日蓮大聖人の言葉3『千日尼御前御返事』せんにちあまごぜんごへんじ


日蓮はうけがたくして人身をうけ、値いがたくして仏法に値い奉る。一切の仏法の中に、法華経に値いまいらせて候。其の恩徳ををもへば、父母の恩・国主の恩・一切衆生の恩なり。父母の恩の中に、慈父をば天に譬え、悲母をば大地に譬えたり。いづれもわけがたし。其の中、悲母の大恩ことにほうじがたし。             

 弘安元年(1278)執筆
『昭和定本日蓮聖人遺文』1542頁

(訳)

わたし日蓮は、いま受けることの難しい人間としての身を受けました。そのうえに、値うことの難しい仏法に値い奉ることができました。そして、すべての仏法の中でも、最も優れた教えといわれる『法華経』に値うことができたのです。そのような恩徳(仏さまが人々を救うために垂れる恵のこと)を思えば、それは、父母の恩・国主の恩・すべての衆生の恩であります。父母の恩については、思いやりのある優しい父親を天にたとえ、情けの深い母親を大地にたとえ、父母のどちらも分けへだてすることはできません。ですが、その中でも特に慈悲の深い母親の大恩は、ことに報いがたいものであります。


(解説)

弘安元年(1278)、日蓮聖人が57歳の時に身延山(現在の山梨県南巨摩郡)で執筆されたもので、檀越(信者)であった「千日尼」という女性信者へ宛てられました。千日尼は、佐渡(新潟県)の阿仏房日得上人の妻であります。
 このお手紙は、夫である阿仏房が身延にいる日蓮聖人を訪ねて来た際に持参した千日尼筆の手紙に対する返書です。この時、阿仏房は三回目の身延参詣です。千日尼は、自身の父親の十三回忌追善のために御布施一貫文を届け、さらに女人成仏についても尋ねました。日蓮聖人は、御布施のお礼と同時に、成仏に関する重要な法門を伝えられたのです。また、法華経は如何なる経であるのか、如何なる仏の説かれたものかを述べ、釈尊一代聖教(お釈迦さまの一生涯で説かれた教え)の中で最重要であり、法華経によってすべての者が成仏できることを明かしています。





(思うところ) 

取り上げた部分では、日蓮聖人が、いま受けることの難しい人間としての身を受け、また、値うことの難しい仏法に値うことができ、さらには、すべての仏法の中でも最も優れた『法華経』に値うことができたという悦びをあらわしています。それは、父母・国主・衆生の恩に因るものですが、とくに父母の恩、そして母親の恩が説かれています。日蓮聖人のお言葉ではありますが、私たち一人一人も同様の思いを持つべきでありましょう。私たちは皆、母親から産まれました。人間としての生命を受けたことに感謝するとともに、母への報恩のまことを捧げることも忘れてはなりません。「お母さん 私を産んでくれてありがとう!」と伝えずにはいられません。 

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