くわのどん

日本近代文学、特に戦後無頼派(新戯作派)が好き。お酒も好き。たまに小さな旅をする。

ベタの行く末

漫画やドラマでしか見たことがない、なんならその原典となる作品もはっきりと記憶していないにもかかわらず、ベタなシチュエーションとして一般に認知されているものがある。

例えば寝坊してパンを咥えて学校へ急ぐ少女が曲がり角で少年とぶつかるとか、バーのカウンターでカクテルを飲む女性の前にバーテンダーが新しいカクテルを置いて「あちらのお客様から」と同じカウンターの端で飲んでいる男性を指すとか。

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Kento Mizuno「瑞々しい」に寄せて

水野君の「瑞々しい」という曲の、Apple music等音楽配信サービスでの配信が始まった。僕は友人として単純に嬉しいと思う。いい曲だし、多くの人に聴いて欲しい。こういう、悲しみにのめり込みながら前を向こうと文字通り血を吐きながら歌を作る人間が報われて欲しいと思っている。

僕と水野君はあるSNSで出会ったんだけど、彼はその頃自ら主催していたバンドを体調不良で休止していて、実家で静養しながら音楽の

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更新されていく点鬼簿

昔々、人間の一生の中ではそこそこ昔、私の住む長野県の田舎町の、私が通っていた小学校の近くにあった神社の林の中で、首を吊って死んだ人がいました。私はそれを学校で他の生徒から聞かされました。何故か、神社という場所であればそういうこともあるだろう、と妙に納得して受け止めていたことを覚えています。

同じ頃だったと思いますが、私の家の近所の公民館の駐車場に立っている、半鐘を据えた鉄塔の上から飛び降りて死ん

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イパネマの幻

リオのカーニバルで知り合った女性がいた。背は高くないが、褐色の肌で黒髪で、バットマンが大きく描かれたTシャツを着ていた。よく笑った。

Facebookでフォローし合い、WiFiが繋がるホテルにいる間はメッセージを送り合った。
「これからの予定は決まってるの?」
「予定は決まっていないんだ」
すると彼女から「イパネマ・ビーチに行きましょう」というメッセージが来た。ホテルのベッドに寝そべっていた俺は

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【読書】城山三郎「そうか、もう君はいないのか」

城山三郎「そうか、もう君はいないのか」読了。

後半になるにつれ少し散漫な印象があって、終わりも唐突なように感じたが、あとがきで未完の原稿群を編集したものだということがわかった。城山自身も癌によってこの小説を書き終えることができなかったのだという。内容は穏やかな抑制の効いた回想で、過度な感傷が無いのでするすると読めた。それでいて亡くなった妻への想いは行間に溢れていて、理想的な作家の妻であり魅力的な

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白夜を楽しく過ごすために

10代の終わりといえば、大学のために実家を出て県外で初めてのひとり暮らしを始めた頃で、それはそれは解放感に浸っていた。髪も染めたしピアスも空けた。タトゥーは、一生飽きても変えることができない装飾というのが嫌だったのですることが無かったが、もう少し信念と言うか、一生好きだと信じられるものを持っていたら入れていたかもわからない。酒も金があるだけ飲んだ。二日酔いで吐き過ぎて喉から血が出るくらい飲んだ。で

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