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五年前に書いた小説(ウサギノヴィッチ)

 ファイルの整理をしていたら、五年前に書いた小説が出てきて、読んでもなんのために書いたのか思い出せない。
 だから、勝手に載せてしまおうと思って、noteに載せる。
 ファイルのタイトルは「コイブミ」となっていた。
 ぜひ読んでください。

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 君の栗毛の髪がすてきで何回も夢に出てきてしまうくらいで、君の顔を思い出すよりも先に髪の毛のことを思い出してしまうので、もしかしたら君の生き霊にとりつかれてしまっているくらいで、僕についてい霊を除霊されたらこの先の人生って言ったら大袈裟かもしれないけど、でも、人生が狂ってしまいそうで、僕は君に乗っ取られてもいいからこのままでいたいと思ってしまう。こんなに君のことを愛おしいと感じていることを文章にして書いていることはひどく恥ずかしいことで、いけないことだと思っているけど、それでも僕は君のことが好きで好きでしかたなくて、そんな僕が君に愛されたくて愛されたくてしかたないと思っている。こんな僕は気が違っているいるのかもしれないのは重々承知していることであるが、それを文章にして、ましてや「小説」なんてものにしようとしているなんて、やっぱり僕は気が違っているのかもしれない。こんな僕の気持ちの悪い文章を書いて人に読まれたとしても、僕の気持ちは変わることなく君のことを好きでいるだろうと思うし、こんなことを人に発表している時点で、人前でオナニーをするようなことであって、だれの特にもならないし、これを読んだであろう君に不快な思いをさせてしまうだろう。僕は臆病だから君に告白なんかすることなんてできなくって、こうして第三者に見られるようなことでしか君のことを好きだと言うことができなくて、それくらいケツの穴が小さい人間なのだから、僕は君にいや、この「小説」の読者に謝りたいと思ってしまうくらいだ。でも君のことが好きな気持ちはどんな方法をとっても代わりはなくって、もし君と付き合ったらなにがしたいかなんてことを一人で妄想してしまう。なにがしたいかって、端的に言うならば、それはセックスがしたくて、君の裸を見たくって僕はもうすぐ三十歳になるけど、君の裸を想像しながら一人で自家発電なんかをしてしまう、ちょっと痛い男である。ただ、自分の中ではそうしてしまうことがすごく当たり前のようでいて、僕は年をとってしまったかもしれないけど、思春期の時の男の子ならだれでも一度は通る道だと僕の中ではそれが当然や普遍とも言い換えられることかもしれない。そうして君と会えない時間をゆっくりとすごしている。仕事中でも君のことを思いだしてしまい僕は休憩室でただで飲めるまずいコーヒーを飲みながら頭をクールダウンさせて、それでも収まらない場合は君にメールを送る寸前までいって、送信ボタンを押すか押さないかで葛藤して時間が経って、このままではいけない仕事をしなきゃ、と冷静な自分を取り戻すように努めている。はちきれんばかりの僕の気持ちを受け止めてほしいと僕は願う。そうすれば、少しは僕の心に余裕ができて、みんなから普通の人間のように扱われるかもしれなくて、僕はこうして今パソコンに向かいながら、君への思いを綴っているところである。

 と言うような内容のメールが来て僕は困っていた。しかも、仕事用のメールアカウントに来ていて、たしかに僕の彼女は栗毛というほどではないが髪の毛の色は茶髪だし、なにをどう間違ってこのメールの送り主は僕に送ってきたのかわからない。彼女のいる僕に対して嫉妬をしているのか、それとも僕の彼女が好きな男なのか、さっぱり判別ができないのである。もう一度メールの送り主のところを見ても知らないアドレスからだし、同じ職場の人なら送り主のところに名前が入っているはずなのだが、そうでもないらしい。じゃあ、このメールの送り主を捜さなくてはなんてことをやっている時間なんて僕にはなくって、ただメールの文面を見て気持ち悪いと思うことしかできなくて、このメールの作者はきっと心が病んでいるに違いないと思ってしまう。一体、このメールの作者はなにがしたいんだろう「小説」と言う単語が出てきているが、これが「小説」のように感じられないし、これは深夜に書いたラブレターみたいにどこか自己陶酔しているように感じられるから、この内容は非常に気持ち悪いものになっているように思える。そんなことを考えていると、チームのリーダーがやってきて、ホームページのバナーを書き換えてください、と仕事を僕に与えてさっていった。僕もこんなメールにかまっていられないので、無かったかのように仕事を始める。しかし、頭の片隅にはメールのことがあって僕は仕事をしている最中も奇妙な「小説」のことにとりつかれていた。帰りの電車でもあの「小説」はなんだったんだろうと頭の中を旋回して危うく自宅の最寄りの駅を乗り過ごすだった。歩いている最中も同じようなことを考えていたし、家の周りのちょっと迂回して帰ってみたいなんかなんかして、あの「小説」もしくはメールのことについて思い当たる節を探ってみるが、決して僕には見に覚えのないメールだし、来週にでも会社の人に尋ねてみるかと結論をだして自宅のマンションに帰る。自分の部屋の前で気づいたが、部屋に明かりがついていて、今日は彼女が来ている日なんだと思い出す。いつもより遅く帰ってきてしまってもうしわけないななんて思うけど、仕事だったって言えば問題ないかって楽観的に思う。ドアを開けるなり、ただいま、と普段言わない挨拶を言ってみてとっても気持ちがすがすがしい気持ちになって、それを聞いた彼女も、おかえりなさい、っていうから新婚みたいでおもしろくなって来ちゃって、ごめん、遅くなって、仕事が溜まっていたんだ、と彼女を妻に見立てて言ってみたら、あら、大変だったわね、ご飯にします? お風呂にします? それとも、ワ、タ、シ? と訊いてくるくるから、お前もいいけど、今はご飯が食べたいと正直な気持ちの述べたら、はいはい、と彼女は素面になってつまらなそうにキッチンに戻って行った。寂しい気持ちになって、そんなに彼女のことを傷つけたかなと思ってしまう。彼女が作っていたのカレーで玄関からでもにおいで解る。ご飯食べるときに彼女に今日のメールの話でもしようと思う。考えてみれば職場の人に対してもメールの話をしていないことに気づく。きっと彼女も驚くし、気持ち悪いって言うかもしれない。そうだ、彼女に話すのもいいけど、おもしろそうだから職場の同僚にも今日のメールを転送してやろう。幸いというか一応の為に気持ち悪い「小説」はスマホに送っておいた。なんて反応がくるだろう楽しみだ。

 メールが来た。長くて読むのが面倒くさいけども、最後まで読んだ自分を誉めたくなった。前半は気持ち悪いラブレターで、後半はなんか普通の人にメールが誤って届いてしまったと言うことだった。そして、僕にもそのメールが来てしまった。なんなのだろう、これは負の連鎖なのだろうか。結論から言ってしまえば、僕の書いたメールは誰かに間違って送信されて、誰かに読まれてしまう。そういう悲しい顛末をたどることになるのだろう。僕はそのスパイラルから抜け出すべく、メールをいっさい送ることをしなくなった。幸い世の中には別の方法で連絡がとれるからだ。つまり、LINEってヤツで人とコンタクトがとれるからだ。
『今、なにしてるの?』
『寝てた。どうしたの?』
『変なメールが来て困ってるんだよ。なんか、気持ち悪い、自分の書いた文章のことを「小説」って言うラブレターみたいなメールと、会社員がそのメールを受け取って彼女に話すっていう内容のメールが一つのメールになって来たんだよ』
『大変そうだね』
『大変なんだよ。だから、メールを使っちゃうと、自分の書いたメールも人に読まれちゃうから、しばらくの間メールは使わない。ってか、使ってないし』
『今度、飲みに行ったときにそのメール見せてよ』
『いいよ』
『そろそろ寝るわ、今日バイトがあって、疲れたから、もう無理』
『おやすみ』
『おやすみ』
 話す相手がいなくなってしまった。今日は、僕は昼まで寝ていて、大学に行って一コマだけ授業を受けて、一人でだらだら繁華街歩いて、ゲーセン行って、メールが来て、変なメールだなと思って、今に至る。だれかにこのメールの仕組みを話したい。誤送信される仕組みはわからないけど、きっとなにかしらの打開策があるはずだと考えてみる。

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