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コンセント制度の導入~登録可能な商標の拡充~

編著者:King&Wood Mallesons法律事務所・外国法共同事業
弁護士 山﨑俊吾(東京弁護士会所属)


1. はじめに

2023年6月14日、「不正競争防止法等の一部を改正する法律(令和5年法律第51号)」(以下「改正法」といいます。)が公布され、商標法(昭和34年法律第127号)の改正により、コンセント制度が導入されました。この法律のうち、コンセント制度に関する規定は、2023年6月14日から起算して1年以内に施行されます。

2. コンセント制度とは

「コンセント制度」とは、他人の先行登録商標と同一又は類似の商標が出願された場合であっても、当該先行登録商標の権利者による同意があれば両商標の併存登録を認める制度のことをいいます。 

3. コンセント制度がなぜ導入されるのか

(1) 背景

日本の商標制度においては、これまで、先願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものは、商標登録を受けることができないとされていました(商標法第4条第1項第11号)。

そのため、審査官から本規定に基づく拒絶理由が通知された場合、

①引用商標(拒絶理由に引用された先願に係る他人の登録商標)と抵触する指定商品・役務の削除(手続補正書の提出)

を検討します。しかし、この対応が不可能な場合には、

②引用商標と出願商標とが非類似である旨の主張(意見書の提出)

③引用商標権者との譲渡交渉又はアサインバック(先行商標の商標権者に権利譲渡をし、その後、再度の権利譲渡を受ける等の手法のこと)

④引用商標に対する不使用取消審判等

を検討・選択することになります。

もっとも、②~④については、書類の作成や権利の移転等に一定の金銭的・時間的コストが必要になります。なお、特に引用商標権者が出願人との関係で両商標の併存登録を許容するような場合には、③アサインバックが利用されていました。 

そのため、ユーザーからは、より簡便、低廉な選択肢になり得るとして、引用商標権者の同意による4条1項11号の適用除外制度、いわゆるコンセント制度の導入が求められていました。

(2) コンセント制度導入が導入されず、運用面での対応

しかし、同一・類似商標が併存登録されることによる出所混同のおそれなどの理由から、これまでコンセント制度は導入されず、運用面による対応がされていました。
具体的には、商標審査基準に、

①商品・役務の類似判断における取引の実情の考慮や、

②出願人と引用商標権者の支配関係の考慮

に関する規定が導入され、平成29年(2017年)4月から運用が開始されています。導入から5年間で、利用件数はそれぞれ①が1件で、②が500件程度あったようです。 

*上記規定の導入は、特許庁HPの商標審査基準・第3の十(第4条第1項第11号)(商標審査基準 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp))。

(3) コンセント制度導入

もっとも、この審査基準の取扱いは、ユーザーにとって利用しにくい場面があり、また、多くの諸外国においてはコンセント制度が存在し、グローバルなコンセント(併存同意)契約を結ぶこともある中、日本で同様の手続が出来ないことが、特に海外ユーザーにとって日本での商標登録の障壁となっているとの指摘がされました。

一方で、ユーザーのコンセント制度導入を求めているのは商標制度を利用している権利者や商標権を取得しようとしている者であって、需要者の意見が反映されていないとの見解がありました。

そこで、コンセント制度導入にあたっては、先行登録商標の権利者による同意があっても、なお出所混同のおそれがある場合には登録を認めない「留保型コンセント制度」が採用されました。これにより、登録時に出所混同のおそれを審査するとともに、登録後においては、混同防止表示の請求、不正使用取消審判の請求を可能にすることで、需要者の利益の保護を担保することができると整理されました。

  • 留保型コンセント:商標権者の同意があったとしても、なお出所混同のおそれがあると判断される場合には登録できない。米国等、多くの国・地域で採用。

  • 完全型コンセント:他人の先願登録商標と類似する商標が出願された際に、当該他人(商標権者)の同意があれば、更なる審査を経ずに登録を認めるもの。

  • 国・地域のコンセント制度については、第9回商標制度小委員会の配布資料(05.pdf (jpo.go.jp))の11頁・12頁。

なお、コンセント制度の関係では、商標法第4条第4項、並びに第8条第1項但書、同条第2項但書及び同条5項但書が追加されています。

(4) 不正競争防止法の適用除外規定の新設

コンセント制度の導入に伴い、不正競争防止法との調整も図られることになりました。

そもそも、不正競争防止法第3条は、例えば、「不正競争」によって営業上の利益を侵害されている者は、その侵害者に対して差止請求を行うことができると規定しています。そして、その前提として、同法第2条は「不正競争」に関して様々な類型を掲げ、商標について周知性と著名性に着目し、

①周知表示混同惹起
他人の商品・営業の表示(商品等表示)として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為

②著名表示冒用行為
他人の商品・営業の表示(商品等表示)として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為

という2つの類型を設けています。

*経済産業省は不正競争防止法に関するホームページ(不正競争防止法 (METI/経済産業省))を作成しており、そのうち不正競争防止法テキスト16頁~21頁は上記①及び②に関する内容です。

コンセント制度が上述のとおり導入されると、今後は、商標や商品・役務が同一・類似の先行登録商標と後行登録商標の2つが併存しえます。このうち、一方の商標が周知性又は著名性を有するに至った場合、形式的には、周知性又は著名性を有するに至った商標権者が他方の商標権者に対し、不正競争防止法に基づく差止請求等を行うことができることになります。

もっとも、このような差止請求等を認めると、コンセント制度の利用が阻害される可能性があります。

そのため、改正法下では、コンセント制度により登録された商標について、不正の目的でなくその商標を使用する行為等を不正競争として扱わないこととされました(改正不正競争防止法第19条第1項第3号)。

一方で、いずれかの商標権者が不正競争の目的を持って出所混同を生じさせる使用をした結果、 現実に出所の混同が生じている場合には、 需要者の利益の保護を担保する必要があります。そのため、この場合、混同防止表示の請求が可能とされました(同法第2項第2号)。 

4. コメント

コンセント制度の導入により、今後は併存同意契約を締結する機会が増えることが見込まれます。その際は、明確性の観点から、契約書の条項において、登録・使用を認める商標、使用商品・役務、使用国、商標登録同意文言など明示的に記載することが重要になります。各事業者におかれては、この点にご注意ください。


【参考情報】

1.関連議事録及び報告書

産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会の議事要旨や議事録は、以下のリンク先で参照することができます。

* 産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

このリンク先の開催された小委員会うち、以下がコンセント制度導入に関するものです。

  • 第9回(令和4年9月29日)  ※議事(4) コンセント制度の導入について

  • 第10回(令和4年11月22日) ※議事(2) コンセント制度の導入について

  • 第11回(令和4年12月23日) ※報告書案の提示

そして、議論の結果が、令和5年3月10日に「商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて」と題する報告書(02.pdf (jpo.go.jp))として公表されました。

2.改正法に関する資料

不正競争防止法等の一部を改正する法律(令和5年6月14日法律第51号)に関する資料は、以下のリンク先に掲載されています。

不正競争防止法等の一部を改正する法律(令和5年6月14日法律第51号) | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp) 

※本記事の各リンクは2023年8月25日現在のものです。


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