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「どの作品にもふわっと死の香りがする」華道家・片桐功敦インタビュー vol.1

花道みささぎ流家元・片桐功敦(Atsunobu Katagiri)の個展「FLOWERS AND THE AFTER」が2019年3月9日(土)まで、大阪のGALLERY DE ROOM 702にて開催中だ。この展覧会では、未発表のいけばな作品写真と新作写真の展示を中心に、いけばなのインスタレーションも発表される。

まず驚かされるのが、そのエントランス。古びた扉のある黒いビルの扉をドキドキしながら開けると、巨大なゾウやシャンデリア、石膏像などが目に飛び込んでくる。1階部分はアンティークショップになっており、スタッフに促されて奥の階段を登りきると、やっと2階にギャラリースペースが現れる。そのドラマティックな演出は、この会場ならではだ。


>外観からは想像できないような空間ですね!

すごいでしょう? 僕も最初、お店の方から「一回来てください」って言われて来て、びっくりしたよね(笑)それで「面白いお店だな」と。センスもすごく好きだった。二階のギャラリーはわりとフラットなスペースで、もともと鐵工所だったらしくて、その時の設備がそのまま残ってるんです。

>キービジュアルとなった、猫とかすみ草の作品について。

お店のオーナーからオファーがあって、それで「会期が長いから、写真作品を出させてもらっていいですか?」ということになりました。オーナーがこの写真をすごく好きで、それをどうしても使いたいと言われて。これは実際、自分の飼っていた猫がたまたま、かすみ草の撮影をした翌日に死んだんです。

もともとうちの弟(※『ルームロンダリング』の映画監督・片桐健滋)が飼っていた猫なんですけど、東京に引っ越すときにに引き取って三年くらい面倒をみてたのかな。それでちょうど人が来ているときに、みんなでご飯を食べていたら(猫の)具合が悪くなってきて、膝の上に抱いたら30分くらいで…。それでかすみ草が家に大量にあったんでね、ちょっと遺影じゃないけど、うちの弟にも「死んだよ」って連絡したかったし、写真一枚撮ろうと思って。

>華道家として写真を撮り始めたきっかけは?

僕、津田くん(※活動を多く共にしてきた写真家の津田直)が写真を撮るのをずっと横について見てたから、なんとなく「こうやったら撮れるんだろうな」みたいなのは分かってたんだけど、彼はフィルムの人でしょう? だから最初はフィルムカメラを買って撮ってたんだけど、フィルムカメラって自分が撮ったものを現像しないと見えないじゃないですか(笑)「これは無理だ、向いてない」と思って、安い一眼レフのカメラを6年くらい前に買って、いろいろ試行錯誤をしながら、だんだん自分なりに自分で生けた花を撮れるようになってきて。そうこうしているうちに「福島の方に来ませんか?」というオファーがあって。行くからには写真をちゃんと撮っておきたいなと思って、そのときに初めてちゃんとしたプロ仕様の一眼レフを買ったんです。

>タイトル「FLOWERS AND THE AFTER」に込められた意味。

自分が写真をやり始めた頃に撮った作品をすごく久しぶりに引っ張り出してきて「何を考えて撮っていたのかなあ」とか思い出したら、やっぱり花を生けているけど、どれもなんかこう、ふわっと死の香りがするというか。もともとこういう死にかけ(の花)とか、その瀬戸際のあたりのことが好きなんだな、というのがよく分かって。それで「FLOWERS AND THE AFTER」っていうタイトルにしました。花の枯れた姿とか、生のあとに死があることとか。もし今、栄えているものがあったらそれは必ずいつかはなくなるだろうし、そういうことにかけて「THE AFTER」という言葉がぴったりかなあと思って。

花を生ける仕事をまっとうにやっていたら、どうしても枯れることや腐ることが気になるはずだと思うんですよね。切ったらすぐに枯れるし、生け替えないとだめだし「なんて大変な仕事なんだ!」と思ったけど(苦笑)でもそれが仕事のほぼ中心にあるから。

>鎮魂の花を、ご自身の使命とされているところはありますか?

親父も飛行機事故で亡くなっているので、うちの母親はずっと(そういった活動を)やっていましたね。あそこの山(※御巣鷹山)も今でこそ、すごく綺麗に再生されていますけど、当時はまあまあエグかったですからね…。でもね、みんなお墓参りに行くときに花を持って行くっていうのと一緒で、お花を生けるっていう行為と、人の死んだ場所っていうのが相性がいいんですよ、たぶん。僕はたまたまそれを生業としているから、ただ自分のできる限り、やっているだけだと思うんです。

インタビューVol.2に続く〉

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