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温泉津温泉に行った話。

23年10月の中頃、銭湯巡り趣味者として前々から気になっていた島根県の温泉津(ゆのつ)温泉を訪問し、お湯を借りた。

温泉津温泉には限りなく銭湯に近いスタイルの共同浴場があるのだ。
本稿は、その温泉津の共同浴場のレポートである。

温泉津温泉とは

温泉津温泉があるのは島根県の日本海側だ。
津、というからには港町である。
石見銀山で採掘された銀の積出港であったようで、その町並みは世界遺産・石見銀山の構成要素にもなっている(下記リンクも参照)。

現存する史料でいえば、温泉津の地名は10世紀前半に成立した「倭名類聚抄」にはすでに見られるとのことである。
8世紀に成立した記紀に名をのこす道後や有馬、白浜とくらべれば歴史は浅いかもしれないが、それでも十分に古くからの温泉地だ。

そんな温泉津では2023年10月現在も、宿泊機能がない純粋な共同浴場が2湯営業中である(さらにもう1湯、休業中の共同浴場がある)。
僕の目当てはまさにその共同浴場であった。

温泉津の共同浴場はいずれも(法的な位置づけでは)一般公衆浴場ではない。ただ、その営業形態としては限りなく(いわゆる)銭湯である。
というわけで、狭義の銭湯とは言えないものの、以下では銭湯として記述している箇所もある。

薬師湯

温泉津を訪れて最初にお湯を借りたのはレトロモダンな建屋が目を引く、薬師湯。

薬師湯外観

薬師湯はもともとは今も隣に建つ木造の建屋(旧館)にて営業されていたようである。大正年間にあった地震で湧いた源泉のお湯を使っているので新湯(震湯)とも呼ばれているらしい。入湯料は600円。

建屋の中央にある半円形の張り出しの左右に男女それぞれの入口がある。中に入ると小さな土間と下足棚。

入口こそ男女で分かれているが、土間から上がった先は脱衣場ではなく、ロビーのような廊下のような男女共用の空間。
受付は2つの入口の中央、半円形の張り出し部に収まるように設けられたフロント。
フロントの正面には2階に上がる階段と、階段の裏手に家族風呂の脱衣場につながる扉。

男子の脱衣場は建屋入口から見て左側の扉の向こう。
中に入ると外壁側にロッカーと脱衣棚。脱衣棚に置くための脱衣籠もあった。ロッカーは金属板を鍵とするタイプ(鍵のサイズは小さめ)。
フロントで「(湯船のお湯が熱いので)水を飲んでから湯に入ってくださいね」と言われるので脱衣場にある水道にてお水をいただく(紙コップも用意されている)。

浴場に入ると浴場の中央に小判型の湯船。
洗い場は左手(外側)に3組と右手(内側)に2組。
正面の壁は明かり取りのガラス窓。
関西型に近いレイアウトと言えるだろうか。

洗い場のカランはすべて混合水栓。シャワーがあるのは5箇所のうち、脱衣場側の3箇所(外側2、内側1)。
浴場には石鹸等ないので必要であれば持ち込むか現地で買う必要がある。

浴場中央に鎮座する小判型の湯船はふちが湯の花によってすっかり丸くなっており、温泉成分の豊富さをうかがわせる。
仕切りのないシンプルな湯船。かなり深さもあり、脱衣場側のお湯の中には段が1段設けられている。
当然ながらマッサージバスのような付帯設備は一切ない。源泉かけ流しのお湯一本勝負。

フロントでも注意されたようにお湯は熱め(44〜5度くらいか?)だが、ちゃんとならしながら入ればしばらく浸かっていることはできる。(沸かし湯の銭湯でこれより熱いところ、たまにあるよね…くらいの温度)

お湯に入り、しばらくして湯を出、窓から入ってくる外気ですこし体を冷やしてからまたお湯に入り、を何度か。シンプルだが濃い入湯体験であった。

さすが温泉というべきか、湯上りはいつもよりも汗が引きにくかったようにも思う。

薬師湯では湯上りに2階の休憩室と3階(屋上)に行くのもまた楽しい。
2階では外見上の大きなアクセントになっている半円の張り出しのなかに入れる。
さらに3階(屋上テラス)から見る温泉津の街並みは必見。

体を冷ますのに旧館で営業中のカフェに入るのもあり。カレー、美味しかったです。

薬師湯旧館。現在はカフェとして営業中

元湯温泉 泉薬湯

昼食後に訪れたのが、薬師湯旧館から道路をはさんで斜向かいに建つ「元湯」。文献を追える限りでも西暦900年代以来湧き続けているという源泉を掛け流す、由緒ある共同浴場だ。

元湯温泉 泉薬湯外観

元湯温泉の公式サイトの記述によれば、16世紀中頃にこの地を湯治場として開発した修験者の伊藤重佐が毛利元就に湯主として認められたのを初代とし、現在の当主で20代目とのこと。家族経営のものとしては日本でもっとも歴史が長い銭湯なのではなかろうか。

建屋の中央部に男女それぞれの入り口があり、入ってすぐに番台ともフロントともつかない形式の受付がある。入湯料は450円。
お金を払うと(男湯では)左手に下足場と下足棚。

コンパクトな脱衣場は外観から想像するよりは内装が新しい雰囲気であった。最近(?)リフォームされたのであろうか。
ロッカーと脱衣かごを併用する方式。ロッカーがあまり大きくないので、ロッカーには貴重品だけを入れて、着替えは脱衣かごにするほうが良さそうだった。なお、鍵は小さい金属板タイプ。

脱衣場に入るとまず下りの階段がある。
浴場の床は脱衣場の床より1.5mばかり低いのだ。

湯船は脱衣場から見て奥の壁沿いと、手前側の二箇所。
明確な洗い場がない(カランやシャワーがない)浴場なので(洗面台のようなものはあり、水の蛇口はある)、体を洗う場合は湯船から洗い桶でお湯をすくって使うことになる。
いわゆる「秘湯」的な温泉を巡っている方にはあたりまえなのかもしれないが、石鹸を使うのにも体を流すのにもちょっと気を使う感じなのは新鮮であった。
そんな状況であるので、もちろんのこと石鹸の備え付けはない。

手前側の湯船はかなりぬるい湯船(40度切るくらい)。初心者はまずこちらから、という案内もある。確かにゆったりと入りやすいお湯であった。

奥の湯船は二つに分かれていて、脱衣場から見て左手が少し熱め(42〜4度。銭湯でよくある温度)、右手は源泉とほぼ変わらないかなり熱いお湯(46〜8度。銭湯でごくまれに遭遇する温度)。

一番熱い湯船。
熱いぞ、という主旨の注意書きがそちこちにあったので、ぬるい湯船から徐々に体をならしていったつもりだったが、本当に熱い。
というか若干痛い。
さすがにここは体感一分ほどで出ざるを得なかった。

このとき思い出したのが2022年4月で閉業された、JR辻堂駅近くの不動湯さんである。
記憶にある不動湯さんの湯船と元湯温泉さんの一番熱い湯船の温度が、かなり近いように思われたのだ。
なお、不動湯さんには体をならすためのぬるい湯船などなく、いきなり高温のお湯につかる感じだったが。
毎度やたら熱いとは思っていたが、そこまでハードコアだったとは。

アクセスに関して

結びにかえて、アクセスに関しての覚書。

JR山陰本線温泉津駅が今回訪れた2湯の最寄り駅である。
徒歩であれば15~20分くらいだろうか。天候によってはちょっとつらい距離だ。
そもそも山陰本線なので本数がかなり限られているのも厳しい。

今回、筆者は広島でレンタカーを借りて訪れている。
朝8時過ぎに広島駅近くを出、休憩込みで3時間弱の行程だった。
ルートはおよそ国道54号~国道191号~国道261号~県道32号~国道9号という具合で高速道路は利用せず。
帰りもほぼ同じルートを通ったが、波積ダムのダムカードが欲しかったので少しだけ寄り道をしている。

天候にも恵まれ、あまり怖い思いもせずに往復することができた。
温泉津の温泉街に入ると江戸時代の道幅なので、小さな車で行ったほうが自分にも周りにも優しいものと思われた。







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