おやすみ青い自転車

自転車が壊れた。次にどこかが壊れたら買い替えようと前々から決めていたので、部品の交換等は考えず、今日は歩いて帰ってきた。会社に置いておいた方が新車購入時に回収してもらうのに便利だからだ。

この青い自転車は高円寺に会社があった頃に会社の近所の自転車屋で買った。錆と汚れでいっぱいになるまでに、だいたい8年くらい乗った計算になる。高円寺の頃は毎日20キロ、今は毎日10キロの道のりだから、通算で何キロくらい乗っただろう。3万キロくらいはいっているだろうか。地球の円周の75パーセントにもなるわけで、計算が間違ってないか不安になるくらいのすごい距離だ。

最後の3年はあちこちにガタが来ていたから、修理したり部品をとっかえたり、だましだまし乗り続けてきた感がある。サスペンションが効かなくなりチェーンが緩み始めてさすがにもうダメだろうと思ってからも1年くらい乗った。買い替えるのが面倒だったというのもあるが、やはり愛着があったのだろう。

自転車なんて、毎日毎日熱心に乗ったところで何も得るものはない。運転技術が向上するわけでもないし、いつの間にかすごいスピードが出せるようになるわけでもないし、車と車の間を風のようにすり抜ける勘が育まれるわけでもない。変わり映えしない日常の象徴でもある。もっと早く買い替えても良かったんじゃないかと思う。

その一方で、修理してもう少し乗ってもいいんじゃないかとも思えてくるから困ったものだ。そんな気持ちになるだろうと見越した上で、「次は買い替える」と決めていたので、その通りにしたい。

数日前に買ったCDをイヤフォンで聴きながら、いつもの夜道を歩いていたら、徐々に雨が降り出した。あの青い自転車は今、会社の前にあって、もう自宅に戻ってくることはない。そして明日、会社の前で僕が見るのは、もう動かない自転車なのだと、雨に濡れながら思った。