@あの時感じた事は

転職の隙間で、ひと月弱休みが発生したので

しばらくないであろうこの機会に思い立って

一人、ベトナムに向かった。

旅の目的は中国の国境にある大きな滝だった。

カナダのナイアガラを昔、見に行ってから

気づかないうちに滝好きになっていた。

田舎がゆえにナイアガラほど整備もされておらず

ワイルドなそれはとても素晴らしく、美しい。

ハノイについてからまっすぐバスターミナルへ行き、

ひとり夜行バスに9時間弱、地元民に混ざり

乗り込んだ不安と疲れを消し去る感動があった。

田舎の地元娘もやさしく親切で、チャーミングだった。

乗り換えの田舎町で腹を壊さないかとドキドキしながら屋台フォーを食べ

また夜行バスに乗り込みハノイに戻り、ドミトリーで床に就く。


ベトナムに来たからにはハロン湾に行きたかった。

世界遺産だからね。

ドミトリーでツアーを申込むと、迎えがバイクタクシーで面食らった。

乗合バスまでこれで行くらしい。朝からエキサイティング。

乗合バス一番乗りだった自分をスタートに各ホテルを巡り、

ハロン湾へ向かってバスが出発した。

乗合バスはマイクロバスで、狭い車内は満席で暑かった。

当たり前の事だと思うが、お一人様の隣の席にはお一人様が案内される。

私の隣には、縦も横もとっても大きなおじさんが

身を少し小さくして、座っていた。

狭いバスで4時間弱、途中休憩があるも

実に無言でその時間を過ごすには私には耐えられなかった。

カメラを持っていたそのおじさんと

アイコンタクトで私のカタコト英語で会話が始まった。

彼はフォリピン人だった。

仕事はしているが長期休暇中でタイからベトナムに、

この後はカンボジアに向かうという。

私もベトナムの後は台湾だった。

興味のある国がお互いあるだけで自然と会話が続いた。

到着したハロン湾ではランチがテーブルごとに給仕される。

同席したマレーシアのおばさま方に根掘り葉掘り聞かれた。

パワーがすごい。カタコトでも英語が理解できて楽しかった。

最後は自分のスマホを渡して写真交換したりして。

知らぬ土地の外国人同士、日本の閉鎖的な国内ツアーとは違う

謎の一体感は外国人同士のなせる技だったなと思う。

ツアーも無事終わり、帰りのバスが出発した。

写真を皆が皆、撮っていたこともあり自然とフィリピン人の彼と

フェイスブックで繋がり、写真交換をした。

ハノイで彼のホテルにつく前、彼が

「よかったら夜、飲まないか」と言ってきた。

その日の夜は食事を決めていなかったが、

異国で知り合ったばかりの外国人と飲みに行くのは

リスクが高いと判断して気が向いたら連絡すると言って別れた。

ドミトリーに戻り、シャワーを浴びた。

お酒が好きなのでコンビニでビールでも買おうかと思いながら。

ベッドに戻ると彼からメールが来ていた。

「そんなに飲めないけど、相手が欲しいだけなんだ。

私はまともな人だよ。」

自分も彼がまともだと、そう思ったけど、危険は危険かと思った。

いや、思ってなかったけど一般的にはやめとけ。っていうフラグだ。

迷いを察してか、彼はこう言った。

「Use your instinct. Better that way(君の本能で。そのほうが良い。)」

私は迷わずドミトリーを出て彼と待ち合わせをした。

結論から言うと、男女間に何があった訳でもない。

ただ、8月のベトナムでビールを飲み、翌日朝食を共にした。

そしてお互いこれからの旅を楽しんでと、別れた。

その日の夕方、彼はカンボジアへ、私は台湾へ発った。

普遍的なようでそうでない、恋愛感情ではない、この

「同士」のような感情。

とある大好きな映画を思い出した。

「ロスト・イン・トランスレーション」

アメリカ人の若い女性とアメリカ人の俳優が、違う境遇で東京で出会い、

満たされているようでどこか心が満たされない、そのスキマを互いに感じ、

友情・愛情?同士のような、表現しにくい気持ちを美しく描いたあの映画。

多分、私とフィリピン人の彼は映画と美しさも舞台も違うが、

言葉が満足に分かり合えない中で、楽しく充実しているはずの一人旅で

どこか満たされていない、その感情を互いに気づいていたのかもしれない。

ある意味、ロスト・イン・トランスレーションの中、

安心できる、つかの間の時間を二人で過ごしたのだ。


日本で大きな事件が起きたこの夏、彼が

「大丈夫か?」と連絡をくれた。

私は彼に恋愛感情はないが、あの日、一日を共にしただけの彼は

心の友のようになっている。

友情や感情の共有には国境は関係ない、

むしろどこかで支え合っているのかもしれない。


「if you have friends coming to manila, or if you are, let me know. connecting with people in whatever aspect is always a pleasure for me. arigato.(友達や君がマニラに来る時は、連絡して。あらゆる面で人とつながることは、私にとって常に喜びです。 ありがとう)」

あの日、彼に出会えて良かった。

フィリピンに行く時は、彼に会いに行こうと思う。


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