!(うるさいッ!) 推しのウマ娘を選ぶのに国籍の考慮など不要ッ! 魂がいななく娘を脇目も振らず推さずして何がトレーナーかッ! エイシンフラッシュこそが私の運命の女性<<ファム・ファタール>>なのだッ!! 彼女のためならアルザス・ロレーヌをドイツに明け渡しても惜しくはないとすら思っているッ!」


■マヤノトップガンが一番セクシー 米大統領にロリコン疑惑

「世界をリードする首脳陣が揃いも揃って巨乳と小動物に骨抜きにされているとは嘆かわしい。貴兄らはなにもわかっちゃいない、一番愛らしいのはマヤノトップガンちゃんだ。
 オトナのオンナに憧れるイマドキのおしゃまな女の子、傍からレースを見るだけで"わかって"しまう天才肌、気分屋でトレーナーを振り回す甘えん坊な末っ子気質、彼女を見ていると年の離れた妹を思い出すよ。
 彼女は勝負服もイカしてる。空軍ジャケットとホットパンツというワイルドな格好で大胆にお腹と太ももを露出した出で立ちがこの上なくセクシーだ。幼い目鼻立ちとようやく第二次性徴を迎えたようなすらりとした肢体とも相まって実になまめかしい。碧空を疾駆する戦闘機のような走りで勝利をもぎとったときに振り向けてくれる投げキッスを受けたら、もう彼女にメロメロだね。
 現在のようなカワイイ系のキャラデザも素晴らしいが、原案のメスガキみの感じられるデザインもまた捨てがたい。外見、振る舞い、イベント、どの角度から見ても胸の高鳴りを抑えられないんだ。
 おまえらわかったか? マヤちんが一番ホットなウマ娘だ。You copy?

 強引に同意を得ようとする米大統領は、四ヶ国からの「馬脚を現したね、ロリコン」との反駁にたじろく様子も見せたが、最後まで持論を崩すことはなかった。


■議論、決着つかず 閉幕へ

 常任理事国による会談は、拒否権が濫発され、妥協点を見出せずに終わった。唯一、ウマ娘製作関係者と競馬関係者に感謝する声明が全会一致で採択されたものの、推しウマ娘を巡る論争は収束の目処が立たず、今後も混迷を極めると予想される。
 閉幕に際し、国連事務総長は「ウマ娘の人気は今後もとどまるところを知らないだろう。アニメ第3期、今後実装されるウマ娘にも期待がかかる。本作を支えるためなら国連はいかなる敵にも屈さず、応援を惜しまない所存だ」と結んだ。

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