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Interview by KUVIZM #8 Yutaka "QB" Mukaiyama(レコード会社勤務)

ビートメイカーのKUVIZMが、アーティスト、ビートメイカー、エンジニア、ライター、MV監督、カメラマン、デザイナー、レーベル関係者にインタビューをする"Interview by KUVIZM"。

今回はKUVIZMがある楽曲コンテストを通じて知り合い、その後もお世話になっているYutaka "QB"  Mukaiyamaさん(レコード会社勤務)に普段のお仕事や音楽業界についてお話をうかがいました。

Yutaka "QB"  Mukaiyama Twitter
https://twitter.com/hangover_QB

KUVIZM:
Yutaka "QB"  Mukaiyama(以下QB)さんのお仕事は業界外からはわかりにくかったりすると思うので、まずはじめにお聞きします。何をしている人ですか?

QB:
レコード会社(メジャーレーベル)でアライアンスという部署で仕事をしています。アライアンスという部署は、所属アーティストのタイアップをとってくる役割をしています(例:ドラマやCMの音楽など)。

僕もそういった仕事をたまにやるのですが、主には対企業でのプロモーションの企画提案と、そこから生まれる新規事業の仕事をしています。

KUVIZM:
ありがとうございます。現在のお仕事についてはまた後ほど詳しくお聞かせいただきたいと思います。

-音楽業界に就職するまで

KUVIM:
ご出身はどちらですか?

QB:
青森の十和田市です。

KUVIZM:
音楽を好きになったきっかけは何ですか?

QB:
1995年、小学校5年生のときですね。
兄がスケボーをやっていたのですが、スケーター文化はVHSを買ってビデオを見るというのがあって。そのビデオでHIP HOPが流れるんですよね。そこから興味を持ちました。
自分でCDを買おうと思ったときに、兄からボブマーリー&ウェイラーズを薦められて買いに行ったんです。今聴いたら良い曲なのですが小学校5年生の自分にはざらざらした音、だるんだるんなビートが耐えられなくて。「だまされた」と思ったんです。
けど、兄にボブマーリー&ウェーラーズのどのCDを買ったかを伝えたら「センスあるじゃん」と言われて「俺はセンスあるんだ」と思って、良い気になって音楽を好きになりました。

そのCDは全然聴かなかったのですが、その後にFugeesの『The Score』の輸入盤を買ってその年の夏は聴きまくりました。超オルタナティブでめちゃくちゃ暗い音楽で、今の自分にも影響があると思います。ああいった音が一番好きです。

輸入盤だから歌詞カードもないし、想像で「すげえこと言ってるんだろうな」と思いながら聴いていました。日本にない音でかっこいいと思って、そこからHIP HOPにはまっていきました。

その後、LAMP EYEの『証言』やキングギドラの『空からの力』を聴いて、「日本でもこういうのあるんだ。Fugeesっぽいな。」と思って好きになって聴いていました。当時の東京のHIP HOPは暗く沈んだ、湿った音が主流だったと思います。

中学校3年生でターンテーブルを買ってレコードを集めるようになりました。周りにHIP HOPを聴いている人が少なくて「なんで聴かないの?」と思っていました。

高校は米軍基地が近くて学校の近くに12インチのレコード屋もあって周りにHIP HOP好きが多くいました。当時はビルボード系のメジャーなHIP HOPを聴いたり、アンダーグラウンドHIP HOPも、ジャズもファンクも聴いていました。

KUVIZM:
今は東京の会社でお勤めですが、上京のタイミングはいつですか?

QB:
19歳ですね。音響系の専門学校への進学で。

KUVIZM:
音響系の仕事に就きたいと思っていたのですか?

QB:
深くは考えず音楽業界なら何でもいいかなと思っていました。

高校生のときから、スクラッチをするためにドラムマシンでビートを作っていたりしていたものの、自分はプレイヤーに向かないなと思って。裏方の仕事も面白そうだなと思うようになりました。

-音楽業界への就職

KUVIZM:
音楽業界にはどのようにして入っていくのでしょうか?

QB:
ディスクユニオンのアルバイトからですね。学生時代から始めました。
HIP HOPのアナログレコードの買い取りをやっていました。25歳のときに音楽不況の煽りで働いていた店舗が潰れて。「就職しなきゃな」と思って、音楽のイベント制作やグッズ制作をおこなっている会社に就職しました。

音楽は音(当時はCDやレコード)を売ることがメインの商売だと思っていたのですが、仕事を通じて音楽には周辺のビジネスがたくさんあることを知りました。「グッズめっちゃ売れるじゃん。ライブに人入るじゃん」って。

その会社ではアリーナツアーやホールツアー、全国ツアーといった大きい規模のイベントを受注している会社でした。
僕はグッズ制作の企画・提案を担当していました。初めてAdobeのイラストレーターや、フォトショップを触ったり。アパレルが元々好きだったこともあり楽しかったです。

その後、レコード会社での仕事の経験をしたいなと思って、今いる会社に入りました。経歴が面白いと思って採用してもらえたのかもしれません。

今いる会社では最初に宣伝の部署で、テレビ、ラジオ、音楽専門雑誌、CSテレビ(MTVやスペースシャワーTVなど)への売り込みを担当しました。
当時は4マス(テレビ、ラジオ、雑誌、新聞)+WEBと言われていて、WEBは今ほど重要視されていませんでした。

KUVIZM:
例えばCDショップの売り場確保や展開も同じ部署ですか?

QB:
販促営業という部署で、違う部隊でした。

自分は担当しているラジオ局に毎日行って、朝行って夜までいるという生活をしていました。局に遅くまでいると、局の人が覚えてくれるんです。泥臭い仕事だと思います。

番組プロデューサーにCDを渡して、「何で流してくんないですか?!」と話したり。毎日行くので渡せるCDもなくなったらずっと雑談をしたり。

KUVIZM:
曲を流してもらう交渉だけではなく、アーティストのゲスト出演交渉も含まれるのですか?

QB:
そうです。詳しくは語れないですが、アーティストのラジオ出演にもいろいろなルールがあって。面白い仕事でしたが、今思うと二度とやりたくないですね(笑)。

業界のノリについていけないと厳しい仕事だと思います。
飲み会もめちゃめちゃ多くて、毎日家に帰るのは夜中の2時を回っていました。

KUVIZM:
向き不向きがありそうなお仕事ですね。

QB:
圧倒的にあると思います。

ただ、担当したアーティストが売れたら面白いのと、友達がめちゃくちゃ増えるので楽しかったです。あと音楽業界は変な人が多いので変な人をいっぱい観れたりするのも。

宣伝の仕事では他にも当時ではめずらしかったニコニコ生放送で24時間番組を企画したりしました。きつかったけど楽しかったですね。
当時は、(今のインスタライブのように)ファンとリアルタイムでダイレクトにコミュニケーションをとることが一般的ではなかったので、珍しかったと思います。
運営コメントを自分が書いていたのですが、24時間で視聴者と仲良くなっていくんです。「宣伝ってこれなんだな」って思いました。ファンとのコミュニケーションって超重要じゃないですか。

その後、宣伝の部署から、新規事業の部署に引っ張られました。

-レコード会社での新規事業の仕事

KUVIZM:
新規事業の部署ではどのようなお仕事をしてきたのですか?

QB:
僕は先々CDが売れなくなくなることを予想していたので、グッズの部署を立ち上げて、しばらくがっつりその仕事に携わっていました。

それまで会社にはマーチャンダイザーとして在庫管理や製造のクオリティコントロールをする部署がなくて、各アーティストの制作陣、A&Rがそれぞれでグッズ制作を外注して進めてたんです。

在庫がいくつで実売がいくらで原価がいくらで利率がいくらでといった情報が各担当の人にしかなくて。それまではグッズに品番がなかったので、品番を付けて原価と利率の計算、不動在庫の管理をするようになりました。

最初、制作陣からは「品番管理は手間が増えるし面倒くさい」とすごい反発があって。

けど、グッズの部署でデザイナーを抱えて、ロゴを作ることからPOPやフライヤーを作ることまで集約させてくれと言いました。良い感じの若いデザイナーを抱えて、こちらからデザイン等を提案するという形にして、クリエイティブな仕事を右から左ではなく本当の意味での「ものを作れる」体制にしました。
そのようにして制作陣から理解を得ていきました。

その後、ベンチャー企業に転職してファンクラブの企画・制作・運営に携わり、グッズ販売、VRコンテンツ配信などのサービスを立ち上げました。

その仕事がひと段落ついたタイミングで素晴らしいご縁があり、今いる会社に再度お世話になることになりました。

KUVIZM:
最近ではどのようなお仕事をしていますか?

QB:
直近では、とある食品メーカーさんにYouTubeで24時間ずっとチルアウト音楽を流すチャンネルを企画提案し、世に出しました。
タイアップは例えばCMの企画を広告代理店から話を受けて、アーティストを提案するということが主ですが、今回の仕事ではこちらで企画を立案して、楽曲を集めて、映像を作って、運営までやりました。企画は、企業さんに「面白いと思いませんか?」と提案して、「面白いです」「じゃあ、やりましょう」といった流れで話を進めていきます。

最近はeスポーツのテレビ番組の制作にも関わっています。
テレビ番組の制作会社にいる知人からの「QBさん、eスポーツとかゲーム好きですよね。eスポーツ番組の良いアイデアないですか?」という相談から話が始まりました。
企画を固めて、テレビ局に提案して、OKもらって、番組を作って、放送が始まる。
番組にはうちに所属しているアーティストも出ることになっています。

KUVIZM:
制作会社としては、元々eスポーツと音楽を絡めようという考えはあったのでしょうか?

QB:
全然なかったです。「eスポーツの番組を作ろう」というだけですね。

KUVIZM:
これまでに様々な仕事を立ち上げてきてらっしゃっているようですが、運営も担当なさるのですか?

QB:
時と場合によりますね。
ただ、次、次と新しい企画を作る人と、回す(運営をする)ことに向いている人は別だと思うので。運営は、マネジメントがうまい人がやるべきだなと。

KUVIZM:
今後はどのようなことに力を入れていきたいですか?

QB:
今後はローカルエリアというリアルな場所と、ゲームというリアルとかけ離れている場所の2つを考えていくことが重要だと考えています。メタバースやAR等もあり、最近はその2つの境目が曖昧になっていますけれど、曖昧ではない場所を作りたいと考えています。

ロケーションビジネスでは”場所”を音楽でデザインして、行かないと楽しくない、そこでしか体験できないことを真剣に考えています。
「この場所のBGM、超いい」とか「このお店にいる自分かっこいい」、「勇気を出して店員さんに流れている曲の名前を聴いてみる」「その場所に行くだけで楽しくなったり特別な気分になる」といった経験がある人が多いと思うのですが、それをもう1回ちゃんと考えたいんです。サウナでも飲食でも服屋でも、リアルロケーションプレイリストで何かできないかと考えています。

ゲームでは、その領域でしかできない”何か”をしたいと考えています。アーティストやタレントのファンとのゲームでのコミュニケーションを模索しています。

近年、ゲーム内のバーチャルライブの実例がありますが、ハードルが高いのと表現の限界があると思っています。アーティスト側からは同時接続数何億人といった宣伝ツールとしてのメリットはありますが、「最後までライブを観るとアイテムを貰えるから観る」という人は多いけれど実際にバーチャルライブを楽しめている人は多くはないと思っています。

カスタムマッチなどでタレントやアーティストがファンと一緒に遊ぶことやコミュニケーションをとるといったことがスタートラインで、「次に何をするか」がテーマになっています。まだ最良の答えを見つけられていないです。ファンのモチベーション、気持ちを上げられるゲームの使い方をできたらと考えています。

-アーティストにむけて

KUVIZM:
アーティストや音楽を作る側に対して、QBさんの立場からアドバイスはありますか?

QB:
自分は音楽を作ろうと思ってたけどやめた側なので、どんな業界でも作り続けている人は尊敬しているのでアドバイスなんておこがましいです。
ただ、売れている人よりも「売れない」と嘆いてる人が多いと思うんです。
"売れない理由は何か"を自分でちゃんと考えてみることは大事だと思います。超冷静に。
才能とかどうにもできないことは一旦置いておいて。「なぜあの人は売れているの?」「なぜ自分が売れないのか」ということをめちゃめちゃ調べてる。そういったことって嫉妬に変わりやすいじゃないですか。それを感情的ではなくて冷静に客観的に。

才能が8割大事な分野かもしれませんが、音楽活動を継続できるかは才能ではないと思うので。才能はあくまでスタートダッシュでしかないと思います。

野球選手のイチローみたいに筋肉の使い方や、勘、感覚ではない自分ならではのルールを真摯に科学的に作ることが大事だと思います。イチロー本人も「やってきたことや失敗から見つけたものをたくさんもってる」と自分でも言っていたんです。それが大事だと思います。

KUVIZM:
例えば曲の雰囲気や、売り方やリリースペース、ファッションなどもですか?

QB:
はい、全部です。SNSの言動なども。気持ち悪いくらい分析したほうがいいと思います。そうしたら、ある程度結果出るんじゃないですかね。

-音楽業界を目指している人に向けて

KUVIZM:
音楽業界で働きたい若い人に対して何かありますか?

QB:
ある程度不真面目で、ある程度適当にものごとを捉えてればいいんじゃないかなと思います。真剣すぎるとマジで無理なんで。別にいいやって思ってたほうが楽じゃないですかね。トラブルやミスがあっても「まぁ、しょうがない」と軽く流せる気持ちで。

音楽業界を目指している人がいるのはうれしくて。昔に比べて音楽業界は斜陽産業じゃないですか。サブスクリプションなどで盛り上がりの兆しはあるものの。うちの会社に入ってくる新卒の人にも思うのですが、新しい産業や媒体、娯楽は増え続ける中で、ITやテック系にいかずに音楽業界に興味を持っている人がいるのはうれしいです。

アーティストを育成して、バリバリ売りたいといった強い気持ちを持つことや熱い気持ちは大事にしてほしいけど、真剣になりすぎないでほしいですね。

あと、音楽だけじゃなくて、音楽+何かを常に考えておくことは大事かもしれません。将棋とか、アクアリウムとか何でも。自分が立ち上げる仕事もワークアウト、HIP HOPとか、ゲームとか、根底にあるのは自分の趣味ですね。

KUVIZM:
インタビューは以上となります。ありがとうございました。

QB:
ありがとうございました。

Interview by KUVIZMは収益化を目的としないプロジェクトですが、持続的な記事連載をおこなう上で発生するコスト補填のため、ご寄付をいただけますと幸いでございます。

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