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ひめキャット

我が家へ遊びに来た妻の友だち、本業は現役の地下アイドルだったとか。
その彼女の髪形を「姫カット」というのだと教えてもらったのは、それから数日後のことである。

ところで我が家には、2匹の猫がいる。
べっ甲のレヴィ(♀)と、茶シロのコタ(♂)である。

世には「姫カット」なる髪型もあれば、ひめキャットなる猫もいる。
まったくレヴィなどは、その典型であろう。

そもそもは妻の実家で庭先に遊びに来ていた野良だった。
目が合って、飛びついてきたので、そのまま連れて帰ってきた。

私には、はじめての飼い猫である。
動物病院の、先生のお見立ては連れ帰った当時で生後6か月というところ。
まだ年明け間もないころだった。

猫は生後1年のうちに、人間でいう17歳くらいまで成長すると聞く。
つまり彼女はティーンエイジャーのはしり、思考する生きものが行動理念を形成する大切な時期を、はじめて猫なる生きものを育てることになった40歳過ぎのおじさんの思いを一身に受けたのだ。

ご想像を願えるだろうか。
生まれて半年というモフモフが、つぶらな瞳で見上げてくるのだ。
まったく疑いもせず信じてついてくるのだ。

妻曰く、甘やかしにもほどがあるというくらいの甘やかしだったという。

かくてレヴィという孤高のプリンセスは育まれた。

元野良猫とは思えないが、「気に入らなければ食べない」という選択肢すら彼女は有している。まず、おさかな系は食べようとしない。
そもそもの好みというより、野良のころに何かあったのかもしれないくらい寄りつきもしない。とにかく食べない。
Ciaoチュールですらマグロやカツオには見向きもしない。

ウェットもお好みではないようで、専らカリカリ派である。

遊ぶときも基本は One on one だ。
横からコタが飛び込んでくると、途端ぷいといなくなる。
そのまま、どこかに隠れる。
探して見つけて抱き上げるまで、自分から出てこようとしない。

今のところ1つしかないキャットタワーの最上段は、コタのお気に入りだ。
あっさり譲りこそすれどレヴィも高いところが大好きである。

いろいろと試して開拓するのだが、レヴィも4つ足、コタも4つ足である。
見よう見まねで追っ付け攻略されてしまう。

今やレヴィが悠々自適に過ごせる高さのある場所は、ひとつきりとなった。

私の肩の上である。

飛びのって、肩から肩で香箱すら組む。
なかなかに重たい。

なかなか肩から降りない事も多い。
ピンと前足をのばして、そのまま肩に居座る。
燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、という素振りでおすまし顔だ。
40過ぎのおじさんにはわからない志があるのだろう。

「重いなぁ」などと言いつつ私はニヤニヤしている。
足元でコタが「にあにあ」と鳴く。

そのうちヤレヤレとでも言うようにレヴィが私の足元に飛び降りる。
コタが飛びかかって、足元で運動会がはじまる。

本気遊びになってきて、巻き込まれた足元が蹴られ引っかかれ大変痛い。

いつの間にか「やれやれ!」と妻があおる。

今日も平和な楽しい我が家である。