kuwanya

文章のようなものを書きます。

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最近の記事

髪の毛が濡れている理由は思い出せないけれど

 世界五分前仮説という思考実験が俺は大好きで、ほとんどこの世の真理が込められているとまで感じている。  例えば今年30歳になった人は、これまで30年の間この世界に存在してきたと感じているし、自分が生まれるずっと前から世界は存在していていると信じている。  地球の誕生が45億年前だとか、宇宙は現在138億歳だとか、そういう具体的な数字そのものにピンと来ているわけでは無いけれど、自分が存在するよりずっと前から世界というものは存在していて、自分という存在もその連続性の一端を担う

    • 身体が疲れるということ

       なんだか唐突にVR端末がほしくなってしまった。そして、どうせなら最新のものをと息巻いて、最新デバイスをわざわざ予約注文して買うに至った。  自分にはほとんど関係のない5月の連休に対する卑屈な精神が反動したのかもしれないし、あるいは新元号の気運に流されてしまった部分もあるのかもしれない。もしくは遅れてきたミーハー性とでも言うべきか。  なぜいまさらVR端末をことさらに欲しがるのか、我ながら甚だ疑問と言わざるを得ないが、おそらくVR端末である必然性はなかったに違いない。まず

      • 好きだった回文がエロ漫画のタイトルに使われていたことを知ったときの顔

         そんな顔をしたことがあるのは、世界広しと言えども、俺を含めてせいぜい四、五人くらいのものではないか。リアルに苦虫を噛み潰したことのある人間の方が幾分か多いだろう。  だからこんなことを書いたところで、誰にも共感してもらえないのだろうけれど、ともかく今俺は、好きだった回文がエロ漫画のタイトルに使われていたことを知ったときの顔をしている。そういう想像をしながらこの文章を読んでいただけると幸いである。  回文というものは、上から読んでも下から読んでも同じに読める文字列のことで

        • スマホを忘れて

           スマートフォンを忘れた。そんな日に限って人身事故が起こる。  偶然か必然かはどうでもいい。ただ、俺がそう感じているだけだ。  失意の自殺だろうか。不運な事故だろうか。どちらであれば、まだしも救いがあるのだろうか。そんなことを考えながら、急遽降ろされた見も知らぬ駅のホームで独り途方にくれている。電車は「運転を見合わせており復旧のめどが立っていない」から、目的地にたどり着くために俺は別の経路を検索しなければならない。ところが困った。スマホがない。  腕を拱いてその場に立ち尽

        髪の毛が濡れている理由は思い出せないけれど

          外を見ているのを見ている

          俺の部屋は俺一人が住むには少しゆとりがある感じで、有り体に言うと、広い。何が広いかというと、ベランダが広い。その気になればバーベキューでも楽しめそうなくらい広い。その広いベランダのおかげで、隣のマンションとの距離がずいぶんと近く、目と鼻の距離に隣の建物に住んでいるお隣さんの居住空間がある。  俺は気ままな男の独り暮らしということもあって無頓着だが、すぐ近くに住んでいる赤の他人が視野に入る/の視野に入るという経験はできるだけ回避したいというのが人の性なのだろう。俺のベランダか

          外を見ているのを見ている

          エレベータに女の香りが残っていた

           そういう経験は、日常のそこかしこに転がっている。俺たちはそのほとんどを覚えていることは出来ないのだけれど。  女の香りというのは勿論比喩というか幻想で、一般的な意味における女が何かしら特殊な香りを有しているのではない。俺が嗅いだのは、薔薇だか百合だか知らないけれど、何かそうした花らしきものの姿を彷彿とさせる、安らぎと苛立ちを三日三晩寝かせて発酵させたようなああいう類の香りである。香水なのか柔軟剤なのか整髪料なのか、とんと判然としないが、ともかくエレベータの中には誰かの残し

          エレベータに女の香りが残っていた