植物育て記(Pさん)

 6月のどこかで、家で育てているガジュマルという植物の再生を試みた。
 ガジュマルというのは、雑貨屋や洒落たインテリア屋など、小型の飾りの意味合いを持つ植木の一種として売られている植物の一種である。
 膨らんだ根を持ち、その割に高さは高くなく育てられていて、サボテンみたいな多肉植物の流れで、見た目に奇抜で簡単に育てられる植物として売られている。
 サボテンやアロエその他の多肉植物は相当他のいわゆる草木類とは違った育ち方をして、水分や堆肥のやり方が違ったりするが、それよりはガジュマルは普通の植木に育ち方が近い。
 しかし柿の木とか楢や橅、松などと違ってガジュマルは原始的で無造作な育ち方をする。
 原始的でというのはプラナリアがどこかで半分に切ったときに両方個体として育ってしまうというような不定型さと旺盛さを持っている。
 無造作なというのは植物が育つに当たって全体的な計画みたいなものを杉の木とか欅などに見るような対称性とかバランスを欠いて、適当に伸びたいところから枝を生やし、なにより唐突に幹の横から根が出て地面に伸びてそのまま根になるといった驚くべき生態がある。これは「気根」という。
 気根じみた組織は他の植物においてもエマージェンシーの場合に(というのは酸素が極度に足りていないとかいった場合に)生えてくるのだが、ガジュマルにおいてはそれが常態なのである。
 根はニンジンや大根のように膨らんでいるが、その先から枝が出る様はそれほど奇矯では無く、先程も言ったように企図が感じられない育ち方をするという以外はそれほど幹や枝や葉の組成はふつうの木みたいな植物と変わらない。
 企図が感じられないとは、のちのち巨木に成長したガジュマルを見ればわかるのだが、巨木になるにあたってメタセコイアのようにものすごく太い幹がひたすら中心部から天を衝くように伸び上がるのではなく、細い枝がそれぞれ伸びたい方に伸びていき、そのうちそれが融合して、だが部分的には本当に細い枝が無限に重なっているような奇妙に計画性のない育ち方をしているのである。
 この辺りの事は本当に言葉では表現しきれないので、インターネットで検索して見て頂いた方が早い。
 ガジュマルは天然では日本の領土では南の方、沖縄などにしか生えていない。
 サボテンやアロエなど、水分を必要とせず面白い形をしてのんびりと育つ植物類はみな南の方にルーツを持っているような感じがする。
 ともかく、今の妻が学生を卒業して一人暮らしした辺りにその植物を本当にダイソーみたいな雑貨屋で買った物らしい。
 二人暮らしをし始めたときに、そう紹介された。
 結論から言えばその時狭い鉢で育てられ続けていたから、根が伸びすぎたか水の流れが悪かったかで根が腐り詰まり始めていた。
 成長が良くないのでインターネットで調べて、植え替えを定期的にしなければいけないというので、一年前くらいに一回植え替えを行った。
 その時の根は七割方黒く変色していて、それは幹に差し掛かるぎりぎりの所までそうなっていて、いわゆる根腐れの状態なのだと思った。
 実際に、成長は不自然に止まっていたし、葉は黄色く落ちていたりしたので、「これはもう、枯れるしかないのか……」と思っていた。
 妻は、このガジュマルに「幸福」という名前を付け、えらい思い入れがあるようだった。
 インターネットの動画で紹介されたのと同じやり方で、腐った根を無造作に引きちぎり、実際かるくはたくだけでどんどん落ちていくようだったが、どれだけの根を犠牲にすればいいのかわからず目分量で切り落としていって、新しい鉢と土をもって植え替えた。
 植木を真面目に育てたのはこれが初めてくらいのものなので、これが今後どうなるのか、根を切りすぎて水が吸えなくなって枯れる可能性もある、逆に腐った根が残っていてその腐食が伝播していって植物全体が腐る可能性もあるな、という所がぜんぜんわからなかった。インターネットの動画で、根腐れを起こしたガジュマルの植え替え方について紹介している動画は、「これが復活するのは半々の確率だ」などと言っていた。
 しかし、植え替えをしてから半年くらいが経っても枯れず、それどころか少し成長して青い葉を維持出来ているような状況だった。とりあえず、根腐れが波及して云々という所は避ける事が出来たのか。
 しかし、実際植木の土の中身がどうなっているのかは想像するしか無く、もしかして手遅れなまま最後の成長をしているだけなのかもしれないなどとも思った。
 と同時に、根腐れだけは避けなければならないという考えと、冬期は水やりを控えなければいけないということが重なっていたので、しばらく水やりを控えていた時期があった。
 つい一週間以上ほど水やりをしていなかった時に、どんどん葉が黄色くなって落ちていく事があった。
 これは水のやらな過ぎが原因だったのか。それとも根腐れがやはり進行していたのか。
 これが今年の六月くらいの状況で、これ以外の時期に植え替えをするのはうまくいくかわからないという六月まで待って、二度目の植え替えを行った。
 そしてその時、当たり前だけれども二度目の根を見る機会であったのだが、これが思いの外に白くまた広く、前の一回り大きい鉢ですら全部埋め尽くすほどに成長していたのである!
 そしてまた一回り大きい、直径が上腕ほどの大きさもある鉢に植え替えて、様子を見ていた。
 もう根腐れの心配は、根の状態からいっても時期的にいってもそうそうないだろうという所までいったので、これもインターネットの情報から土の上層の部分が乾くたびに水やりを行っていた。
 すると、今までのものは成長とはいえないんじゃないか? というくらい、目覚ましい成長を遂げているのである。
 この辺りで僕は文字通り植物人間となり、毎朝暇があればこのガジュマルがどれだけ生長しているのか、寝起きの悪いままツイッターかYouTubeの動画など見ながら触って過ごしたりしていたのである。
 二ヶ月して葉が六十枚ほどに増えた。以前は四十枚ほどだったので二十枚増えた計算になる。
 それほど増えたので、てっきり増えた方にしか視点が行かず、「これだけ成長したか、よしよし」という気分に浸っていたのだが、ついに植物の方に浸食されたのか、ふと見てみると
「この植物はこんなものではない……さらに何倍も成長するつもりだ」
 という声が聞こえ始めた。実際にガジュマルは生長を始めれば際限なく生長し、人の背丈を超えたりするのはざらなので剪定をしなければいけないほどだ、ということがインターネットで調べた結果、わかった。
 インターネット人間であり、植物人間であり動画人間である、というのが今の自己の評価である。
 明後日、崩れかけのラジオの収録がある。ネタが無い。

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