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「いいことも大変なことも、すべてに感動する」 フローリスト・高本恵子インタビュー

芦屋colléにて開催された「アヴィニョンのりゅう」の作品展およびフラワーデモンストレーションを拝見してきました。主宰の高本恵子(Keiko Komoto)さんはパリ・ホテル・リッツにて花装飾のスタージュ後、パリで活躍するトップフローリストに師事された方。現在は、芦屋・神戸を中心にフレッシュフラワー、プリザーブドフラワー、アーティフィシャルフラワーのレッスンを展開されています。

実は『花屋日記』に登場する「先生」は、この方がモデルになっています。今回は『花屋日記』の番外編として、高本先生の特別インタビューをお届けします。

>作品のインスピレーションとなるものは?

自分が今まで見てきたものや、感じたこと、経験したところからしかデザインは生まれません。だから普段から(窓の外を見て)例えばあの道端に植わっているローズマリーの枝ぶりを見たり。映画のワンシーンで部屋のインテリアなどを見たときに「この色の感じが綺麗」と思ったら、もうちょっと深く見るようにしたりしています。その色合いや、色の割合を覚えておくと、いざデザイン画を描かなきゃいけないというときにそういうものが出てくるんです。もちろんスマートフォンに写真なども入れていますが「どうしようかなあ」と迷った時は、そういうことを思い起こしていますね。

>フローリストになられたきっかけは?

私は大学を卒業後、普通にOLをしていました。別にやりたい仕事でもなく、とにかく就職をしなきゃいけないから就職をして。でも一年が経ったときに友達が「仕事にも慣れてきたし、何か習い事を一緒にしてみない?」と誘ってくれて、一番最初にたまたま行ったのがお花の体験レッスンだったんです。こんなこと言ったらアレですけど、私よりお花が好きな人なんてたくさんいるし、どちらかと言うとそんなにお花が好きなタイプの人間ではなかったんです。それでもお花を触ったとき、自分の胸のあたりが突き動かされるみたいな感じがあって。今まで経験したことがないような衝撃だったんです。

それでもっとお花を触りたいと思って、OLを続けながら近所のお花屋さんに習いに行って、資格が取れる大阪の学校にも行き始めました。とにかく私の中でお花に出会ったことは、人生の中で一番の驚きと感動。今こうしてお仕事になってますし、自分の人生が変わったというか、何かすごいことでした。

転職や結婚をした時もそうですけど、自分が気になることはやってみないと気が済まないという性分は、ちょっとあるかもしれないですね。でもありがたいことに、それでものすごく後悔したことは今のところなく。就職したことも無駄だったかと思いきや、次の仕事に生かされたことがたくさんあったりもしたので。

よく言うじゃないですか、「人生に無駄なことは一つもありません」とか。でもこういう経験をすると、それがよく分かります。そう意味では前向きになりますよね、しんどいことも「きっとこれは意味のあることなんだ」と思えるので。

>お花のレッスンで大事にされていることは?

生徒さんによって、何を求めて私のレッスンに来られているかという目的が違うと思っています。とにかく上手くなりたい人や、生活の中に飾る花を楽しく触りたい人など、それぞれの目的に合わせてお伝えする仕方をちょっと変えたり、テクニック的なアドバイスを制限したりします。ただ、お花の作品に「正解」はありません。「綺麗」とか「上手い」というだけじゃなくて、自分自身の内面から滲み出るものってあるじゃないですか。そういうところをもっと自由に表現してもいいと思っています。なのでお花に触れていることで自分を解放できるように、その生徒さんのペースに合わせて、その人らしい作品が作れるような雰囲気に持っていっているつもりです。

「楽しくお花を束ねたい」とか「誰かに私の作ったものをプレゼントしたい」とかそういうモチベーションから、もっとお花を触ったり、お花を贈ったりする人が増えることの方が大事だと思っているので。自分一人では発信力はほんのちょっとですが、通ってくださる生徒さん一人ひとりにそういう風な気持ちになってもらえる方が影響力が大きいですし、気持ちよくお花を触れるようなレッスンになるようにしているつもりです。

>お花に感動するのはどんなときですか?

お花を通して、その相手に何かが伝わったような瞬間でしょうか。自分がデザインしたお花を誰かが見て喜んでくださったり、生徒さんが「癒された」とおっしゃって、レッスンに来られたときとまったく違う表情で帰って行かれるのを見た時とか。
もちろん、例えばこのイタリアのミモザを見て「今の時期にしかないし、やっぱりこのフワフワ、いいな」みたいな感じはありますが。年々お花だけではなくて、それに関わってくるいろんな人や、それにまつわるエピソードに感動します。舞台裏では大変な現場もありますし、ピンチの時もありますが、そういうときに一緒に手伝ってくれる人たちに支えられて「できた!」っていうときとか、すべてかな。いいことも大変なことも、すべてですね。

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