神の視点で「シルバニアファミリー」を作ったら。  振付・演出家 菅沼伊万里インタビュー vol.3

私たちが振付師に求めるものは、「ダンスを作ること」だけではないのかもしれない。振付・演出家の菅沼伊万里(Imari Suganuma)の活動を見ていると、そんなことに気づかされる。

音楽やファッション、映像や漫画にいたるまで、あらゆる表現を愛してきた彼女にとって、ダンスは「表現手段の一つ」。自身が主宰するThe Bambiest(ザ・バンビエスト)の公演では、あえて動きにくい衣装やウィッグも積極的に取り入れる。「衣装だけではなく、振付や音楽の解釈など全部が、おしゃれかそうじゃないかで判断している」と言い切る潔さには驚かされるばかりだ。

第一弾第二弾に続く今回のインタビューでは、新作公演の意外なテーマについて明かしてくれた。

>ご自身のダンスカンパニー(The Bambiest)を創設した理由は?

「日本人ってキャラクターがすごく好きなんですよ。キティちゃんとかマイメロディとか。つまり振付専門よりも、振付もするし、主宰もするし、主役もするし、っていう人が一番売れるんです。フィーチャーしやすいからでしょうね。でもその人たちがなぜ自分たちのカンパニーを出すかっていうと、他所で踊っていた時にたぶん欲求不満になったから。自分が主人公で気持ちいい振付、照明、メンバーが揃う団体を作るんです。もちろん全員ではないですけど…(笑)

でも私は全然そういう発想じゃなくて、なんていうか『シルバニアファミリー』なんですよね。小学校の時から大好きで、クマがいてウサギがいて、パン屋さんのドアのところには『バイト募集』って書いた紙を貼って…みたいな(笑)そういう街づくりが、ジオラマ的に大好きなんです。だからそこで自分はクマにもウサギにもならず、神になっているんです(笑)私は『自分が主役!』のカンパニーじゃなくて、『シルバニアファミリー』を擬人化するっていう計画(笑)

あとやっぱり自分が出演しちゃうと作品を見られないから。自分で作った、完成した絵を見たいんです。だから本番前日の場当たり(照明やダンサーの立ち位置を舞台上で作ること)が一番のエクスタシー。完成一歩前の作品を客席の真ん中で見られることが、一番のご褒美なんです」

>次に控えている公演について教えてください。

「元ハンブルグバレエ団のソリストである大石裕香さんのソロ(レパートリー)の振り付けをします(7月17日 NHK大阪ホール)。セルゲイ・ポルーニンの演出と振付もやっている世界的なダンサーさん。自分も今まで、あらゆる場所で振付や制作はしてきたけど、大きなステージでソロ作品を作ったことはなかったので、『なんで私なんかにオファーしたの!?』って感じ(笑)

でも裕香さんは、自分の近しい振付家よりも、何が出るか分からない私に『トライしてみたかった』って言ってくださった。裕香さん自身も新鮮さや挑戦を求めていたんだと思います。とはいえ、なんていう博打を…(笑)」

>ソロのレパートリーを手がけるのは初めてですか?

「ソロ自体は以前、バンビ作品で作ったことはありますけど、(ダンスは)私にとっては『シルバニアファミリー』なので、4人以上のダンサーの作品がより好きなんです。中の一人が動くことによって何か化学反応が起きるっていうのが好きで。ぶっちゃけ一人だと、構成も構図も限界があるので(笑)だから今まではソロにそんなに興味がなくて、自分では作ろうと思わなかった。

しかもオファーが来たのが3ヶ月前。さらに彼女がとても忙しい人だから、日本にいないんですよ。一緒に制作をするっていう感じではないから、一番プレッシャーだったのはそこかもしれないですね。本来ならコンセプトから始めるなら半年は欲しいんですけど、3ヶ月となると、本当にあらゆる仕事とプライベートをストップさせて…それでもコンセプトの『降臨』が間に合わないかもなんです。で、そういう時に限って、アイドルのワンマン(ライブ)がダブルで直前に入るわけで(笑)

5月に入っても何も浮かばなくて、アイドルの振り作りしてるからますます『降臨』しない…。そんな中、ローザス(=ベルギーのダンスカンパニー)の来日公演『A Love Supreme〜至上の愛』を観に行って『あ! そうか、そうだそうだ』って、作り方というか、『降臨』の仕方を思い出してそこから覚醒して(笑)(ローザス主宰のアンヌ・テレサ・ドゥ・)ケースマイケルに感謝です」

>実際に大石裕香さんとリハーサルをやってみた感触は?

「リハーサルの初日まで、それでもまだほぼ『無』の状態で追い込まれていたんです。でも始めてみたら、さわりを踊ってもらっただけで『これは今まで経験したことのない、世界レベルのダンサーだ!』って思いました。彼女が立ってるだけで(場が)もっちゃうんですよね、30秒とか。ずっと立たせたくなっちゃう。彼女の眼差しの先に観客2,000人が見えたんです。油断したら飲み込まれちゃうような、ビリビリした迫力でした。

だから『NHKホールのステージを自分の振付で埋めなきゃいけない』っていうプレッシャーはとんでもない勘違いで。たとえ振付がすごいシンプルでも、一流のダンサーによってすべて名作になってしまうんだなって感じて。『じゃあ私、何を作ってもいいんだ』って不必要な肩の力が抜けたかな。もうちょっと彼女を信用して委ねて、もっと自由に作ってもみてもいいかも?って」

>今回は「シルバニアファミリー」ではない作品になりますね。

「今回は、もっと自分のことを投影した作品になりました。だから珍しくダークです。自分が30代後半を迎えていくにつれ、やっぱり20代の時ほどジャンプもできないし、積雪のように身体の重さが積もっていく。例えば10年前に振付けていた自分の振りを復習でやってみると、もうすごくハードでできないんですよ。

『ダンサーじゃないから大丈夫だろ』って思う人がほとんどだと思うんですけど、やっぱり身体が動かなくなっていくと、振付の発想自体もちっちゃく、収まり良くなっていっちゃう。それってたぶん彫刻家とかも一緒だと思うんですけど、昔は荒削りでもダイナミックだけど、だんだん洗練はされていくけど、おとなしくなっていくっていう。だからそれに歯向かうような、抑圧に対して抵抗することで重力を感じたりするような作品にしたいなーと思って」

>ご自身の体験や思いが元になっているんですね。

「タイトルは『群青の家』、仏題が『メゾン・ド・アジュール』。夕焼けと暗闇の間のブルーのことです。夕焼けがダンサーの一番美しい時期で、漆黒が本当に身体が動かなくなる時っていうイメージ。日が落ちて、もうあとは漆黒(引退)しか残ってないんだけど、でもその前のブルー、実は夕焼けより美しいよね?っていう…。現在の自分のダンスに対する立場とか環境とか、思いとか、そういうすごくプライベートな内面をテーマにした作品。

彼女は私より6〜7歳年下なので、これからそれを感じるんだろうな。そうやって年をとりながら作品に向かい合うっていうコンセプトも面白いかな、と。だから1年経つごとに、照明のブルーを濃くしてもらおうかなと思って。時が経つほどに作品の色が紺碧から群青になっていくのもいいなと。今回は大阪で初演ですが、今後彼女のレパートリーとして世界の何処かで作品が一人歩きします。東京に来る日いつなんでしょうね…?(笑)」

〈公演情報〉
7月17日(水)18:30〜 NHK大阪ホール
Dance at the Gathering 2019(ダンス・アット・ザ・ギャザリング)
ローザンヌ国際バレエコンクール出演者達の祭典

出演:大石裕香(ハンブルグバレエ団 元ソリスト/ 振付家)ほか

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切島カイリ

ライター、編集/フリーランス/東京在住/セントラル・セント・マーチンズ卒/ファッション業界をうろつく猫。twitter: @KirishimaKylie 安心は好きだけれど、退屈は嫌いなの。©Kylie Kirishima. All Rights Reserved.

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